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試衛館の春

安政二年 如月きさらぎ 某日 
亀岡八幡宮の参道にあるしだれ桜が満開という 
噂を耳にした宗次郎が 
「源さん、桜が満開ですよ。花見に行きましょうよ。」 
と言い始め、それを聞いたはじめと新八が 
「それじゃ、わしも行く。」と騒ぎ、 
佐之助がむっくり起き上がり腹をさすりながら 
「それじゃ酒が必要だなぁ。」と金もないのに言い、 
「歳さん、悪いが少し用立てくれんか。」と、近藤先生。 
「しょうがねぇなぁ。」と、立ち上がると行李からお金を出して、
「宗次、無駄使いするんじゃねぜ。」と頭をなぜる土方。
「それは原田さんに言ってくださいよぅ。」
いつもの試衛館の日々。

近藤先生を先頭に、みんなでぶらぶらと八幡宮に向かう。
鳥居をくぐると、もうしだれ桜が満開。
一通り桜を眺めていた佐之助が待ちきれない様に境内に上がってゆく
境内には茶店ちゃみせも出ているが、人は少ない。

茶店ちゃみせの縁台に座った左之助が
「ねーちゃん、此処は酒はおいてねーのかい?」
「すいません。 甘酒しかないんですよ。」
「そーか、じゃ、団子でいいから、くれねーか?」
「はーぃ。」
「佐之助、金はあるのかい?」
山南さんなんさん、けち臭いこと言わんで、
ほれ、宗次、出してくれ。」
「あぁ、また、せびられた。 
山南やまなみさん、これだから、原田さんは嫌われるんですよネェ。」
「はははっ、どうせ歳からもらったんだ。
出してやれ。」
「えぇ、近藤先生まで。」
皆が笑ってると、源さんが酒桶をもって、参道を上がってくる。
「近藤先生、歳さんから言われて酒を買ってきました。」
「おぉ、すまんな。歳はどうした?」
「桜を眺めて、筆を出していたから、五七五でしょう。」
「土方さんのことだから、
きっと、『桜色、桜色には、桜餅』みたいな句ですよね。」
「こら、宗次、もう少し、まともな句だろう?」
「前に見たときは、『しれば迷いしなければ迷わぬ恋の道』
そんな句ばっかりでしたよ。」
「まぁ、それはそれで、この酒はどうします。」と源さん。
「茶屋、ツマミになりそうなモノはないか?」
「はい、焼き餅ならありますが。」
「じゃぁ、縁台を借りるから、酒を注ぐ猪口はないか?」
「お茶用の湯飲みでどうですか。」
「かたじけない。」と茶屋に声をかけ、
「ほら、左之も新八もはじめも一杯、どうだ。」と近藤先生。
みんな湯飲みを持つと、源さんが注いで歩く。
山南やまなみさんも一杯。」
「源さん、すまんね。」
「わしも飲むから、心配しなくてもいいさな。」
焼き餅を突きながら、みなで飲む酒は美味しい。

境内を春の風が吹き、いつもの試衛館の春が通り過ぎる。

この年、安政の大地震発生。
七年後、試衛館の面々は京都へ向け出立する。

まだ、何モノでもない、試衛館の日々。

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