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メイと呼ばせる女(6)

池袋の斧頭幇の事務所の1階にある中華料理屋、 
福建飯店で食事中の斧頭幇に新宿怒涛会のチンピラが 
チャカを撃ち込んだ、とニュースが言っている。
 
それを見ていた組長おやじが、 
「また厄介ごとが増えた。」と言いながら、
新宿怒涛会に電話をする。 
「おう、悪いな。 古賀の会頭を呼んでくれるか?」 
電話の向こうで、おめえは誰だと怒鳴っている声が漏れ聞こえる。 
「俺か? 柳川組の黒部だ。」 
電話の向こうで、慌てている様子。 
「おう、久しぶりだな、この間はうちの若頭が 
おたくの影山の世話になったらしいな。」
「え? 聞いてない? まぁ、いいや。
なんでも、池袋で撃ち込みしたそうじゃねえか。
同じ歌舞伎町で飯を食っているんだ、挨拶ぐらいしたらどうだ?」
「そうか、チンピラがやったことか。」
「でもな、池袋はうちが取り持って、
六曜会と斧頭幇が手打ちをしたばかりだ。
斧頭幇との手打ちは難しくなるぞ。」
「そうか、多少のゴタゴタは仕方ないか。 
手打ちするにはそれなりの金が必要になるがな。」
「まぁ、平和だと俺らがいる意味がないか。」

漏れ聞こえる会話から気なって組長おやじに声を掛ける。
組長おやじ、池袋はどうなります?」
「池袋より、ここ歌舞伎町で抗争ドンパチが始まるな。
すぐに組員全員を集めろ。」
「わかりました。」

「いいか、おめえら、今日からドス、ハジキは持ち歩くな。
素人が抗争に巻き込まれない様に、注意しろ。
特に、中国語を話す奴らが集まっていたら、素人は逃がせ。
シノギは当分休め、その分の義理は免除する。
いいか、素人さんに死人が出ると、俺らが生きて行けなくなる。
わかったか?」
一同、
「へい!」

その後、新宿怒涛会の組員、数名が殺害され、幹部二人が逮捕された。
新宿怒涛会は皆殺しにすると騒いでいたが、
中国本土から人を沢山呼び寄せた斧頭幇と勝負になるはずもなく、
うちの親父が新宿怒涛会の会頭、古賀と斧頭幇の会頭、陳に話をして、
今の時代、抗争で流れが変わることもなく、警察サツが喜ぶだけだと、
金で手打ちをさせることで、やっと、抗争が収まった。

今回の抗争で、新宿怒涛会の組員が減ったのと、うちへの謝礼で
怒涛会の雀荘2件と、バー2軒がうちに入ってほしいと連絡が来た。
壮一を呼んで、
「雀荘チョンボと麻雀シャトルとラウンジ桜とバー・スコーピオンが
うちに入ってほしいとよ。
花とおしぼりを持ってロンと行ってこい。」
「へい、わかりやした。」
「あぁ、それと親父が壮一も手下が増えたので、シマを分けろとよ。
今回の、雀荘とバーは壮一で今後は面倒見ろと親父が言っていたぞ。」
「あ、ありがとうございまㇲ!」
「まぁ、お前もいっぱしになった証拠だ。
その分義理は増えるが、大丈夫か?」
「何とか、がんばりますッ!」
「そうか、ロンにはビデオ屋の店番と、
組の掃除をきちっとさせるんだぞ。」
「へい!」
壮一が元気よく出て行くのを見送り、タバコをくわえ火をつけ
煙を吐き出し、抗争が収まったので、組に集まった義理から、
義理を入れていない組員の小遣いを分ける。
余り少ないと、また、ロンみたいな
馬鹿を始めるやつが出ないとも限らないから大変だ。
それでも、一番下のロンの小遣いは20万にしかならない。
いくら住むところと食事は組や幹部が出していると言っても、
自ら稼いで義理を入れられないと、今の若い衆にはきついのだろう。
組長おやじも、もう少し出せとは言ったが、
最近では賭場の上がりも少なくなってきた。
あまり好きじゃないが、贅沢を言っている場合じゃない
中国に行き、ビトンでも仕入れてきてビデオ屋で売っぱらうか。

