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絶筆「グッド・バイ」を求めて。

元々読書は好きだったけれど、本は増えてしまうと手放すのが難しいのでいよいよKindleを買おうか最近は本気で迷っている。

本と服ほど、断捨離中の人間と相性のわるいものはこの世にないでしょう。

ただ、最初に読んだ衝撃をどうしても定期的に思い出すので、太宰治の絶筆「グッド・バイ」だけは手元に置こうと決めた。

映画化もされたのでご存じの方も多いと思うけれど、「グッド・バイ」は未完の作品。
(※正直こんなに面白い作品を最後まで書かずに自殺された件だけは太宰さんを恨みたいです)

絶筆かつ未完ゆえ、この作品1本では1冊で売られることはないと初めから分かっていたけれど。

ここなら多分売ってるはずと思い、あえて一切の情報を入れずに伊勢佐木町の有隣堂本店へ。

本屋さんではできることなら偶然の出会いを楽しみたいので、本の情報はあえてインプットせずに飛び込むのが好き。
昨今のマッチングアプリよろしく、何でも事前に分かってしまうことほど面白みに欠けることはこの世にないと言ってもいいでしょう。
(※偉そうにほざいてますがマッチングアプリを使ったことはないのでどの程度の情報が事前にやり取りされてるのかは存じません)

小1時間ぐるぐると棚を散策し、岩波書店さんコーナーで「グッド・バイ」収録本を発見。
「人間失格」の抱き合わせだった。

このお話も嫌いじゃないのでいいけれど、できれば「斜陽」の抱き合わせがよかったな。
なんて思いながらレジへ。

伊勢佐木町は、未だに少し怖い。
神奈川に移住したばかりの頃、横浜出身者からは軒並み「伊勢佐木モールの奥は特に女性1人で行っちゃダメ」と釘をさされたものだ。

わたしの生まれ育った「国」は人口もそう多くなく、そんな話を聞くことは一度もなかった。

歴史のある街だからこそ、昔から人口があり何らかの理由で栄えた場所だからこそ、さまざまな事情を抱えた土地がこの「国」にはあるんだと。
教科書に載って知っている地名があちらこちらにある「国」で過ごしてきたひとたちはどんな気持ちだろうと。
横浜民の忠告を受けるたびに、ちょっと心が高鳴った。

でも有隣堂のレジのお兄さんから言わせれば、こんな祝日の穏やかな昼下がりに「人間失格」1冊だけ買って帰るハイヒールの女の方が、伊勢佐木町よりよっぽど怖いよね。
違うのお兄さん、わたしは「グッド・バイ」が読みたかっただけなの。

なんて心の中でレジのお兄さんに弁明しつつ、帰って久しぶりの読書を楽しんだ祝日。

やっぱり、本のある日常って、素敵。

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