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「子どもの権利の主流化」に関する国連事務総長のガイダンスノート(抄訳)

 2月の投稿で草案の概要を紹介した「子どもの権利の主流化」に関する国連事務総長のガイダンスノートPDF)が、7月12日に事務総長執行委員会によって承認され、8月17日に公表されました。Child Rights Connect のサイトからダウンロードできます。

 ガイダンスノートは、(1)はじめに、(2)指導原則(Guiding Principles)、(3)国連の行動の枠組みという3つのパートから構成されています。国連のシステム/諸機関を対象とする指針ではありますが、各国の行政機関や自治体にとっても参考になる内容です。また、国連が組織的にこのようなコミットメントを表明したことは、子どもの権利の保護・促進にとって大きな意味があります。

 全訳にはもう少し時間がかかりますので、とりいそぎ(2)指導原則の日本語訳を掲載しておきます(全体を訳す過程で若干修正する可能性があります)。太字は、原文で青字で強調されている箇所です。「子どもの権利の主流化」の定義やその前提となる認識の説明は草案から大きく変わっていませんので、2月の投稿をご参照ください。

【追記】(2023年8月29日)全訳を作成・公開しました


2.指導原則

1.子どもの権利は人権である。

 すべての人がそうであるように、子どもは権利の主体である。国際的レベルでは、子どもの権利――子どもの人権を指す用語――には、CRCとその選択議定書に列挙された諸権利、すべての人に適用される国際人権条約に掲げられた諸権利、および、ILO最低年齢条約、ILO最悪の形態の児童労働条約、人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止しおよび処罰するための議定書[1]といった他の関連の国際文書に示された諸権利が含まれる。これらの文書上、子どもは、その親または保護者とは独立に、全面的に権利を保有する存在である。これらの文書は子どもと国との直接の関係を確立するものであり、親には子どもに対する所有権があるという推定に異議を唱えている。子どもの権利委員会が述べているように、「国は、……ひとりひとりの子どもに対する明確な法的義務を履行する役割を自覚しなければなら」ず、「子どもの人権の実施は、子どもにいいことをしてあげるという慈善のプロセスとしてとらえられてはならない」[2]。CRCはまた、国は親および保護者が子どもの養育責任を果たすにあたって援助を提供しなければならないとも規定している。

2.子どもの権利は、国連の3本の柱のすべてにわたる、すべての者にとっての関心事である。

「国際連合では、すべての意思決定業務および組織的コミットメントにおいて、人権が全面的に考慮されなければならない」[3]。子どもの権利は、人権にとって本質的なものであるため、国連システムの全機関の活動に関連しているのであり、国連憲章の3本の柱のすべてにわたる政策およびプログラムの立案、実施、モニタリングおよび評価の不可欠な側面と位置づけられるべきである。組織上のあらゆる政策、プログラムおよび実践には子どもの権利の実現に貢献する役割があるのであり、すべての機関は、それぞれの任務に基づく行動が子どもたちにとってどのような意味合いを持つか、留意しておかなければならない。したがって、各国連機関は、その任務が子どもたちにどのように適用されるかについての理解を発展させるとともに、国連憲章の3本の柱のすべてにわたって関連の能力構築を図らなければならない、

3.子どもは、固有の諸権利を持った特有の権利保有者である。

 18歳未満のすべての者は子どもであって、その属性、地位、行動もしくは家族関係にかかわらず、または犯罪その他の違反行為(テロ関連犯罪を含む)に関与したと疑われもしくはみなされているか否かにかかわらず。子どもとして捉えられかつ扱われるべきである。国際法上、子どもは特有の権利保有者の集団と位置づけられており[4]、子どもの身体的、社会的、情緒的および認知的発達が、その発達しつつある能力――すなわち、子どもは大人から独立して自己の権利を行使する成熟度および能力を徐々に獲得しつつあるという事実――を裏打ちしている。子どもを、意見を聴かれ、尊重され、かつ権利行使に関していっそうの自律性を認められる資格のある、自分自身の生活における積極的行為者として認めると同時に、危害から保護される権利およびより高度な配慮義務の対象とされる資格も認めているのが、CRCの中核でありかつ独自な点である。したがって、関連するすべての国連の戦略、計画、文書および通信において、関連性があるたびに子どもへの明示的な言及が行なわれ、かつ子どもの固有の権利が明確な形で反映されるべきであって、「若者」('youth' or 'young people')など他の異なる集団に埋没させられるべきではない。これらの用語は国際法では定義されておらず、異なる(ときには重複する)権利を持った別の人口集団を指すのに用いられているものである。同様に、女子(girls)も女性と一括りにされることが多いものの、実際には特有の権利保有者集団として認識されるべきである。

4.子どもの諸権利は、不可分で、相互依存性および相互関連性を有する。

 CRCはあらゆる範囲の子どもの権利、すなわち市民的、政治的、経済的、社会的および文化的権利を掲げており、そして子どもの権利は、すべての人権と同様に、不可分であり、相互依存性および相互関連性を有している。したがって、すべてのカテゴリーの権利およびすべての権利(とりわけ軽視・否定されながらも、子どもが権利保有者であるとはどういうことかという点にとっては同じように中心的重要性を有する、市民的および政治的権利を含む)に対し、平等な注意を向けることが求められる。国連システムは、子どもの権利の不可分性を積極的に守り、かつすべての権利の実現を促進するべきである。大人と同様に、子どもには人権擁護者となる権利があり、この権利を行使する際に保護される権利がある[5]。国連システムは、人権擁護者である子どもをエンパワーし、かつその保護を支援するべきである。

