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『KAMARI 〜侍ウェスタン〜』第1話

■週刊少年マガジン原作大賞 参加作品■

第1話シナリオ

❶…草原・列車強盗…❶【序章】

アメリカの草原・夕方
夕日を背に黒煙を上げ疾走する機関車。
鼻歌を歌う運転士。
副運転士に話しかける。
  運転士「フンフフフン〜♪
      オイ、今度の休暇、
      どうするつもりだ?」
 副運転士「酒に女も芸がないしな
      あんたはどうする?」
  運転士「そうさなぁ……
      今の時期ならマス釣りで
      のんび……ん?」

カーブを曲がり視界が開けると、レールの上に置かれた丸太や岩。
  運転士「な…なんだありゃあッ!」
 副運転士「脱線するぞ!」
慌ててブレーキレバーを思い切り引く運転士。
  運転士「くぅうううう……ラァ!」
火花を散らして軋む鉄輪。

ぶつかる直前でなんとか停車。
 副運転士「ふぅう〜……
      誰がこんな悪戯を!」
レールの脇の木影からズラッと姿を表す人間たち。50人以上。
手には拳銃やライフルを持ち、カウボーイ帽にスカーフで顔を隠す。黒人や、ネイティブアメリカンが数多く含まれている。
 副運転士「ヒィッ!」
  運転士「れ、列車強盗!?」
    男「ビンゴォ〜!」
 副運転士「誰だ!?」

パチパチ拍手をしながら、武装した連中の中から登場する小柄な男。
汚れた感じの羽織袴。
脚が悪いのか、杖をついている。
    男「手荒なことはしたくない、
      おとなしく輸送中の金塊と
      紙幣を出してもらおうか」
鍔広のカウボーイ帽子を取った男、二十代後半の東洋人。
小柄で総髪。
  運転士「……インディアン?」

いきなり杖で運転手をバシッと殴りつける東洋人。
  運転士「グワワァアア……」
  カマリ「俺の名は〝カマリ〟だ、
      先住民【インディアン】でも
      チャイニーズでもねぇ!」
殴られた耳から出血し、痛みで絶叫する運転士。(※ネイティブアメリカンの表記については、校閲の指示に従う)

カマリと名乗った男、左手を運転士の眼球の前につき出す。
人差し指と中指が欠損し、代わりに鉄製の義指が。
  カマリ「この指はオマエら
      白人に奪われたんだ」
  カマリ「代わりにアンタの眼ん玉を
      頂いてもいいんだぜぇ〜?
      ハンムラビ法典には従わんぞ」

副運転士、壁にかけた拳銃のホルスターにチラと視線を送る。
 副運転士「んの野郎ぉ〜ッ!」
カマリの部下に体当たりを食らわせ拳銃に手を伸ばす副運転士。
右手が銃に届きそうになった瞬間、革製のホルスターにカシッ!と突き刺さる十字手裏剣。
 副運転士「ヒィ……」

運転士に義指を突きつけたまま、背中越しに手裏剣を投げ終えたポーズのカマリ。
  カマリ「命をかけるほどの給料は
      もらっちゃいまい?
      まだやるかい」

続けざまにホルスターの周辺に、次々と突き刺さる5本の十字手裏剣。
 副運転士「うげげ!」
  カマリ「──どうやら俺を
      怒らせたようだな」
左腰のホルスター(注:当時のガンホルスターは右利きだと左腰に下げていた。ブラッド・ピットの映画『ジェシー・ジェイムズの暗殺』参照)から、拳銃を抜くカマリ。
冷酷な眼。
カメラが引いて列車の外観。
重なるように響く銃声。

❷…NY・新聞社…❷【起章】

ニューヨーク・朝
ビル街・オフィスの一室。
   字幕[──イースト・ニュースプレス社──]
広げた新聞紙面(内容は列車強盗)を、バンと叩く女性の手。
  ローズ「この列車強盗の件、
      取材させてください編集長!」
編集長室に響き渡るローズの声。

