第24号 2022.01.29:初めて聞く曲にノックされた記憶の扉

■ 初めて聞く曲にノックされた記憶の扉

『文藝』の「母と娘たちの狂女の歴史」を書かれたイ・ランさんがシンガーソングライターであると知り、どんな歌を歌われる方なのだろうと気になったので聞いている。

学生時代にアルバイトをしていた古書店で流れていそうだな、と思う。古本屋というより古書店というのが似合う素敵な店だった。薄暗くこぢんまりした空間に、安い文庫本から、海外の写真集、昔の雑誌、本当に貴重な資料的価値のある本まで、色々なものが所狭しと、しかし堂々と並んでいた。棚やその他のインテリアはアンティークでまとめられており、あたたかみと浮遊感のある音楽が流れていた。ハンバート ハンバート、ハナレグミ、Spangle call Lilli line。店の音楽プレイヤーを覗き見て、それまで縁のなかったお洒落な音楽を奏でるアーティストの名前をたくさん知った(当時の私はうるさい音楽ばかりを聞いていた)。

自転車で近所の雑貨屋さんに物を届けに行ったり(個性的な街だったのでセンスの良いお店が多くあった)、買取のために出張してお宅にお邪魔したり(美味しいお茶とお菓子をいただいてほくほくした)、そういう特別な仕事もちょくちょくありはしたけれど。基本的な仕事はレジの前に座って、1日に片手で数えられるかどうかのお客さんを待つことだった。常時寝不足と言っても過言ではないような大学生は、柔らかく穏やかな空気が流れる店内で幾度となく微睡みに誘われそうになった。それを知ってか知らずか店長は、ごめんなさいと私に終わりを告げた。経営上の問題、もっとたくさんバイトに入れる人がいるのでその人に任せることにしたい、という話だった。

もう一度行きたいなと思うけれど、後ろめたさも手伝ってなんとなく足が向かない。そもそも数年前にその店は移転したようだ。店のある街も以前とは違う。大好きだった雰囲気も変わっているかもしれない。今の店はあの店とはきっと違う。私がいたあの店はもう存在しない。それをずっと口実にしている。

■ 日記

推しが油絵を描く姿を見て、自分もやってみたいとキャンバスを買ってから約2ヶ月。ついに着手した。まだ下絵の段階だけど、難しくて楽しい。自分の気に入るような作品を作れるだろうか。

■ 摂取エンタメ記録

Watching:『ヴィンチェンツォ』13話

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