夜の帳
普段なら脚立の二段目からでも下を見て体が震えるのに、その夜は高さを求めたくなった。
その衝動を意図して飛び込んだライブハウスで確かな高揚感を持ち帰り、20時過ぎの湿った空気を吸った。火の消えていないタバコが路上に落ちていた。人の目を気にしながら咳をする自分を俯瞰で見た途端に、現実に引き戻されてしまった。
願うなら出会したくなかった悲観的な現実からの逃避行は、こうして誰かの行き届かない処理によって足を掬われた。
時間通りにやってきては去っていく最短距離を背にして、軒並み閉店している暗闇を目指してそれとなく徘徊する。影がみるみる長くなっていく。
繁華街のそれには目もくれず、内に深まる意識に身を委ねていった。
快楽を耳にして
自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。