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連続短編ドラマ「いっとき!」第三話

※著作権は小島久弥子に帰属します。
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【登場人物】
 田中トキ(5)少女
 田中キン(25)旅館の仲居。トキの母
 糸井修真(23)常慶寺の僧侶
 長野永昌(60)常慶寺住職
 神田文子(48)キンの上司・みのり屋女将
 小山ナカ(42)キンの同僚
 森小梅(18)キンの同僚
 山谷ヤス(66)長屋の大家
 
 ナレーション

○前回のリフレイン
N「修真さんはトキのことが気になって仕方がないようです。その頃トキは、大家さんに水を浴びせかけられていました。トキちゃん、大丈夫かい?」

   タイトル

○長屋・山谷家・外
   戸の前にずぶ濡れの田中トキ(5)。
   近所2,3人がコソコソ話している。
   トキは歩いて行く。

○常慶寺・外観

○常慶寺・客間
   談笑している長野永昌(60)と神田文子(48)。
永昌「ところで、以前ご相談した件ですが」
文子「はいはい。今日実際に会ってみて、雰囲気がわかりましたからね。是非糸井様に合う女性を探しましょう」
永昌「面倒な事をお頼みして申し訳ない」
文子「いいえ。お坊様の縁談のお世話ができるなんて光栄ですわ」
永昌「出家した身で妻帯するなんて、お恥ずかしい話ですけれども」
文子「ご住職が独身なのも恥だからですか?」
永昌「ええ、昔はそう思っていました」
文子「今は違うんですか?」
永昌「明治の国家神道政策で仏教は日陰に追いやられましたけれども、信心があればきっと人々はお寺と仏教の教えを必要としてくれると思っていました。しかしそれは私の驕りだったんですね」
文子「そうでしょうか?」
永昌「そうですとも。私は市井の人々が本当に困っている事、悩んでいる事、苦しんでいる事を理解しようとしなかった。だから、この寺も、私も、必要として貰えなかった」
文子「そんな事ありません。私にはお寺がある事が支えになって来ましたよ」
永昌「ありがとうございます。しかし、修真にはもっと人の心の側にいて欲しいのです」
文子「それで縁談を?」
永昌「家族は一番小さな社会ですからね。仏道にはそぐわないかもしれませんが、修真にはいい修行になるでしょう」
文子「あら、じゃあ責任重大ですわね」
永昌「はは。これはすみません」
文子「お寺の縁談ですから、それなりのお家の娘さんじゃないとですよね」
永昌「ご縁があればどなたでも。ただ」
文子「ただ?」
永昌「お寺の暮らしは質素ですからね、それでも構わないお嬢さんがよろしいかと」
文子「なるほど」

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