今夜塗る色はお好みでどうぞ

うすい、うすい。拭い取ればすぐにさっといなくなる0.02ミリの膜を貼るように。液を含ませた筆が爪を撫でる。まるで寝ている子供を起こさないように撫でる母親みたいに。秒速5cmの速さで。

やがて空気に乗って、ギーンと鼻の奥を重く鳴らすニオイに出会う。これだよね、ほんとの女の匂いは。見た目は鮮やかでも、奥の方に鉛みたいな重たく芯のあるくせ物を持つのが私たち。

一筆一筆で、私を塗り込む。空気に触れると固まって、つるんっと見せる。それだけだと、艶がある優しさに見える。素爪より魅力的に綺麗に魅せるための、ちょっとしたエッセンス。

濡れたような潤いの色。その指であらゆるものを流していく。印象操作されてるネット記事をスクロールして、さまざまな通知を飛ばしてくるアプリをタップして、あなたへの愛を隠した何気ない会話をスマフォの狭い面積へと弾く。


私は私よ。


他への魔除のように、そして、自分への訴求のように、爪を見るたびに確認する。敗れた願い同士を縫い合わせた縫い目を隠すように。流した涙を美しさのための艶に変えて。それでもまだこの先、哀しみに出会いますか。私は私をあと何回塗り直すだろう。その度に色が違っても。何度でも、なんどでも..






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