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国連「子どもの権利の主流化に関するガイダンスノート」の草案が公開される

 国連事務総長室が「子どもの権利の主流化に関するガイダンスノート」の作成を進めていることについて、これまでにもお伝えしてきました。

-〈国連事務総長室が国連システムにおける「子どもの権利の主流化」への意欲を表明〉(2021年11月23日)
-〈国連「子どもの権利の主流化に関するガイダンスノート」作成に向けた動き〉(2022年9月19日)

 このほどその草案が公開され(2月20日)、意見募集が始まりましたので、お知らせします。草案(PDF)は Child Rights Connect のサイトから入手できます。意見はこちらのフォームから提出できますが(提出期限:3月6日)、意見表明の対象は「重要な欠落」(major gaps)および「不正確な点」(inaccuracies)に限定されていますので、ご注意ください。

 草案では、「子どもの権利の主流化」(child rights mainstreaming)が次のように定義されています(p.1)。

 このガイダンスノートの適用上、子どもの権利の主流化は、子どもの権利(子どもの意味のある参加を含む)を国際連合システムの政策およびプログラムの立案、実施、モニタリングおよび評価の不可欠な側面とし、かつ国連によってとられるすべての行動が子どもたちにとって持つ意味合いを評価するための戦略として理解される。これは、対外的な政策、プログラムおよび行動ならびに内部的な/運営上の政策、プログラムおよび行動の双方を対象とするものである。事務総長による「人権のための行動の呼びかけ」および「市民的空間の保護および促進に関する国連ガイダンスノート」で、子どもを含む多様なアクターが国連の活動に参加するための全般的枠組みが示されている。

 続けて、子どもの権利の主流化の前提となる認識として、次の5点が挙げられています(p.2)。

(1)子どもは全面的な権利保有者であって、子どもが持つ特有の(distinct)諸権利のために国連による特有の行動が必要とされる。
(2)子どもは自分自身の生活の専門家であり、国連の行動が十分かつ有効なものとなるためには意味のある子ども参加が必要である。
(3)子どもは、子どもであるがゆえに、自己の権利の行使および主張に関して固有の障壁に直面している。
(4)子どもの権利は、国連憲章に掲げられた3本の柱(平和および安全、人権ならびに開発)のすべてにわたる、国連のすべてのアドボカシー活動、政策およびプログラムにとって関連性を有する。
(5)国連による対外的・対内的なアドボカシー活動、政策およびプログラムは、子どもたちに、大人とは異なる影響を及ぼす可能性がある。

 このような認識を踏まえて草案に掲げられている指導原則(guiding principes)は次の8項目です(p.2以下/追記〔2023年8月25日〕:指導原則の全訳はこちらを参照)。

1.子どもの権利は人権である。
2.子どもの権利は、国連の3本の柱のすべてにわたる、すべての者にとっての関心事
(everybody's business)である。
3.子どもは、固有の諸権利を持った特有の権利保有者である。
4.子どもの権利は、不可分で、相互依存性および相互関連性を有する。
5.国連のすべての行動において、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されるべきである。
6.国連のすべての行動において、平等および非差別が促進されるべきである。
7.国連の行動においては意味のある子ども参加が促進・包摂されるべきである。
8.国連は、子どもの権利侵害に関するアカウンタビリティおよび救済を促進するべきである。

 このうち〈3.子どもは、具体的な諸権利を持った特有の権利保有者である〉では日本の「子ども・若者」施策を考えるうえでも示唆に富む指摘が行なわれていると思いますので、訳しておきます(この点につき、第3回「こども政策決定過程におけるこどもの意見反映プロセスの在り方に関する検討委員会」に安部芳絵委員が提出した追加資料〔PDF〕も参照)。

3.子どもは、具体的な諸権利を持った特有の権利保有者である。
 18歳未満のすべての者は子どもである。国際法上、子どもは特有の権利保有者の集団と位置づけられており、子どもの身体的、社会的、情緒的および認知的発達が、その発達しつつある能力――すなわち、子どもは大人から独立して自己の権利を行使する成熟度および能力を徐々に獲得しつつあるという事実――を下支えしている。子どもを、意見を聴かれ、尊重され、かつ権利行使に関して高まりつつある自律性を認められる資格のある、自分自身の生活における積極的主体として認めると同時に、子どもの継続的発達に応じて保護も与えているのが、CRC〔子どもの権利条約〕の中核でありかつ独自な点である。したがって、関連するすべての国連の戦略、計画、文書および通信において、関連性があるたびに子どもへの明示的な言及が行なわれ、かつ子どもの固有の権利が明確な形で反映されるべきであって、「若者」('youth' or 'young people')など他の異なる集団に包含されるべきではない。これらの用語は国際法では定義されておらず、異なる(ときには重複する)権利を持った別の人口集団を指すのに用いられているものである。同様に、女子(girls)も女性と一括りにされることが多いものの、実際には特有の権利保有者集団であることが認識されるべきである。18歳未満の者は、いかなる状況下でも大人として扱われるべきではない。

※太字は平野による。脚注は省略した。

 以上の8つの指導原則を踏まえ、国連の行動の枠組みが示されています(p.4以下)。子ども影響評価(child rights impact assessments and evaluations)や子ども参加に関する項目もありますが、ガイダンスノートが正式に採択されてから翻訳したいと思います(国連における子ども参加については〈国連システムにおける子ども参加の現状と課題〉も参照)。

 3月6日に意見募集が終了した後、寄せられた意見を踏まえて最終的な修正が行なわれる予定です。正式なガイダンスノートがいつ発表されるかは未定ですが、それほど遅くはならないのではないかと思います。(追記〔2023年8月25日〕:8月17日に公表されましたので、こちらの投稿を参照)


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