見出し画像

雨の季節に思い出す、進学校のオシャレで厳しい数学の先生の話

高校の時にお世話になった数学の先生は、とてもおしゃれな方だった。
いつもシックな色合いのスーツを身に纏い、そこへとても似合うネクタイを合わせていて、 その先生のカラーコーディネートにいたく感心した。

もしかしたら、奥さんが毎日のカラーコーディネートをしているかもしれないな、と当時よく考えていた。
ありきたりな黒のスーツだったり、グレーのスーツではなく、 深いモスグリーンの色だったり、ブラウンの落ち着いた色だったり、とても本当に素敵な スーツを着て授業をする先生だった。

お世辞にも2枚目タイプではなかった先生だったけど、スーツの着こなし方が素敵すぎて、毎回のコーディネートを楽しみにするくらい私は静かにファンだった。

でも授業は、もう難しい。
そりゃ、仮にも進学校の数学だったから。
(文系コースでも数学ⅢCまでやるから尚更)
数学はとてもとても苦手で、追試だけは避けたくて毎度赤点ギリギリで乗り越えていた。

高校3年生の時、そんな数学の先生が美術部の顧問をしてくれた。
以前の記事にも書いた通り、私の高校には美術の授業がなく、美術部があった。

私が芸大志望だったからかどうか分からないけれど、ある日その先生に「イラストを描いてほしい」と頼まれた。
その話をする先生は、ちょっと照れていて、なんだったら顔が赤いぐらいだった。

よくよく話を聞くと。
先生が個人的に作ったお話があり、ちっちゃな女の子が主人公の絵本にしたいのでイラストを描いて欲しいと言われたのだった。

先生から手渡された原稿を読む私の後ろで、試験監督のようにウロウロと行ったり来たりする先生。
このお話の主人公が娘さんだったかどうかはわからなかったけれど、私は読んで「あ、これは多分、先生の娘さんだな」と思った。

普段の厳しい先生の印象とは大きくかけ離れていて、本当に驚いた。
授業でしか接点のなかった先生にも、当たり前ながらご家庭がある。そんなことすら高校生の自分には想像できていなかった。
先生はかなり勇気を出して私に声を掛けてくれたんじゃないかな、となんとなく思ったのをよく覚えている。

原稿を読んで好きなシーンを5枚ほど、イラストを描いた記憶があるけれど、その中でも一番記憶に残っているものの話を。

小さな女の子は雨の日に傘をさしながら散歩に出かけた。
散歩の途中、美しいピアノの旋律が聞こえてきて、自然と足はピアノが聞こえてくる家へと向かう。
女の子は、庭にアジサイが咲き乱れる家を見つけて、窓の外からそっと覗いてみる。

その絵本のシーンはこんな感じ

真っ赤なワンピースと長靴を履いた身長90センチぐらいの女の子が、ちょっと背伸びをして窓を覗く。
窓を覗くと、そこには真っ黒なグランドピアノがあって、外にはアジサイの花が咲き乱れている。家の外壁は白色。

今だったら、パソコンで絵を描いたり、 いろんな画材を知っているんだけれど。高校生だったその当時は、うまく使いこなせる画材がなくて、 色鉛筆を使って書いたのを覚えている。

時々今でも、この時期になんとなく思い出す。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?