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歯列矯正、着々と

先週の土曜日、僕は3万円を握りしめて歯医者に向かった。時間は18時30分からという出掛けるには面倒くさい時間だったが、この間検査した結果を聞きに行くのだ。3万円はその検査費用である。

歯医者に着くと、先生から僕の歯並びの模型を見してもらった。これはこの間、粘土を口に流し込まれて作ったものである。「模型が出来ると、360度歯の状況が分かるから便利なんです」と先生はやけに誇らしげに見せてきた。

先生は僕の上の歯と下の歯を重ね、重ねた時に上の歯が下の歯を隠してしまっている状況だと淡々と説明した。これは下顎が後ろに下がっていることから起きており、これにより嚙み合わせも悪くなっているという。先生はモニターに僕の横顔のレントゲン写真も映し、顎のラインに線を引きながら現状を説明してくれた。

でも、僕は別のことに気を取られていた。僕はモニターを眺めながら、「自分の頭蓋骨を初めて見たなぁ」と興奮していたのである。みんな容姿ばかり気にしているけど、頭蓋骨になったらみんな一緒だよとか考えていた。

「コイツ話聞いてないな」と先生は思ったのか、自分の目でも確かめて下さいと手鏡を渡し、僕にイッーとするよう指示した。僕は言われた通り、鏡を見ながらイッーとしてみると、下の歯が上の歯で隠れてほとんど見えていなかった。こんなことになっていたとは、言われるまで気付かなかった。

さらに、僕の下の歯は高さがないのだという。歯が並ぶスペースがなく、斜めに生えているため、申し訳程度歯茎から顔を出している状況である。ちゃんと全員顔が見えるようにするためには、歯を真っ直ぐ立たせないといけない。じゃあどうやって歯を立たせるのか、いよいよ本題である。先生は満を持して発表する。

「そのために、親知らずを2本抜きます。」

親知らずを抜いて、後ろの余ったスペースに歯を並べていく。これで悪い歯並びも歯の高さの問題も改善し、嚙み合わせが良くなるという。親知らずは神経に近いところにあるから、半分に割って少しずつ取り出すとなかなか怖いことを先生は真顔で説明する。僕は想像してみて、体を震わした。恐ろしすぎる。でも、抜くのはこの2本だけで良いと言っていた。上の歯にも親知らずが1本あるが、これは矯正の邪魔にならないからこのまま残すみたいだ。

上の歯は歯を削ることでスペースを作ると先生は説明した。僕の歯は全体的に人よりも数ミリ大きいため、削っても問題ないらしい。確かに僕の前歯2本はちょっと大きくてリス感がある。こいつらが収まらなくてハの字に曲がっているが、歯を削ればこれも綺麗な歯並びになる。

先生は一通り説明し終えると、「親知らずはどこで抜きますか?」と聞いてきた。うちのクリニックでも出来るし、大きい市立病院でも出来ると話してくれた。市立病院でやる場合は紹介状を書いてくれる。僕は母から「親知らずを抜くなら大きい病院の方がいい」と根拠のないアドバイスを貰っていたため、市立病院でやろうと決めていた。でも、こんなに丁寧に説明してもらって「別の病院で抜きます」とはすぐには言えなくて、僕は「一旦考えます」と答えを保留にした。(この小心者!)先生は「決まったら、すぐに連絡下さいね。」と言ってくれた。

最後に受付で今日の検査費用3万円を支払った。この3万円を払って、僕はもう後戻りは出来ないなと思った。もちろん元々やるつもりだったけど、それが現実味を帯びてきたのだ。親知らずを抜くのは怖いけど、このままどんどん歯並びが悪くなっても困る。「やるぞ、僕はやるぞ。」帰り道に自転車を漕ぎながら、僕はそう呟いた。

それにしても、矯正を始めようと思ってもそれまでに色々と準備が必要だと分かった。僕は今並行して歯のクリーニングもしてもらっている。ワイヤーを付けると歯を磨くのも大変だから、今のうちに綺麗にしているのである。そのクリーニングは楽しい。可愛い歯科衛生士さんに歯磨き指導をしてもらって至福の時間である。でも、8月は親知らずを抜くから、束の間の安らぎと言えよう。おそらく、次は親知らずを抜いた恐怖体験をお届けすることになるだろう。お楽しみに。



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