カメラが引き、アップにしたブリュネットの髪の女性。
眉間にシワを寄せて怒っている。
その勢いに押され気味の四十代中盤の男性編集長。
  編集長「ロ、ローズくん……
      そう上からガミガミ
      怒鳴らなくても……」
  ローズ「背が高いのは
      生まれつきですッ!
      それよりご検討を」

編集長の物言いに、カチンと来た様子の長身のローズ。
  編集長「そこら辺の話題は地方紙に
      任せておけばいいんじゃ…」
  ローズ「カマリ一味の列車強盗は
      もう4件目なんですよ!
      社会の敵【Public Enemy】に
      ペンの力で対抗しないと!」
  編集長「しかしだねぇ〜ローズくん
      貧乏な我が社にはミズーリの
      取材する余裕は……ねぇ」
  ローズ「取材は帰省を兼ねますから
      出張費は不要です」

ローズの申し出に、途端にニンマリとなる編集長。
  編集長「じゃあ交通費も自腹で?
      それならばOKだよキミ
      むしろ大歓迎~」
急に掌を返し、チケットにいそいそと署名し破り、ローズに手渡す編集長。
満面の笑み。対象的にローズは仏頂面。
  編集長「これで経理に2週間分の
      時間外手当をもらいたまえ」
  ローズ「では明日にでも出発します」

ローズのあまりに迅速な行動に、驚く編集長。
  編集長「そりゃまた用意が良いねぇ。
      しかしキミ…カマリ一味に
      ずいぶん固執してるな」
  ローズ「悪いですか?」
ツッケンドンなローズの態度に、気圧される編集長。
  編集長「いや……東洋人の
      列車強盗は珍しいし
      故郷での事件に興味を
      持つのは不思議じゃない」
  編集長「だが列車強盗はそれこそ
      ジェシー・ジェイムズ一味以来、
      ワイルドホッグ一味やら数多い。
      だが記事になる大物を追うなら
      やはりジェシー・ジェームズの
      ほうがネタになるんじゃ?」

ジェシー・ジェームズのイメージカットと、ナレーションを挿入。
    N『1873年7月、
      ジェシー・ジェームズは
      兄弟と仲間7人で
      シカゴ・ロックアイランド
      太平洋鉄道の列車を襲い、
      2000ドルを奪った』
    N『以降アメリカ各地で
      列車強盗や銀行強盗が
      頻出することになる───
      大強盗時代の幕開けである』

編集長の指摘に、ピクンと反応したローズ、振り返って思いつめた表情。なにかマズいことを言ったかと、ハッとする編集長。
  ローズ「もし……カマリが私の
      知っている人物なら……
      彼を列車強盗にしたのは
      ───自分なんです」
  編集長「ローズくん?」
ぎょっとする編集長。

無言で部屋を出ていこうとするローズ。
編集長、何かを思い出したように、
  編集長「ふむ……行くなら明後日、
      早朝6時の便がいいな」
  ローズ「え?」

怪訝そうな顔で振り返るローズ。
手帳をパラパラめくり、情報を確認している様子の編集長。
  編集長「極秘情報だがその便で
      現金輸送らしいんでな。
      可能性は高まるだろう?」
編集長の意外な切れ者ぶりと、配慮に感謝して、深々と頭を下げるローズ。
  ローズ「あ、ありがとうございます編集長!」

❸…発端・邂逅…❸【承章】

汽車の中・早朝
揺られながら窓の外を見ているローズ。物憂げな表情。
窓ガラスに写ったローズの顔に重なる、少女時代のローズの顔。
回想シーンに入る

* * * * * * *

アメリカの草原。
地平線が見えそうなぐらい広く、潅木が生えている。
   字幕[1860年───アメリカ]
馬に乗る12歳ぐらいの少女。
育ちの良さそうな服装。

彼女を追いかける黒人の老従者ジュピター。
ジュピター「ローズお嬢様ぁ〜!
      もっとスピードを
      落としてくださいまし」
  ローズ「せっかくの遠出なのに、
      ギャロップ【速歩】はダメだ
      トロット【襲歩】だけとか
      つまんなぁ~いッ!」
ジュピター「お嬢様に何かあったら
      あっしが旦那様に
      叱られますから」

