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捨てられず、夏

とっととバラシにして撤収したいと毎夏思いながら、「夏には体調を崩しやすいから気をつけてね」とのアドバイスを、未来に片足突っ込んでチラ見した人から受け取ってから、余計に消極的になる夏が近づく。


長袖は考えることもなくなって、箪笥の奥に巡った。
着回せるほどのTシャツの一山を見渡して、それでも少ないから買い足したくなる夏を何度目なのか考えそうになったけど、ぼやっと数字が浮かぶ前にやめて、スーパーの冷凍コーナーの重い扉をバッと開けた。

冷気が手を伝う。夏色が一点を見つめている。
息を吐いたら白くなってくれないかなって期待したのに、店員なら耳にタコができるぐらい聞こえてくる定型文の有線にかき消されるほどのため息だけが冷凍庫の扉の奥に満たされた。

温度感と言われると、季節柄のイベント事よりも先に、手前に見える生活レベルばかりで想像する。冷感マットに背中を預けて睡眠を試みる。あくびで朦朧とする以上にはっきりとした熱気に起こされ、ふらつきながら冷蔵庫に向かい、氷を口に入れてみる。おだやかになるまで座り込んで、長引くようならコップに氷2つと麦茶を入れる。夏。


どうせ誤って、謝ってしまう。

正しくはないから、間違っている、と感覚だけ鋭くなって、真っ直ぐ歩きたいと考え始めた途端に足がもたつくように、末端まで使いきれていない変な姿勢でアスファルトを蹴りながら、靴擦れという真っ当な返答に安心したい

気怠い陽炎が地を這う数メートル先を見て見ぬふりをして、その足は夏を鳴く。




自分を甘やかしてご褒美に使わせていただきます。