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キツネなシッポがパパになる④


気がつけばそこは、いつもの世界。やっぱりボクにはムリだったんだ…

すでに、かなり壊れてしまいました。

↓いまさらですが、原作の世界観。


分娩室が熱気に包まれる中、奥さんは産みの苦しみに耐えながら頑張っている。木戸さんは奥さんと息を合わせるようにして、精一杯のサポートをしてくれている。内田さんも新人さんながらに、全力で応援してくれているようだ。そして彼女の胸は相変わらずのプリンプリンと揺れていた。ボクはそんな神聖な場でひとり煩悩と戦っていた…

「頑張れ奥さん、頑張れ木戸さん、そしてありがとう内田さん。でもこの場でプリンプリンはダメだ、今はいけない。え、いつなら良いって?」
文字にするとバカまる出しの妄想だが、緊張感に包まれたこの状況でも意外と煩悩は収まるところを知らないようだ。ボクは自らの愚かさを恥じつつも、自分がこの場で冷静にいることの方が不思議に思えた。

「キミがプリンプリンなら、ボクはぶるんぶるんだ!!」
こんな風に言えたなら場がなごみそうなものだが、残念ながらここにはそんなおフザケの入り込む余地は一切なかった。ここは神聖な場なのだ。改めてボクは心を整えて誠心誠意、出産に立ち会おうと気を引き締めた。

最終奥義「ぶるんぶるん」は↓でご確認下さい。こんな大事な時にアンタ…
スイマセン…

目の前ではもう何度もふー、ふーの大合唱だ。いつ生まれるのかも分からないし、そんなことは聞けない。ただただ黙ってそっと寄り添うように支える、それがボクの使命であり、ボクの役目なのだ。煩悩に打ち勝ったボクはふと後ろを見やった。シッポ様はうなだれるようにこうべを垂れていた。

「あ、はずれちゃった。」

彼女のささやきを、ボクの聴覚器官とシッポ様は聞き逃さなかった。シッポ様はすぐさま再度直立し、勇敢にその身を風になびかせた。「何だって、外れた。何が?何がだ?」さっきまで煩悩に打ち勝っていたボクは、またしても欲望の沼へと引き込まれたようだ。ボクの脳内では「外れちゃった」のささやきが大合唱していた。思わずボクは脇の彼女の方を見た。左肩を抑えモゾモゾとする仕草に、ボクはただ事ではない事態を察知した。彼女もボクの視線に気づいたようだ。ボクと目が合うと、何か察したのだろうか。小さくうなづくと再び「呼吸の型」を繰り返した。その時ボクは目撃した。

「プルンプルン」は「バインバイン」に進化していた。

それはまるでポケモンキャラの進化系のようだった。ピチューがピカチュウに進化するごとく、「プルンプルン」様は呼吸の型という修行を通じて進化したのだ!その間わずか0.3秒。ボクの思考回路は全てを察知し、脳内記憶を書き換えだした。
「奥さんゴメン。ボクだって頑張ったんだ。もちろんキミの頑張りに比べたら、1億分の1くらいしかならないんだけど。生まれ変わったのに、ボクはやはり煩悩のカタマリみたいだ。ホントにゴメン…」

ボクのこんなくだらない懺悔ざんげの言葉に耳を貸すものなど誰もいなかった。そこはもうすぐ訪れる歓喜を前に、賛美歌がその歌声を増すように全員が躍動しているようにも思えた。脇では進化系の「バインバイン」が猛威を振るっていて、ボクの意識を持っていこうとした。シッポ様はその揺れに調子を合わせるようにリズム良くはためいていた。

「この子がいつか大きくなって、生まれてくる時のこと話してって言われたら、ボクは何て話せば良いんだろう?」
もうすぐ生まれ出る命を前に、ボクのココロは乱れに乱れていた。


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