従者の態度に、不満顔のローズ。
だが、急に何か悪巧みを思いついた顔。
  ローズ「ところでワタシの画帳は
      持ってきてくれた?」
ジュピター「そうでしたかのう……
      言われた記憶はねぇが
      す…すいませんだ」
  ローズ「そう、今ならまだ
      家に取りに帰っても
      間に合うわよ!」

遠方の岩を指差すローズ。
  ローズ「あの岩の所で
      待っているから」
ジュピター「お嬢様を残して
      帰るのは……へぇ…はぁ、
      わかりましただよ」
不承不承、馬を反転させる従者。

その姿が小さくなるまで、ニコニコしながら見送くるローズ。
  ローズ「…………ヨシ」
ほくそ笑み、馬の腹をポンと蹴り、草原を勢い良く走る馬。
馬の疾走感に酔いしれるローズ。
  ローズ「私だってこれぐらい
      簡単なんだから…フフ」
楽しげに走るローズ。

乗馬を楽しむローズの姿と、南部の風景のモンタージュシーン挿入。
だが、走る馬の耳に飛び込むハチ。
大きな声でいななき、パニックで全力疾走し始める馬。
  ローズ「キャアアッ!」
馬の首にしがみつくローズ。
血走った目の馬、口からヨダレを垂らし、渓谷の縁を疾走。
  ローズ「助け…誰かァ
      助けてェええ~ッ!」

草むらで寝ていた男。叫び声に反応する。
  菊次郎「ん? なんじゃあ〜?」
遠方のローズに気づく、着物姿の男・菊次郎の後ろ姿。
  菊次郎「い…イカン、暴れ馬だ!」

岩に躓いて倒れるローズの馬。
振り落とされるローズ。
空中で彼女をキャッチする人影。
  ローズ「ヒッ……!」
  菊次郎「あらよっとぉ~」
抱きとめた菊次郎の存在に気づき、驚くローズの顔アップ。
必死な表情の菊次郎の顔アップ。

崖を転がり落ちる二人。
その先には急流が。
  ローズ「いやぁああ!」
  菊次郎「ぐぁああ!」
急流に落下する二人。
川の激流に飲み込まれ、川中の岩にガンガンぶつかる二人。
  菊次郎「う…ぐぅ……」
流される二人、フェイドアウト。

流れが穏やかになった川・遠景。
時間経過のコマ挿入(演出はお任せ)。
ローズを抱え、河から出る菊次郎。
草鞋が片方だけしかない。
  菊次郎「大丈夫か、お嬢さん?」
  ローズ「ウウッ! 足が……」

腫れ上がったローズの右スネ。
指で患部を触診する菊次郎。
  菊次郎「ここは……痛むか?」
  ローズ「あぃうッ!」
  菊次郎「うむ…脱臼とヒビだな……」

懐から大工道具のノミ入れのような、道具袋を取り出す菊次郎。
中にはクナイや棒手裏剣など、忍者道具がズラリと入っている。
20センチ近い針を取り出し、一気にローズの患部に突き刺す菊次郎。
  ローズ「キャア!」
  菊次郎「大丈夫だ、痛くないだろ?」
  ローズ「あ……ほんとだ」

菊次郎が針を抜くとピュッと飛び出す血。
だがローズの脚の腫れも少し引く。
  菊次郎「骨を戻すぞ。少し痛いが我慢しろ」
  ローズ「アウ…チッ!」
ゴキッという音をさせ、ローズの足首の脱臼を治す菊次郎。

一尺手拭い(忍者の覆面用)で、棒手裏剣を添え木にローズの患部を固定する菊次郎。
  菊次郎(ずいぶん流されたし
      馬もかなりの距離を
      走ったようだからなぁ……
      この娘もその内に骨折の
      発熱をするだろう───)
ローズを背中に背負う菊次郎。
方向を確かめ、歩き出す。

腰の印籠から丸薬を数粒取り出し、ローズに渡す菊次郎。
  ローズ「コレなぁに?」
  菊次郎「忍びの者が常備する、
      飢渇丸という非常食だ。
      蜂蜜にいろんな薬草が
      練り込んである」
  ローズ「シノビ…ノモノ?
      ……キャカトゥガン?」
  菊次郎「心配せんでも
      毒じゃないぞ」

