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テスラがEV販売世界一を奪還、BYDはものすごく不調なのか?

テスラの世界販売は2024年1~3月、前年2023年の同期と比べて8.5%減、前期2023年10~12月と比べて20.2%減の38.68万台となりました。

いずれも減少で、株価もそれにより大きく下げましたが、前期2023年10~12月にBYDにより奪われたBEV販売世界NO.1の地位に返り咲きました。

ただ、テスラの成長減速は明白で、イーロン・マスクさんも苛立っているようです。「BYDなんか、前期比42%も販売が落ち込んでいるぞ」と。まとめます。

テスラ
前年同期比 -9%
前期比   -20%

BYD(BEVのみ)
前年同期比 +13%
前期比   -42%

イーロン・マスクさんが「BYDなんか、前期比42%も販売が落ち込んでいるぞ」というのは、「どのメーカーにとっても1~3月は難しいんだ」という主張でもあります。

出典:各社の発表データにより作成

しかしBYDはテスラと違い前年同期比でプラス成長を果たしています。やはりテスラとは違う面がありそうです。いくつか指摘しておきましょう。


BYDは輸出が急増

BYDによる2024年1~3月の販売は前年同期比13%増ですが、国内販売だけで見ると3%増に過ぎません。輸出が153%増と激増しています。

BYDは2023年、初年度となった日本で1446台を販売しています。同時期に日本に再参入したヒョンデが489台でしたから、成功と言えるかもしれません。

ただし、日本での販売台数1446台というのは、日本全体においては「全く売れていない」という水準とも言えます。

そもそもBYDの輸出先において、日本が占める割合は圧倒的に小さく、BYDの2023年における輸出台数は24万台強ですから、日本の占める割合は1%にも達していません。

それだけBYDは世界各国に輸出を開始している、という証拠でもあり、BYDの総販売に占める割合は2023年1~3月はわずか7%でしたが、2024年1~3月は16%と倍増以上を達成しています。

BYDの主力はPHEV

テスラがBEV専業に対して、BYDはBEVとPHEVを販売する会社です。2024年1~3月のBYDの販売のうち、BEVが30万台、PHEVが32万台となり、どちらかと言えばPHEVの方が多くなっています。

以上の輸出の話の前、イーロン・マスクさんのところまでのデータは、このBEV30万台のみを抽出したデータであり、PHEV32万台は含まれていません。

もともとBYDの最初の新エネルギー車はPHEVであり(2003年)、PHEV会社が後からBEVも始めた、という側面があります。初めからBEV専業のテスラと、BEVだけで比べるのは無理があるところではあります。

BYDのBEVが思いの外売れるようになったのは、折からの中国におけるBEVブームがあり、「イルカ(ドルフィン)」「カモメ(シーガル)」の小型HB BEVがバズったことなどがあります。

足元、中国でも「バッテリーの性能、充電インフラなど、やはりBEVは厳しい」という声が多く聞かれるようになっており、PHEVを選択する消費者が増えてきています。2024年は本来はPHEV会社であるBYDには追い風になる可能性があります。

中国で前期比は無意味

株式市場の慣例でしょうか、前期比が重視される側面があります。しかし、中国の自動車販売台数において、前期比はほとんど無意味です。

というのも、中国の自動車販売は毎年、年を追うごとに大きくなっていきます。1~2月は春節もあり、営業日も少ないので低調。

3月以降増えだし、夏場にかけて急増、年末は各社のKPI(重要業績評価指標=中国だと新車販売台数一択)プレッシャーにより販促、つまり大規模な値下げが行われ、よく売れる、という構図です。

2023年も全くそのような傾向にあり、中国でのNEVの通年販売に占める各期のシェアは、下記の通りになります。

第1四半期(1~3月)  17%
第2四半期(4~6月)  23%
第3四半期(7~9月)  27%
第4四半期(10~12月) 33%

1~3月の前期は前年の10~12月との比較になるので、そもそも平均として2倍近くの販売の違いがあるところを比較しており、そこで急減したからと言って、「だから何?」という具合になります。

同じように4~6月の前期の1~3月と比べれば、そもそも5ポイントも販売が違うところを比べるので、大きな数字になる可能性が高くなります。

中国の自動車販売台数の前期比がことほどかように無意味である、というのは押さえておきたいポイントです。

BYDとテスラの単純比較

以上のように、両者はあまりにもいろいろと違いすぎますので、単純比較は無理、というのが結論です。

世界的にBEVの人気が落ち込んでいるのは確実で、BEV専業のテスラは厳しい戦いが続いていくことになる一方、NEV人気は中国でもまだ継続中のため、本来PHEVに強みのあるBYDは、そちらの方面で伸ばしていく可能性が高いです。

一方で、BYDも思いのほか中国国内販売が伸びていない印象です。BYDは現在、高級ブランドを除くほぼすべての車種で積極的な値下げ攻勢をかけている最中で、これが顕在化していないだけ、かもしれません。

そもそも毎年、販売台数が最も少ない1~3月のデータが出そろった、と言うだけで、4月以降の販売を占う、というのは厳しい面があります。

また、BYDの輸出、と言えば、日本がそうであるようにBEVが主力のような気がしていますが、今後BYDが輸出を強化するにおいて、世界的なBEV人気の低迷のあおりを受ける可能性があります。

何事も無ければBYDは2024年も安定した成長を遂げるものと思われますが、2022年、2023年と続いた急激な成長というのは難しいのではないか、と思われます。

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