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余計なピザは夏のせい

太陽が傾きだす日曜日の夕方、僕は重い腰を起こし、スーパーに出掛ける準備をしていた。1週間分の三ツ矢サイダーを買いに行くのだ。

僕は炭酸飲料が好きでよく飲んでいる。お酒は飲まないけれど、これが僕にとっての疲れを癒す魔法。自販機の180円のジュースなんて高くて買う気になれないから、僕はいつも近所のスーパーで買っている。

僕がよく行くのはオーケーストア。ここなら三ツ矢サイダーが70円で売られているし、色んな種類の三ツ矢サイダーがあってバリエーションも豊富だ。僕は夏限定のグリーンレモン味が好きで、夏の暑い時期はこればっかりを飲んでいる。(酸っぱくて美味しい。)

土日に買いに行くことが多いけれど、最近は暑くて太陽が出ているうちは外出したくない。日が沈んだ時間からやっと僕は外に出る気になる。その日も暗くなって「よしいっちょ行くか」と出掛ける準備をしていたら、その様子を見ていた母から声を掛けられた。

「スーパー行くならついでに牛乳を買ってきてくんない?」

母は冷蔵庫の牛乳のストックがもうないと言う。

「えー嫌だよ、これから三ツ矢サイダー沢山買って帰るんだからね。リュックにこれ以上は入らないよ。」

僕はこんな暑いなか、重い荷物を背負って自転車を漕ぎたくなかった。それに、昨日新しい牛乳を出したばっかりだ。それはまだあるから、今すぐ必要ってわけでもない。僕が断ると、母は「じゃあ明日買うからいい」と不貞腐れていた。

僕はそんな母を気にもせず、10分ほど自転車を漕いでオーケーストアに向かった。夜でも暑くて自転車を漕ぐ風がドライヤーの風みたいだ。

オーケーストアに着いて、店内に入ると冷房が効いていて心地いい。スーパーに入る第一歩ほど気持ちのいいものはない。

僕は会社のお昼に食べるようのカップ麺と仕事中に食べるようのグミを選んで飲料コーナーに向かった。僕の好きな三ツ矢サイダーグリーンレモン味は残り2本になっていた。僕は「ふー良かった」と残り2本を買い物カゴに入れて、ブドウ味とピーチ味の三ツ矢サイダーもカゴに入れた。これで今日の買い物は終わりだけど、ふとある商品に視線が奪われた。

お惣菜コーナーのシーフードピザだ。

僕はこれが好きなのだ、いつも母が4分の1の小さいサイズを買ってくれるが、僕はいつかワンホールで食べたいと思っていた。今日はワンホールのピザしか置いていない。買ってくれと言わんばかりに輝いて見える。値段も560円とリーズナブルだ。買おうか迷う、でもこれから夜ご飯なのに母の献立に関係ないピザを買って帰ったら怒られること間違いなしだ。

そうだ!アレを買えばいい!僕は天才的な閃きを思いつき、ピザから離れて乳製品コーナーに向かった。

手に取ったのはもちろん牛乳。

牛乳を買って帰ることで母から感謝され、ついでにピザを買っても許してくれるだろうという非常に狡賢い作戦だ。僕は牛乳を買い物カゴに入れてお惣菜コーナーに戻ると、ピザが残り2枚になっていた。さっきまで3枚あったのにこの一瞬の隙に1枚誰かが買ったみたいだ。僕はやはり今日買わなくちゃと気持ちを固め、ピザを手に取りレジに向かった。

お会計を済ませ、リュックに三ツ矢サイダー4本と牛乳を押し込む。綺麗に納めるため、パズルを組むように丁寧に並べる。リュックは重さで底が抜けるんじゃないかと思うほど、僕の体を下に引っ張る。

そんな状態で大きいピザがリュックに入るわけもなく、仕方がないので手で持って帰ることにした。僕は蕎麦屋の配達みたいに左手にピザを乗せ、自転車を漕ぎ出した。側から見れば、ピザを買って超浮かれている人だ。でも、そんなことは気にせず、僕はピザを落とさないことだけに集中していた。

家に帰ると、予想通り母が僕が買ってきたピザに対していちゃもんを付ける。

「そんなの買ってどーするの。これから夜ご飯なのに。」

僕はここですかさずリュックの中から牛乳を取り出し、この紋所が目に入らぬかと掲げる。案の定、母は「買ってきてくれたの!」と目を輝かせた。牛乳を買ったことで、作戦通りピザのこともまぁいいかと許してもらえた。夜神月ばりのしたり顔になる。

夜ご飯は白米と味噌汁とピザというチグハグな献立になったが、家族みんな喜んで食べた。おかずも色々あったから、それはお腹いっぱいだ。

夏は気持ちが緩んで余計なものを買ってしまう。でもしょうがないよね、だってこんなに美味しい。三ツ矢サイダーとピザの相性はバッチリだったんだもの。



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