自分も口に放り込む菊次郎に安心し、飢渇丸を口にするローズ。
  ローズ「ん…甘い…」
  菊次郎「ゆっくりなめろよ」
嬉しそうなローズの顔アップと、うなずく菊次郎の笑顔。

草原のロングカット。
誰もいない川沿いを、黙々と歩く菊次郎。
  ローズ「ねぇ…あなた先住民【インディアン?】」
  菊次郎「や、日本人【ジャパニーズ】だ」
  ローズ「ジャパ…? それどこ?」
  菊次郎「太平洋の向こう側にある
      とても小さな島国さ。
      オレの名は菊次郎、
      キクジロー・カンザキ、
      人を探してアメリカに密航してきた」
  ローズ「じゃあ不法移民?
      まぁいいわ、保安官には黙っておいてあげる
      あたしはローズ。
      ローズ・ジェライザ」

菊次郎の服に興味を持つローズ。
  ローズ「変な服…ジャパンでは
      男もスカートをはくの?
      スコットランド人みたい」
  菊次郎「スカートじゃないぞ、
      コレは袴じゃ〜ハハハ
      二股に分けれているぞ」

ローズの左足に、ツツーっと流れてくる血の筋。
驚くローズ。
  ローズ「ん…何? キクジロー
      あなたケガを?」
ローズを背負う菊次郎の左手アップ、どす黒く2倍の太さに腫れ上がる人差し指と中指。

足や肩からも数カ所、出血している菊次郎。
  菊次郎「心配せんでも痛みに耐える
      術は学んでおるから」
ニッコリ笑ってみせる菊次郎。
だが顔色は悪い。

草むらからジーっという謎の音。
咄嗟に棒手裏剣を放つ菊次郎。
  菊次郎「シュッ!」
  ローズ「な…に?」
棒手裏剣の突き刺さった先には、ガラガラヘビが頭が。
パタリと尻尾が倒れるガラガラヘビ。

菊次郎の技量に驚くローズ。
  ローズ「それ…そう使うんだ」
  菊次郎「マズイな…月明かりで
      馬の足跡が見えづらい上に
      草むらに毒蛇がいるか───」
  ローズ「ダメ…あたしも歩く……」

だが、熱で息遣いが苦しそうにハァハァとなるローズ。
  菊次郎「もう骨折の熱が出てきたか
      こりゃあ急がなんとなぁ……」
発熱で、頬が赤くなるローズ。
残っていた片方の草鞋を脱ぎ捨て、裸足で歩きだす菊次郎。
日が暮れて、広がる星空。
満月の月明かりを元に、暴走した馬の足跡を逆にたどっていく。
片足を引きずりながら、歩く菊次郎。足の裏からは血がにじむ。

* * * * * * *

地平線に昇る太陽。朝日をバックに、トボトボと歩く菊次郎。
足には着物を裂いて、包帯がわりに巻いているが、血が滲む。
うつろな目で前方を見ると、ジュピター他、数人が馬に乗ってローズを探している。
ローズに気づき、血相を変えて駆け寄ってくる牧童たち。
ジュピター「お嬢様ッ!」

菊次郎からローズを、剥ぎ取るように奪い取るジュピター。
その勢いで、よろよろと片膝をつく菊次郎。
ジュピター「良かっただよぉ〜
      もしものことが
      あったらオラァ……」
  牧童1「んのヤロウ〜お嬢様を
      誘拐しやがってッ!」
いきなり、菊次郎を殴り倒す牧童たち。力なく倒れる菊次郎。

熱で朦朧とし、苦しい息の下、薄目を開けるローズ。
牧童達に次々と蹴られる菊次郎。
  ローズ(やめ…て……その人は…)
だが言葉にならない。

菊次郎の腫れた左手を牧童、ブーツでガシっと踏みつける。
痛みで目を見開く菊次郎。
  菊次郎「う…がぁ……ああッ!」
  牧童2「妙な服を着やがって
      おまえチェロキー族か
      ショーニー族か!?」
ローズの目から溢れる涙。

