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国連事務総長室が国連システムにおける「子どもの権利の主流化」への意欲を表明

 国連事務総長室が、国連システム全体で子どもの権利を主流化していくこと(child rights mainstreaming)に向けた取り組みを強化していく方針を明らかにしました(10月19日)。このような働きかけを行なってきた国際NGO Child Rights Connect は、この画期的な決定を歓迎しています。

★ Child Rights Connect: Milestone decision by the UN Secretary-General in response to our position paper on child rights mainstreaming
https://www.childrightsconnect.org/milestone-decision-by-the-un-secretary-general-in-response-to-our-position-paper-on-child-rights-mainstreaming/

 同団体は、アントニオ・グテーレス国連事務総長が2021年9月10日に私たちの共通の課題(Our Common Agenda)を発表したことを受けて、「子どもの権利の主流化:『私たちの共通の課題』を受けた子どもの権利に関する国連全体戦略の呼びかけ」Mainstreaming child rights: a call for a UN-wide strategy on child rights in response to Our Common Agenda)と題するポジションペーパー(PDF)を発表しました(12月24日追記:ポジションペーパーの日本語訳はACE〈国連に対して子どもの権利主流化を求める声明に賛同しました〉を参照)。

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 ポジションペーパーでは、国連が近年「若者」(young people / youth)に焦点を当てた取り組みを強化していること(たとえば2018年9月に発表された国連若者戦略に関するFacebookへの投稿を参照;本記事の末尾にも採録しておきます)を歓迎しつつ、「若者」に子どもを包含してしまっては子ども特有の権利、ニーズおよび文脈が見過ごされてしまうと指摘しています。したがって、国連の活動の3本柱(平和と安全/人権/持続可能な開発)すべてに適用される、子どもの権利に特化した戦略が必要だというのが同団体の提起です。

 このような戦略には、少なくとも次の5つの要素が含まれなければならないとされます。これに続けて、国連システムへの組織的な子ども参加を進めていくことの必要性も指摘されています。

1.子どもの定義
2.子どもの権利の説明
3.子どもの権利アプローチの定義
*
4.子どもの権利アプローチの適用
 a)子どもの権利が国連のすべての柱に関連する理由および子どもの権利が部門横断的(cross-sectoral)である理由
 b)マネジメント/戦略的計画立案およびプログラミングとの関連で子どもの権利アプローチをどのように実施すべきかに関する具体的指針
 c)多様性と交差性(diversity and intersectionality)を適切かつ効果的に前進させる方法についての具体的情報
 d)国連・子どもの権利条約のホリスティックな実施に不可欠な要件としての、さまざまな機関間の調整の促進
 e)国連諸機関がその活動に組織的なやり方で子どもの関与を得る際に参照・活用できる、子ども参加の手法と子どもの安全確保(セーフガーディング)に関するガイドライン
5.アカウンタビリティと評価の枠組み

* 国連・子どもの権利委員会は、あらゆる形態の暴力からの自由に対する子どもの権利についての一般的意見13号(2011年)で、子どもの権利アプローチについて次のように説明しています。
「59.子どもの権利アプローチの定義。権利を有する者としての子どもの尊厳、生命、生存、ウェルビーイング、健康、発達、参加および非差別を尊重することを、子どもに関わる締約国の政策の際立った目標として確立および擁護することが求められる。これを実現する最善の方法は、条約(およびその選択議定書)に掲げられたすべての権利を尊重、保護および履行することである。そのためには、子どもが、保護に対する不可譲の権利を有する権利の保有者としてではなく、援助を必要とする「客体」として見なされかつ扱われる子どもの保護アプローチからの、パラダイム転換が必要となる。子どもの権利アプローチは、差別の禁止(第2条)、子どもの最善の利益の考慮(第3条第1項)、生命、生存および発達(第6条)ならびに子どもの意見の尊重(第12条)を常に指針としながら、義務の保有者が権利を尊重、保護および履行する義務を果たす能力および権利の保有者が自己の権利を請求する能力を発展させることにより、条約に掲げられた子どもの権利の実現を前進させるアプローチである。子どもはまた、自己の権利を行使するにあたり、子どもの発達しつつある能力にしたがって、養育者、親およびコミュニティの構成員による指示および指導を受ける権利も有する(第5条)。この子どもの権利アプローチはホリスティックであり、子ども自身の、そして子どもがその一員であるすべての社会システム(家族、学校、コミュニティ、諸制度、宗教的システムおよび文化的システム)の強さおよび資源を支えることを重視するものである。」

