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短編ドラマ「いっとき!」第二話

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【登場人物】
田中トキ(5)少女
糸井修真(23)常慶寺副住職
長野永昌(60)常慶寺住職
田中キン(25)トキの母・みのり屋仲居
小山ナカ(42)キンの同僚
神田文子(48)キンの上司・みのり屋女将
山谷ヤス(66)トキの住む長屋の大家

ナレーション

○前回のリフレイン
N「ここは時は昭和五年の甲州街道の宿場町、下布田宿でございます。田中トキという少女は、ある日糸井修真というお坊様と出会ったのでした」

   タイトル

○旅館みのり屋・外観

○同・休憩室
   神田文子(48)が眼鏡を掛けて算盤をはじいている。
   小山ナカ(42)と田中キン(25)が入ってくる。
ナカ「失礼します」
文子「おや、休憩かい?」
ナカ「ええ。座っても?」
文子「ご苦労さんだね。すぐ片付けるよ」
   文子は机の上の書類や帳簿を片付ける。ナカ「端っこ使わせて貰えれば大丈夫ですよ」
文子「しっかり働いて貰うためにはしっかり休んで貰わないとね」
ナカ「ありがとうございます」
   ナカとキンは座る。
文子「キンちゃん、ちゃんとご飯食べてるのかい?」
キン「え?」
文子「顔色悪いんじゃないのかい?」
キン「そうですか?」
   キンは自分の顔を触る。
ナカ「確かにねぇ。子供が夜泣きするとか?」
キン「もうそんな歳じゃないですよ」
文子「旦那はどうしてるんだい?」
キン「うちは、その、主人はいないので」
ナカ「え!?」
文子「そうなのかい? 私はてっきり」
ナカ「主人は、娘がお腹にいる時に病気で死にました」
ナカ「そいつはつらかったねぇ」
文子「ご実家はこの辺で?」
キン「いえ、実家は神田の方で」
ナカ「もしかしてお金持ち?」
キン「いやいや、ただの奉公人ですよ」
文子「実家に助けて貰わないとキツいでしょう?」
キン「それが、娘を産んですぐに、養子に出して再婚しろと言われまして」
ナカ「なんて事を言うんだい!?」
文子「嫁ぎ先は?」
キン「舅にも、息子の事は忘れて幸せになって欲しいと言われまして」
文子「孫もいらないって言われたのかい?」
キン「娘でしたし、主人の弟さんには息子さんがいましたから」
ナカ「孫であることには変わりないだろうに!」
文子「それで娘抱えて家出したってのかい?」
キン「ええ。すぐここで働かせて貰える事になってよかったです。ありがとうございます」
文子「うちは働き者が入ってくれて嬉しいよ」
ナカ「それにしても、なんでそんな顔色悪いのさ?」
文子「何処か悪いんじゃないかい? 医者を呼ぼうか?」
キン「いえ、大丈夫です! ただ、最近ちょっと食欲がなくて」
ナカ「食欲?」
文子「暑くなってきたしね。気をつけなね」
キン「ありがとうございます」
   キンはニコリと笑う。

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