集団で蹴られる菊次郎の姿に重なる、ローズのモノローグ。
  ローズ『命がけで私を助けてくれた恩人を───
      声も上げることもできず
      ただ傍観するしかなかった』
菊次郎、震える手で懐から取り出した白いピンポン玉大の丸薬を3つ、指の間に挟んでいる。
ゴロンと仰向けになった瞬間、牧童3人に同時に投げる。

顔に当たり、白い粉をまき散らし砕ける丸薬。
  牧童1「ウワッ! 眼が……」
菊次郎、牧童の馬に飛び乗り、しがみつくようにして走らせる。
  牧童2「チクショウ!」
拳銃を構えて、菊次郎を銃撃する牧童たち。

ローズを抱きしめ、オロオロするジュピター。
走り去る菊次郎の後ろ姿に、力なく手を伸ばそうとするローズ。
だが、気を失ったローズの視界が次第に暗くなる。
  ローズ『混濁する記憶の中、
      それが私が見た彼の
      最後の姿だった――』
菊次郎の消えた草原の風景と、現在のローズが見ている汽車の窓からの草原の風景と重なり、回想シーン終わり。

軋む汽車の機関部のカット。
窓から外を見ている、大人のローズに、薄くかぶる子供時代のローズ。
  ローズ(大学でジャーナリズムと
      東洋文化を学んだおかげで
      これが何かわかった―――)

バッグの中から、かつて自分の骨折の添え木にされた棒手裏剣を取り出すローズ。
  ローズ(カマリとは日本のスパイ
      〝忍者〟の別名だってこと。
      列車強盗の東洋人が
      もしキクジローなら──
      私はなんとしても彼に
      会わなければならない。
      たとえ……)
棒手裏剣をギュッ!っと握り締めるローズ。
  ローズ(たとえ殺されても!)

バッグから、小型拳銃のダブル・デリンジャーを取り出し、弾を装填。
スカートの裾をめくり、左太もものホルスターに入れるローズ。
菊次郎の棒手裏剣も、手慣れた感じで指の上でくるんと回し、右のブーツの紐部分に差し込む。
一連の動作に重なるモノローグ。
  ローズ(カマリ一味が次に
      襲うとしたらこの列車)
      今は編集長【ボス】の
      情報を信じるしかない)
思いつめたローズの顔アップ。

❹…襲撃・再会…❹ 【転章】

 ギリアン「ハァ〜イ! 美しいお嬢さん、
      こちらの席は空いてるかな?」
突然、ローズに声をかける三つ揃えにカンカン帽姿の男。
 ギリアン「ボクはマクレーン、
      マクレーン・ギリアン!
      他にも空いてる席はあるが
      どうせなら美人と相席して
      楽しみたいんでねぇ〜」
  ローズ「聞いてないのにアリガトウ
      でもアタシは一人で読書が
      好きなので……失礼」

つっけんどんなローズの態度も、笑顔を崩さないギリアン。
 ギリアン「確かにキミは知的な眼をしているが……
      ダブルデリンジャーを内腿に隠すほどには
      オテンバ娘だろぉ〜?」
ギリアンの言葉に、キッとなるローズ。
  ローズ「のぞき?
      趣味が悪いわねアナタ」
 ギリアン「のぞくつもりは
      なかったんだけどねぇ〜
      美味しそうな脚がチラリと
      目に飛び込んできてねぇ」
むっとした顔のローズ、警戒して本をたたむ。

ギリアンの肩を、背後からポンポンと叩く車掌。
   車掌「他のお客様に絡むのは
      おやめくださいますか?」
 ギリアン「おっとぉ車掌さん!
      別に絡んでいるんじゃないんだよぉ〜
      ボクはこの美しいお嬢さんと
      相席をお願いしたいだけで」
   車掌「そちらのお客様はその願い、
      先ほどお断りなされたはずでは?
      それに当列車の席はいくらも
      空いておりますので」
他の席にとっとと行け、という無言の圧力をかける車掌。
しょうがないと、オーバーアクションのギリアン。
 ギリアン「仕方ないなぁ〜」

