見出し画像

国連システムにおける子ども参加の現状と課題

 国連で「子どもの権利の主流化に関するガイダンスノート」の作成が進められていることについては、前回の投稿でお知らせしたとおりです。

 そのことにも関わる話ですが、セーブ・ザ・チルドレン国際連盟は、国連システムにおける子ども参加がどのぐらい進んでおり、今後さらに強化していくために何が必要かについての調査を実施し、2021年12月に『いっしょに決める!:国連プロセスへの子ども参加の強化』Together We Decide!: Strengthening child participation in UN processes)と題する報告書として発表しました。

 報告書では、子どもの人権に関わる次の7つの国連機関/プロセスに焦点を当て、子ども参加の状況を分析しています。
-安全保障理事会
-国連総会
-人権理事会
普遍的定期審査(Universal Periodic Review: UPR)
ハイレベル政治フォーラム
-子どもの権利委員会
特別手続

 とくに21世紀に入ってから、国連システムへの子ども参加は徐々に強化されてきました。たとえば2002年の国連子ども特別総会(5月8~10日)には、政府代表団またはNGOのメンバーとして400人近くの子どもが正式に参加しています(注)。子どもたちは、総会直前に開かれた子どもフォーラムで私たちにふさわしい世界というメッセージ(特別総会の成果文書の子どもにふさわしい世界という名称をふまえたもの)をとりまとめ、総会初日、13歳と17歳の2人の子どもがこれを読み上げました(国連総会で子どもが演説したのはこれが初めて)。

注/当時の報告では、世界132か国の政府代表団から239人、NGOから135人の合計374人が参加していたとされます(ちなみに私も、政府代表団のNGOメンバーとして国連子ども特別総会に参加させてもらいました)。セーブ・ザ・チルドレンの報告書によれば、600人以上の子どもが参加したとのことです(p.17)。なお、セーブ・ザ・チルドレンの報告書には、サミット直前の「子どもフォーラム」および「私たちにふさわしい世界」への言及はありません。

 国連・子どもの権利委員会も、締約国による定期報告プロセスへの子ども参加を奨励するとともに、近年、とくに一般的討議に際して子どもたちの組織的関与を得るようになっています(2018年に採択された関連のガイドライン参照)。一般的意見26号(とくに気候変動に焦点を当てた子どもの権利と環境)の作成にあたり、オンラインアンケートや地域協議を通じて広く子どもたちの意見を聴こうとしていることは、これまで紹介してきたとおりです。

 セーブ・ザ・チルドレンによる今回の報告書では対象とされていませんが、国連・社会権規約委員会も、持続可能な開発と社会権規約についての一般的意見の作成にあたって初めて子どもたちとの協議を行ないました。

 2019年7月から子どもに対する暴力に関する国連事務総長特別代表を務めているナジャート・マーラ・ムジード(Najat Maalla M'jid)さんが国際的レベルにおける子ども参加をリードする取り組みを続けてきたことも、これまでにお知らせしてきたとおりです。10月1日(UTC/協定世界時)には、同特別代表が国連総会第77会期に提出した報告書(気候変動が子どもに対する暴力に及ぼす影響)の概要について子どもたちに説明するオンラインイベントが行なわれます(ウェビナー登録はこちらから/9月27日追記報告書のチャイルドフレンドリー版が公開されました)。

 とはいえ、こうした取り組みには依然としてムラがあり、国連システム全体にしっかりと定着したものにはなっていません。今回の報告書では次のように強調されています(p.7;原文は太字)。

 現段階での真の課題は、子ども参加をいっそう積極的、持続可能かつ体系的な形で子ども参加を国連プロセスに根づかせることであり、それを支える、子ども参加のすべての取り組みに関する良質な基準を確保するための強力な政策枠組みを整備することである。私たちは、子ども参加の逸話的実例や一度限りのイベントから、子どもたち――不平等や差別の影響を受けている子どもたちを含む――の多様な声と経験を反映した、そして国連の決定や成果を意味のあるやり方で形作ることのできる、協働的かつ持続可能な子ども参加プロセスの確立に向けて行動しなければならない。

 このような認識を踏まえ、報告書は次の6項目からなる行動計画を提案しています(p.8;太字は原文ママ)。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
1.権利を有する存在および市民社会の不可欠な一部としての子どもたちに関する、ポジティブでエンパワーメントにつながる言説を紡ぎあげていくことにより、子ども参加を唱道していく。子どもたちを、弱い立場に置かれた集団、援助の受益者または若者カテゴリーの下位集団としてのみ位置づけることは避ける。子どもたちが人権擁護者として行動する際に遭遇する可能性があるリスクや障壁を認識し、対応策をとる。
2.すべての子どもにとっての、いっそう子どもにやさしく包摂的な環境を支えるため、積極的かつ社会変革的な措置をとる。政治的リーダシップと資源配分を通じ、国連プロセスへの子どもたち(とくに不平等や差別の影響をもっとも受けている子どもたち)の参加を促進していく。促進のための措置には、平等および子ども参加の尊重を妨げる根深い障壁(大人と子どもの間にある力の不均衡、硬直的体制、国連機関・国・社会・メディア・力の保有者によって固定化されてきたその他のバイアスなど)に対処することも含まれる。
3.あらゆるレベルで法律上・政策上の枠組みを強化し、CRC〔子どもの権利条約〕その他の人権枠組みに掲げられたすべての子どもの市民的・政治的権利を保障する。国連レベルでは、子ども参加および実践ガイドラインに関する国連システム全体の方針(国連・子どもの権利委員会の一般的意見12号およびそこに掲げられた「意味のある倫理的な子ども参加のための9つの基礎的要件」パラ132-134を踏まえたもの)を策定することにより、子ども参加の制度化を図る。
4.国連プロセスおよび国連の意思決定(国連運営機構を含む)に子どもたちが意味のある、安全かつ持続可能なやり方で参加できるようにするためのオンライン・オフラインの空間をあらゆるレベルで創設することを通じ、子ども参加を制度化する
5.子どもたちおよび将来世代に影響を与える国連の政策・決定の形成にあたり、対等なパートナーとしての子どもたちのエンパワーメントおよび関与を図っていく持続可能なパートナーシップを、国連全体で、子どもたち、国、国連機関および市民社会との間に発展させていく。これらの政策・決定がすべての子どもにとってアクセスしやすいものであることを確保する。
6.各国および国連駐在代表内に子どもの権利を専門に担当する部局を設けるとともに、十分な資金および資源(国連システムの組織的能力構築のための複数年にまたがる金銭的・物質的支援を含む)の提供を確保する。子どもの権利および国連プロセスへの関わり方に関する、子どもたち自身の意識啓発と能力構築支援を図る。その際、子ども主導のグループと、不平等や差別の影響をもっとも受けている特定の集団の子どもたちにとくに焦点を当てる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ただし、国連レベルでのこうした取り組みも、国内における子ども参加の実践の蓄積がなければ十分かつ実質的な発展は見込めません。日本でも、上記の行動計画を参考にしながら子どもの意見表明・参加を推進していく必要があります。

noteやホームページでの翻訳は、ほぼすべてボランティアでやっています。有用だと感じていただけたら、お気持ちで結構ですのでサポートしていただけると、嬉しく思います。