常識を全部捨てて生きることは苦しい【『笑いのカイブツ』ネタバレあり感想】

どうも~千夏です。今回は「笑いのカイブツ」について書きます。ネタバレありなので見たくない方は個々でブラウザバックお願いします。


きっかけ


Twitterでこの映画の広告を見ました。予告映像ではありません。この映画の要となるシーンの漫才をM-1で優勝したコンビが監修しているという投稿です。それを見た時にはへえとしか思わなかったのですが、作品を調べているうちにあることに気付きました。
それはその作品が「ツチヤタカユキ」によるものであることです。彼のことは詳しくないものの若林さんのエッセイに載っていた人だと気づき作品に興味を持ちました。

鑑賞前

とにかく楽しみでソワソワしました。
そういえば初めてエッセイで彼のことを知った時からソワソワしていた気がします。
私は彼の変人ぶりに取りつかれていたようです。
映画好きの家族と共に行きました。

鑑賞中

先ほどとは対照的な反応になってしまいますが、とにかくつまらなかったんです。いつ爆発するんだ、と思いながら見ていました。こんなに狂気に満ちた映画は初めてで少し震えていたような気がします。
笑えたのは彼が実際に作った漫才のシーンのみ。
それ以外はむしろ見ていて苦しくなるところばかりでした。

鑑賞後

映画の世界をとても引きずっています。
私は芥川賞受賞作の読後感と似ているなと思いました。
「推し、燃ゆ」も「おいしいごはんが食べられますように」も「乳と卵」も「火花」もすごく引きずるんです。読んでいる時には面白いとは思わなかったのに何週間も何か月もずっと記憶にある。この映画もそういうタイプでしたね。衝撃的というか今まで生きてきた中では感じられないものをくれるというかそんな感じですかね。

感想が難しい

いつになく感想の言いにくい映画だと思います。理由は二つあります。一つ目の理由としてはあまりにも異色の映画であり、似た作品が少ないこと、二つ目に主人公が実在の人物であることが挙げられます。
あくまでも原作は彼の私小説なので私がこれから書く「ツチヤタカユキ」は作中の方の人です。
上手くいかない彼に彼の数少ない知り合いが声をかける場面がありました。その場面の中で「世間の人を笑わせたいのにその世間からは嫌われている、難しいな」という台詞(正確ではありません。)が強く残っています。
常識ってなんだろう。そう思わずにはいられない映画です。推薦コメントにもありましたが彼の人生は全く笑えないんですよね。
普遍的な人生を忌み嫌っているからなのか、普通になりたい私とはかけ離れた存在のように感じてしまいました。
社交とマナーを身に着けたい私と、面白くないことはしたくない彼。
普通になりたい私と普通になりたくない彼。
超おしゃべりな家庭で育ち親戚づきあいの多い私と母親としか話さない彼。
境遇も志向も全く異なりすぎていて、見ている時には全く共感できませんでした。
それでもこのような生き方ができる彼には尊敬する気持ちがありますし、このような生き様をみせてくださってありがとうとお礼を述べたくなります。


10日経って

感想記事(この記事)が出せないまま10日経ちました。今思うことはツチヤさんは一つの才能の力を信じすぎてしまっているということです。
どんな方も一つの力だけで何かを成し遂げている人はいないはずなんです。「笑わせる力だけで笑わせることはできない」という教訓を得ました。

よく〇〇芸人という肩書を目にします。「芸人だけどこういうこともできるよ」という肩書き。彼らは芸人以外の才能や知識を持って様々な発信をしています。
身につけた知識や持っていた才能をアウトプットするにはコミュニケーション力が欠かせないし、文に落とし込むなら最低限の文章力や国語力は必要です。
それを面白くエピソードに仕立てて笑いにすることでお笑い芸人としての仕事を果たしています。

でもそこまでが遠い。「おもろい」世界とは異なることをして結果「おもろい」を生み出しているんですよね。(「おもろい」を括弧書きにしているのは私が関西人ではなく使い慣れた言葉ではないためです。作中の「ツチヤ」の表現として使っています。)
「ツチヤタカユキ」はその純粋でない過程が許せない人なんだなと思います。

私千夏は努力も足りないし、情熱も才能も特にない。それを愛想と笑顔と社交性でごまかすタイプの人間です。だから彼の生き方がどこか受け入れられないと思ってしまったのかもしれません。
「リンダリンダ」の歌いだしの言葉を思い出しました。
「ドブネズミみたいに美しくなりたい
写真にはうつらない美しさがあるから」

この「写真にうつらないドブネズミみたいな美しさ」が彼にはありました。
感情をむき出しにし、ひたむきに全力で取り組む姿はきれいじゃないけど美しい。


万人受けは多分しないし、普通になりたい、生きづらいところから抜け出したい人ほど共感しかねるところもあります。
けれど、ものすごく印象に残る映画です。

印象に残る映画を見たい方、ラジオマニアの方、漫才が好きな方、「だが、情熱はある」のファンの方、印象に残るような異色な映画を見たい方におすすめです。

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