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まるごとバナナの話

それは衝撃だった子ジカの事件から2年後の、何気ないある日のことだ。


↓下品極まりない、若き日の黒歴史。R18だと思います。ふうちゃんさん、こんなのにイラスト使ってごめんなさい。

その日、仕事から帰ったボクは何気なく冷蔵庫を開けた。大したものは入っていなかったが、奥の方に「まるごとバナナ」を発見した。こんなの、いつ買ったんだっけ。記憶も曖昧だが、お腹が空いたボクは早速頂くことにした。うん、ひさびさの味だ。ウマい。

↓コレは本当においしい。バナナ1本+ほのかに甘い生クリーム+しっとり柔らかいケーキ生地のトリプルパンチ、山崎パンさんの名品だと思う。多分太る。


しばらくして当時の彼女が帰ってきた。今日は機嫌が良い。だが彼女は冷蔵庫を開けると、態度が一変した。
「あれー、ねえ、ここにあったお菓子知らない?」
「え、まるごとバナナのこと?」
「そう、それ」
「さっき、食べちゃった。お腹空いてたから。」

ボクの言葉に、彼女の表情が変わった。何かのギヤが入ったのが分かった。
「ひどーい。私、帰ったら食べようと思って、楽しみにして一日頑張ったんだから。どうしてくれんのよ。」

文字にすると迫力に欠ける。映画「シンゴジラ」の第4形態をイメージしてくれたら、きっとボクの気持ちが分かると思う。

↓雰囲気はこんな感じ。既にヒトではない…

映画『シン・ゴジラ』公式サイト

吐き出す紅蓮ぐれんの炎は、ボクとボクの部屋まで焼き尽くそうとした。数分の間、炎はやむことなくボクを焼き続けた。何でこんなに怒ってるんだろう。たかがまるごとバナナ一つに、何でこんなに本気で怒ってるんだろう。そもそもたかがまるごとバナナ一つで、何で一日頑張れるんだろう。ボクの脳内で???が駆け巡ったが、いつまでも焼かれていては身がもたない。ボクはゴメン、買ってくる、とだけ言い残し、全速力で近所のコンビニへと走った。自転車で行きたかったが、彼女の迫力に圧倒されたボクにはマンションの駐輪場に寄るなんて時間の余裕はなかった。

良かった、あった。まるごとバナナは二個買った。フルーツゼリーにイチゴミルクも買い足した。どっちも彼女の好物だ。帰りも全力ダッシュだ。こういう修羅場にあって、時間は大きな意味を持つ。袋の中でスイーツたちが揺れていた。形が崩れないよう、慎重に運ばなくては。左手は振ってはいけない。

ヤマタノオロチに貢物みつぎものをした太古の民衆達は、きっとボクと同じ思いだったのだろう。
「どうかこれで怒りをお鎮めください、お願いします…」

↓ピクシブ百科事典「ヤマタノオロチ」。これも当然、ヒトではない。


翌日、職場の同僚の女子数人にこのハナシをした。全員、オマエが悪いと口を揃えてそう言った。女子の楽しみを奪った罪は相当に重いらしい。それからしばらくの間、何かある度にこの件は蒸し返された。そして今なお軽いトラウマとして僕の脳裏に焼き付く記憶となった。女子の生態を一つ学んだ貴重な経験談だ。

妹、姉のいない家庭に育ったアナタ、ぜひこの教訓を参考にしてほしい。出自不明なスイーツが冷蔵庫にあったら、決して勝手に口に入れてはいけない。さもないと紅蓮の炎で焼き尽くされ、多額の品々を捧げ何度も許しを請うことになる。

ホントの話ですからね、コレ。



(イラスト ふうちゃんさん)


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