組の雑用をしていたら、壮一が駆け込んできた。
若頭かしら! ラウンジ桜に向かっていたら、
中国人のチンピラが、メイに絡んでいるのを見て、
ロンが、飛び出して行き殴り合いになりました!」
「それで、ロンメイはどうした?」
「止めに入ったんㇲが、止められなくて、隆二兄貴に電話して、
助けてもらいました。」
「ふーん、大したことは無かったんだな?」
「ただ、隆二兄貴が落とし前を付けろと、中国人のチンピラに迫ったら
中国語でまくしたてるばっかりで、
龍の通訳だと、ここは斧頭幇のシマだと言うので。」
「あぁ? 斧頭幇の会頭、陳と話が付いているが?」
「そう聞いていたんで、そう言ったんㇲが、話が通じないので、
隆二兄貴が、若頭かしらを呼んで来いと言われて、」
「わかった。 俺が出張ればいいんだな。」
壮一と隆二がいるラウンジ桜へ向かう。

メイを後ろにかばいながら立つ隆二。
かしら、すんません。 中国語わからんです。」
「まぁ、いいさ。 よく素人さんを守ってくれた。」
 中国人のチンピラに向かい
「你们和不知道我是在和陈会长同意吗?
(おめえら、会頭の陳と話が付いているのを知らねえのか?)」
「不知道!(知らねぇよ!)」
「是吗,我现在打电话你的会頭,好吗?
(そうか、それじゃこれからおめえらの会頭に電話する、いいか?)」
携帯を取り出し、電話をしようとすると、中国人同士で言い合いを始める。
その内、自分たちで電話をして、色々聞いているようだ。
「你是不是谁?(お前は誰だ?)」
「我? 我是新宿柳川组的年轻头目。
(俺か? 俺は新宿柳川組の若頭だ。)」
また、電話で本部へ問い合わせて、
「不好意思、老大。我们错了。
(すみません、ボス。 私たちは間違っていました。)」
「好吧,你只要知道。(そうか、分かればいいんだ。)」
そう言うと、中国人のチンピラは駆け出して何処かへ、
「本土から呼び寄せた、チンピラが漁夫の利を得ようとして
ちょっかいを出したのだろう。
壮一、お前のシマなんだから、今後もしっかり守れよ。
隆二、悪かったな、手伝わせて。」
「いいすよ、若頭。 何かあれば、また、声を掛けてくだせい。」
「そうか、お前に新しいシマを分けられなくてすまん。」
「いいすよ、組長の采配ㇲから、文句はありません。」
「手間賃だ。」と言いながら、いくばくかの金を渡す。
「壮一、この金でラウンジ桜で一杯やるか?」と
隆二が壮一を誘い飲みに行く。

残ったメイが、
「若頭さん、ありがとうございます。」
「ゴタゴタに巻き込んで悪かったな、
抗争が終わったばっかりで、この辺も、荒れている。 
注意しろよ、いつもこう上手くいくわけじゃない。」
「ママのお使いで、届け物があったんです。」
「そうか、後でお店に顔を出すから、ママに言っといてくれ。」
どこか嬉し気に
「はい。」そう言うと、どこかに行くメイの後ろ姿を見ながら
メイと係わることが多い、そう言う意味では新宿は狭い街だ。
組長おやじに、顛末を報告して、斧頭幇に注意させないと
またぞろ、抗争が始まりかねない。
そう思うと、俺たちが食うには困らない街なのだとも思う。

メイと呼ばせる女、うめこ。

・・・
これは創作で、主人公に似た名前の人もフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。 
あくまで、妄想ですので事実と誤認しないようにお願いいたします。
・・・

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