内ポケットからスキットル(金属製のウィスキーボトル)を取り出し、飲みだすギリアン。
少し離れた席に腰掛け、まだローズの方に手を振っている。
   車掌「女性の一人旅はどうも
      ああいう輩が絡んできて
      不快な思いをしがちです
      お気をつけてください」

ローズのチケットを確認しながら、笑いかける車掌。
  ローズ「ああいうのはコソ泥か詐欺師って
      昔から相場が決まってますわ」
   車掌「最近は物騒ですがなぁに、
      平原が続くので列車強盗も
      出てきようがないです」
  ローズ「それはどうして?」
   車掌「ヤツらの手口はまず
      線路に置き石をして
      列車を止めますか……ら!?」
車掌の言葉にかぶるように、外で起きるドカンという爆発音。

驚いた車掌とローズ、窓に思わずかけよって外を見る。
列車の上にアーチを描くように、次々と飛んでは反対側に着弾する大型のロケット花火(龍勢)が飛び交う。
爆発音の連続にパニックになる、他の乗客。
  乗客1「ななな、なんだなんだ!?」
  乗客2「ば…爆弾か?」
ローズ、爆発音の方向ではなく、進行方向をハッと見る。

線路のはるか前方に、いきなり起きる爆音と閃光!
振動で揺れる客車。
  ローズ「まさか……線路を爆破!?」
   車掌「い…いかんッ!」
  運転士「ふんぬうう〜〜うッ!」
列車の運転士、慌ててブレーキレバーを引く。
火花を散らして、急停車する列車。

列車と並走するように、列車ドメを乗せた馬と、騎乗する馬2頭で疾走するカウボーイハットのカマリ。
  カマリ「うぉらああ!」
列車が止まると同時に、列車ドメをガツンとレール上に置く。
他の部下が次々に土嚢を置く。
  カマリ「ふぅ……クソ重かったぜぇ」

列車を取り囲むように拳銃を構え、遠くから取り囲む男たち。
  カマリ「見晴らしがいいからと
      油断したかもしれんが
      列車を止める方法なんて、
      いっくらでもあるってこった」
銃を空に向かってバンバンと威嚇発射するカマリ。
 乗客たち「キャァアアア!」
  カマリ「抵抗しなければ
      手荒なことはしない!
      殺しはオレの流儀じゃ
      ないんでねェ~」
その声に、動きが止まる中の客。

単身、杖をつきながら客車に乗り込んでくるカマリ。
  カマリ「はぁ〜いボス!
      車掌はこっちこっち」
車内から手招きするギリアン。
  ローズ「あなたは!?」
 ギリアン「うん、強盗団の一味さ」
ヘラヘラと笑うギリアン。

勢い良くドアを開け、カマリの前にバタバタと走ってやってくる車掌とローズ。
   車掌「なんだオマエは!」
  カマリ「オレの名はカマリ……この列車の現金を頂く」
   車掌「なんのことだ? 現金など───」
  カマリ「とぼけんでもけっこう。
      この電車で密かに現金輸送を
      行うのは知ってるんだ
      ないと言いはるなら乗客から
      有り金を寄付してもらうしかないんだが」
義指を車掌の顔面の直ぐ側に突き出して、決めポーズを取るカマリ。

睨み合う車掌。
高まる緊張感。
だが、諦めたように、フゥと息を吐き、頭を左右に振る車掌。
   車掌「───わかりました、
      車掌としては
      乗客の安全が優先です」

ポケットから笛を取り出す車掌。
   車掌「こういう時には運転手に
      車掌が笛を使ってですね……
      抵抗するなという合図を送る
      決まりがありますんで」
車掌、窓から顔を出し運転手に、ピッピーと2回ずつ合図を送る。

機関車の方から、返事の汽笛がピーと長く聞こえる。
コクンと頷いた車掌、カマリに軽く会釈。
   車掌「こちらへ……」
ローズの脇をすり抜けて、車掌とともに別の客車に移動しようとするカマリ。
  ローズ「キク…ジロー」

