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プリズム劇場#021「エラー音に遭遇する人」

こちらはラジオドラマ番組『小島ちひりのプリズム劇場』の作品を文章に起こしたものです。
是非、音声でもお楽しみください。
【standfm】
https://stand.fm/episodes/668a17cd74e5ac07a0b3500d
【YouTube】
https://youtu.be/Ea3dCxtjFiw
【その他媒体】
https://lit.link/prismgekijo


   SE スマホの着信音
 
戸崎総一郎(31)M「一瞬ビクッとして画面を見ると『管理会社』と表示されていた。30秒ほど着信音は流れ続け、突然止まった。俺は部屋を見渡す。 1LDKの部屋はごちゃごちゃと物で溢れ、布団の上にも飲みかけのペットボトルが転がったりしている。半年前までこの部屋はもっと片付いていた。ゲームをしていればメシは出て来たし、洗濯も掃除も全部水希がやっていた。生活費も最初は折半していたが、俺が仕事を辞めてからはなんだかんだ言っても水希が出してくれていた。水希は俺のことが好きだから、何も言わなくても全部やってくれる。そう思っていた。なのにある日突然、水希はいなくなった」
 
   SE コンビニの入店音
 
笠原翔一(20)「らっしゃいませ~」
 
総一郎M「家にいると気が滅入るので外へ出た。適当に入ったコンビニでは、店員が揚げ物をケースに入れている。流石に何か働かないとと思い、求人誌を手に取り脇に挟む。気分が上がらないからビールを手に取り、レジへ行く」
 
翔一「らっしゃいませ~」
 
総一郎M「店員は手際よくレジを操作し」
 
翔一「292円でーす。お支払いは?」
総一郎「カードで」
翔一「表示変わりましたらお願いしまーす」
 
総一郎M「俺はいつも通りカードをかざした」
 
   SE エラー音
 
総一郎「あれ?」
翔一「エラーっすね。もう一回やるんでお願いしまーす」
 
総一郎M「俺はもう一度カードをかざした」
 
   SE エラー音
 
翔一「すんません。調子悪いのかな? 他の支払い方法ってあったりします?」
総一郎「あ、じゃあ現金で」
 
総一郎M「俺は小銭入れを出す。えーと292円…と…」
 
翔一「すんません。ありがとうございます」
 
総一郎M「何回小銭入れを揺らしても、100円玉が1枚しか見えない。いや、50円玉が2枚あれば…ない…」
 
総一郎「すいません。小銭足りないみたいで」
翔一「あ、ほんとっすか」
総一郎「これ、キャンセルで」
翔一「なんかすんません」
総一郎「また出直しますわ」
翔一「ありがとうございましたー!」
 
総一郎M「俺はやれやれと店を出た。そう言えば今日は何を食おう。牛丼でも食いに行くか。駅前の牛丼屋のの券売機の前に立った。今日はまともに食ってないし、張り切って大盛りにしてやるか。タッチパネルを操作し、支払い方法をクレジットにする。カードを差し込み、しばらく待つと」
 
   SE エラー音
 
総一郎「あれ?」
 
総一郎M「もう一度操作してみる」
 
   SE エラー音
 
総一郎「どうなってるんだ?」
佐藤高子(52)「どうなさいました? お客様」
総一郎「会計ができなくて」
高子「クレジットカードですか?」
総一郎「はい」
高子「何か磁気が強いものに近づけたりとかしましたか?」
総一郎「いや? いつも通り財布に入れてただけですけど」
高子「じゃあ、失礼ですけど、支払い忘れとか……」
 
総一郎M「俺ははっとした。そうだ。そう言われればクレジットカード会社から何かハガキが来ていた。面倒だからその辺にやってしまったが、あのハガキは、今どこに……」
 
高子「お客様?」
総一郎「す、すいません。出直します」
 
総一郎M「俺は慌てて店を出た。早歩きで家へ向かう。家の前に誰か立っている。小柄のおっさんだ。俺は咄嗟に壁に隠れる」
 
   SE インターホンの音
 
馬場直行(48)「戸崎さーん! 戸崎総一郎さーん! いらっしゃいませんかー?」
 
   SE インターホンの音
 
馬場「戸崎さーん! 管理会社の者ですー!」
 
総一郎M「俺の心臓音は信じられないくらいバクバクと鳴っていた。今出て行ったら、終わる」
 
馬場「ふう」
 
総一郎M「おっさんは溜息を吐くと、ポストに何かを入れてこちらに歩き出した。俺は慌てて植木の陰に隠れる。おっさんは俺には気づかず、スタスタと歩いて行った」
 
総一郎M「おっさんが立ち去ったのを確認し、俺はなるべく静かに部屋に入る。おっさんがポストに入れた物を確認する。『督促状』と書かれていた。俺は慌ててスマホを見る。メッセージアプリのともだち一覧を順番に見ていく。あや、えりか、けいこ、さとみ、しおり、ちえ、まいか……いた」
 
   SE コール音
 
日下舞香(24)の声「もしもし?」
総一郎「もしもし? まいかちゃん? 俺、総一郎だけど」
舞香の声「ああ! 総ちゃん? 久しぶり~どうしたの?」
総一郎「ちょっとお願いがあってさ」
 
総一郎M「俺はできるだけ明るい声で話し始めた」

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