 Child Rights Connect が9月21日付でこのポジションペーパーを国連事務総長室に送付したところ、戦略的調整担当のフォルカー・ターク(Volker Türk)事務次長補から10月19日付で返信(PDF)があり、冒頭で述べたような方針が明らかにされたものです。返信では、「子どもの権利の主流化に関するガイダンスノート」を作成する計画が述べられています。以下、一部を日本語訳して紹介します。

 ホリスティックな子どもの権利の視点が、国連システム全体を通じ、国際社会、国際地域および地方の各レベルで強化されなければならないという貴職の分析に同意します。これは人権基盤アプローチ(HRBA)にも合致することです。また、「私たちの共通の課題」および事務総長による「人権のための行動の呼びかけ」(C2A)の両方を含む、システム全体のイニシアティブ、政策および手続のなかで特定されたすべての優先課題全体で、若者に加えて子どものことを包括的かつ明示的に考慮することの重要性も認識しています。これは今日の子どもたちにとって関連することであると同時に、将来世代の子どもたちにも関連することです。
(中略)
 とくに子どもの権利の問題に関して、私たちは、機関間プロセスを通じて「子どもの権利の主流化に関するガイダンスノート」を策定することを計画しています。これにより、システム全体の同僚たち〔注/国連関係者〕が、子どもの権利の包摂を支援するためのツールを手にすることになるでしょう。

 このような「子どもの権利の主流化」は、日本でも「子ども(の権利)基本法」の制定、「子ども庁」のような機関および子どもオンブズパーソン/コミッショナーの設置などを通じて進めていかなければならないことです。ガイダンスノートの発表がいつごろになるかはわかりませんが、何年もかかるものではないと思われますので、発表されたらまた内容を紹介したいと思います。

【付録】2018年9月24日に発表された国連若者戦略「ユース2030:若者とともに、若者のために」の概要を紹介したFacebookへの投稿(2018年11月14日付)を採録しておきます。

 この間何度か言及してきた国連若者戦略「ユース2030:若者とともに、若者のために」(2018年9月24日発表)の概要を簡単に紹介しておきます(同戦略〔PDF〕のダウンロードは↓から)。
https://www.un.org/ecosoc/sites/www.un.org.ecosoc/files/18-00080_un-youth-strategy_web.pdf

 同戦略は、今年6月に国連人権理事会に提出された国連人権高等弁務官の報告書「若者と人権」(2018年6月28日、A/HRC/39/33)なども踏まえたものです。

 これは、国連がその活動の3つの柱(平和と安全/人権/持続可能な開発)全体を通じて若者とともに/若者のために行なう取り組みを強化するための、国連機構全体の指針となる包括的枠組み(umbrella framework)と位置づけられています。なお、国連で「若者」(youth)という場合には15~24歳の年齢層を指すのが一般的ですが、この戦略では必ずしもこの年齢層には限定されていません。

 同戦略で優先課題に挙げられているのは次の5つです。

1)【関与・参加・アドボカシー】
 平和で公正な、持続可能な世界の促進のために若者の声を増幅する
2)【十分な知識に基づく健康的な基盤】
 良質な教育・保健サービスへの若者のアクセスの拡大を支援する
 ※保健サービスとの関連では、セクシュアル/リプロダクティブヘルス関連のサービスや包括的セクシュアリティ教育も重視されています。
3)【ディーセントワークを通じた経済的エンパワーメント】
 ディーセントワーク(人間にふさわしい仕事)および生産的雇用への若者アクセスの拡大を支援する
4)【若者と人権】
 若者の権利を保護・促進し、若者の市民的・政治的関与を支援する
5)【平和とレジリエンスの構築】
 平和・安全および人道的行動の推進役としての若者を支援する

 いずれも重要な課題であり、日本でも――若者の力をつまみ食いのような形で利用しようとするのではなく――すべての課題に渡って人権の視点に立った取り組みを進めていかなければならないと思います。

 なお、国連による以下の記事も参照。
- UN SG launches #Youth2030 strategy
https://www.un.org/sustainabledevelopment/blog/2018/09/youth2030-launch/
- Youth2030: UN chief launches bold new strategy for young people 'to lead'
https://news.un.org/en/story/2018/09/1020302

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