突然のローズの言葉に、警戒の色を浮かべるカマリ。
サッと腰の中に手をかける。
  カマリ「……誰だ、オマエ?」
  ローズ「十二年前あなたに助けられたローズです!
      ミズーリの草原で……」
ローズの顔をじっと見て、薄ら笑いを浮かべ、首をふるカマリ。
  カマリ「フン、知らんなぁ〜
      人助けなんてオレぁ
      やったこともないね」
  ローズ「いいえあの時、暴れ馬から
      振り落とされたアタシを
      命がけで助けてくれたのに」
      なのに今は社会の敵に
      なっているなんて……」
ローズの目に浮かぶ涙。

カマリの左手のアップ挿入。
  カマリ「おおかた絵本と現実を
      ゴッチャにしてるんじゃ
      ないかなお嬢さん?」
  ローズ「……アタシのせい?
      ウチの牧童がアナタの指を
      ダメにしてから───」

ローズの言葉を、拳銃を突き出して遮るカマリ。
  カマリ「何を勘違いしてるか
      知らんが…小娘のせいで
      オレの人生は変わらんさ。
      オレはオレの人生を選んだ
      ……誰のせいでもねぇさ」
皮肉な笑みを浮かべるカマリ。

カンパチ入れず否定するローズ。
  ローズ「アタシを命がけで
      守ってくれた人が
      変わるわけないもん!」
ローズの強い口調に、思わず気圧され、笑いが固まるカマリ。
  ローズ「……だから襲撃を中止して
      自首をしてお願いッ!」

突然、ガクンと揺れる列車。よろけるローズと車掌。
ローズ、つんのめってカマリに思わず抱きつく。
大柄なローズを両手で受け止め、重ね餅になって倒れるカマリ。
カマリが拳銃を取り落としたのを見て、咄嗟にそれを蹴る車掌。
   車掌「フン!」

列車の外の風景。
進行方向とは逆に走りだす列車に、驚く周囲を取り囲んこんでいたカマリの手下たち。
  手下1「なんだと?」
  手下2「逆方向に動き出した?」
慌てて列車に駆け寄るが、どんどん加速して追いつかない。
部下の一人、連結部に手をかけようと馬上から飛びつくが、ギリギリ届かず地面に激突。
  手下1「グワァアハッ!」

列車の中
床を滑る銃に飛びつき、カマリに向ける車掌。
   車掌「動くな!」
車掌の動きに、ピタっと動きが止まるカマリ。
   車掌「まさか列車が逆走とは
      思わなかったかな?」
  ローズ「車掌さん?」
   車掌「先ほどのあの笛、
      隙を見て逆走しろの
      合図だったんですよ」
  カマリ「チッ…油断したぜ。
      しかもこのデカ女が
      倒れてきやがるし」
 ローズ…「デカくて悪かったわね!」

両手を上げて立つカマリ。
   車掌「あれは銀行の大切な現金
      コソ泥に渡すわけには
      イカンのですよ───」
にこやかに微笑む車掌。
パンパンと轟く銃声2発。
銃口から上がる白煙。
  カマリ「むぐうう……」
両肩から出血するカマリ。
  ローズ「しゃ…車掌さん!?」
   車掌「このカネを先に狙っていたのは
      オレなんだからよぉ〜」
にこやかな顔のまま、言葉遣いが乱暴になる車掌。

客席に座っていた男たちが全員、いきなり立ち上がる。
一人がポケットから拳銃を取り出し、威嚇のためにぶっ放す。
  手下1「思わぬ邪魔が入って
      計画が狂いかけたが、
      かえって好都合だな」
   車掌「追手がないのを確認したらこいつには
      俺達ワイルドホッグ一味の罪を
      かぶって死んでもらおう…かッ!」

銃の台で頭を打たれる気絶するカマリとローズ。
  カマリ「グガッ……」
それを見て青ざめ、ホールドアップするギリアン。
 ギリアン「なんてこったい……天国から地獄だぜ」

■KAMARI/第1話 終わり■

第2話へ続く

https://note.com/chinatsu_tkmr/n/n8d1707bea9da

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