5.国連のすべての行動において、子どもの最善の利益が第一次的に考慮されるべきである。

 CRCは、子どもに影響を及ぼす可能性のあるすべての決定および行動において、子どもの最善の利益を第一次的に考慮することを要求している。したがって、国連システムは、国連全体のすべての取り組みおよび機関固有のすべての対外的行動ならびに国連システム自体の対内的業務に、子どもの最善の利益に対する正当な考慮を組み入れるべきである。この要件を満たすためには、関連するすべての(対外的・対内的プロセス双方の)プロセスに当初から、かつ子どもの意見に基づいて組みこまれた、子どもの権利影響事前評価(子どもおよびその権利の享受に影響を及ぼす法律、政策、予算配分またはプログラムのいかなる提案についてもその影響を予測すること)および子どもの権利影響事後評価(実際の影響を評価すること)の継続的プロセスが要求される。また、デューデリジェンスを確保するためのすべてのプロセスに、子どもの権利および子どもの安全確保に対する全面的考慮が含まれることも必要である。

6.国連のすべての行動において、平等および非差別が促進されるべきである。

 子どもの権利は、子どもの地位とは独立に、かつ差別なく、すべての子どもを対象として擁護されるべきである。子どもたちは均質な集団ではなく、その豊かな多様性を踏まえて[6]、かつ他の子どもよりも脆弱な状況に置かれた子どももいるという認識をもって、捉えられなければならない。子どもたちにとくに影響を及ぼしている人権侵害を特定しかつ対処するため、国連のすべての対内的データ管理システムおよび地域的・国際的指標において、他の集団よりも大きな――時として交差的な――差別に直面している集団もあるという認識のもと、年齢(18歳未満/以上)、ジェンダーおよび種々の差別事由による細分化に重要な位置づけが与えられるべきである[7]。同様の細分化を国内システムについても推進することが求められる。加えて、国連システムは、もっとも差別されている子どもたちへの特段の注意および資源配分を促し、かつ、法律上のおよび法律の前における平等の後退と積極的に闘う責任を有する。

7.国連の行動において、意味のある子ども参加が促進・包摂されるべきである。

 CRCにしたがい、子どもには、自己に影響を与えるすべての事柄について自由に意見を表明しかつ意見を聴かれる権利およびその意見を正当に重視される権利がある。機関レベルおよび国連全体の双方における国連の政策とプログラムで、子ども参加が不可欠のかつ組織的な考慮事項とされるべきであり、かつ、国連の戦略、計画およびアプローチの立案、実施および評価を含む国連のプロセスにおいて子どもたちが意見を聴かれる十分な機会が、多様な集団の子どもたち(対象とするのがもっとも難しい子どもたちを含む)を対象とする形で設けられるべきである。そのため、このような参加が「効果的、倫理的かつ意味のある」こと(子どもの権利委員会は、このような参加について「透明かつ情報が豊かである」、「任意である」、「尊重される」、「子どもたちの生活に関連している」、「子どもにやさしい」、「インクルーシブである」、「訓練による支援がある」、「安全であり、かつリスクに配慮している」、そして「説明責任が果たされる」ものであると定義している)[8]を確保する目的で、システム全体で集団的能力を高めることが求められる。意味のある参加を促進するため、国連はまた、関連の情報が、子どもにやさしくかつアクセシブルな形式で、すべての子どもに提供されることも確保するべきである。

8.国連は、子どもの権利侵害に関するアカウンタビリティおよび救済を促進するべきである。

 中核的人権原則のひとつである権利侵害についてのアカウンタビリティは、子どもの権利にとっても中核的である。しかし、数百万人の子どもたちが毎日その権利を侵害されている一方で、訴え出て救済を求めることができるのはごく少数の子どもしかおらず、効果的救済を得られる子どもはさらに少ない。さらに、司法へのアクセスに関する国連のプログラ活動に子どもたちが包摂されることは稀である。国連システムは、武力紛争中および武力紛争後も含め、法の支配に関するより幅広い取り組みの一環として、子どもたちによる司法へのアクセスを、そして効果的救済に対する子どもの権利の行使を、支援することが求められる。国連機関はまた、人権・アカウンタビリティ機構の活動に子どもの権利が全面的に統合され、かつ、そのような機構に関与する際に〔子どもが〕報復から保護されることも確保するべきである。最後に、国連機関は、機関自身の業務の結果として子どもに影響を与えるいかなる運営上の違反または権利侵害も防止しかつこれに対処するための、対内的なアカウンタビリティ手続を設けまたは強化するよう求められる。


[1] 国連・国際組織犯罪防止条約を補足する議定書。

[2] 子どもの権利委員会、一般的意見5号(2003年、CRC/GC/2003/5)、パラ11。

[3] Secretary-General’s Call to Action for Human Rights.

[4] 子どもの権利条約第1条「子どもとは、18歳未満のすべての者をいう。ただし、子どもに適用される法律の下でより早く成年に達する場合は、この限りでない」。

[5] 普遍的に承認された人権および基本的自由を促進しかつ保護する個人、集団および社会組織の権利および責任に関する宣言、第1条(国連総会、1999年3月)。

[6] 「共通国別分析の82パーセントで、取り残されるおそれのある集団のひとつに子どもが挙げられているが、子どもはしばしば均質的な集団とみなされ、ジェンダー、性的指向、民族、市民権および能力に基づくものを含む、さまざまな交差的差別事由が無視されている」。Review of New Generation Common Country Analyses and UN Sustainable Development Cooperation Frameworks; Inter-agency UNSDG Human Rights Focal Points Network; May 2022.

[7] さらに詳しい指針は、Guidance note on intersectionality, racial discrimination and protection of minorities, 2022 参照。

[8] 子どもの権利委員会、意見を聴かれる権利についての一般的意見12号(2009年)、CRC/C/GC/12、パラ134。


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