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友達の門出を祝う

土曜日、僕は7時に起きて出掛ける準備をしていた。歯を丁寧に磨き、髪を綺麗にセットして、普段着ないスーツを着た。
今日は友達の結婚式に行くのだ。

出掛ける前にバッグの中身を確認する。
よし、大丈夫。ちゃんとご祝儀袋が入っている。
ご祝儀は昨日の晩に用意していた。
名前を書くところは母に筆ペンで書いてもらった。
母に「自分で書きなさいよ」と言われたけれど、
僕が「お母さんの方が字が綺麗じゃないか」と言ったら、まんざらではない様子で書いてくれた。僕が書いたら小学生みたいな字になってしまうからね。

忘れ物がないかちゃんと確認した後は、友達のH君と待ち合わせしている駅に向かう。H君は既に駅に着いていて、慣れないスーツを着て待っていた。
「おはよう、もう結婚式がくるなんて早いね」
「そうだね、もう5月だもんな」

僕が友達のN君から結婚をすると聞いたのは、去年の9月だった。
「結婚式は5月にする予定だよ」と聞いた時は、
「随分先だな!!!」と勢いよくツッコミを入れたはずだったのに、月日が過ぎるのはあっという間である。

電車に揺られながら、相模線の宮山駅で降りた。
今日の結婚式は寒川神社で行われるのだ。
僕はここに何回か家族と初詣で来たことがあった。落ち着いた雰囲気のいい神社で、ここですると聞いた時からどんな結婚式になるか楽しみであった。

寒川神社の参集殿に着くと、僕たちは受付の人に話しかけた。
「あのN君の結婚式で受付をする者なんですけど」
「それではここでお待ち下さい。」
僕たちは綺麗なロビーに通されて、受付開始の時間まで待った。

結婚をするN君は既にいて、綺麗な袴を着ていた。
「袴、似合ってるじゃん」と言うと、
N君は袴に付いてる家紋を指差し、
「家紋入れるのに8000円だってよ。高いよな」と笑った。
僕たちも「高けぇ!!」と笑い返す。
とてもこれから結婚式を控えている男の発言とは思えない。僕たち3人はいつもこんな感じでふざけている。僕はN君が普段と変わらないいつも通りの様子に安心する。
N君は一瞬だけ顔を出して、また慌ただしく準備に戻っていった。

期待に胸を膨らませながら待っていると、受付開始時間が始まる。
僕たちは受付の前に立ち来客の名前を確認して、ご祝儀を受け取る。
たったこれだけの作業だけれども、僕は緊張した。

僕は結構コミュ障なのである。

失礼がないように、気を張り詰めながら受付を行った。

もう一人の受付、H君は接客業をしているからお得意の営業スマイルで受付をこなす。こういう時にこそ、僕も上手に出来るようになりたい。
僕はひたすら来た人の名前をチェックするチェック係に身を挺する。

N君の親族も、新婦さんの親族も沢山来ていて、今回の結婚式は凄く盛大に行われるようだ。
僕ら以外にも高校の同級生が沢山来ており、久しぶりに顔を合わせた。
中には今日のために山形から足を運んできた友達もいて、N君の人望が伺える。

受付を終えるとどっと肩の荷が降りた。
これで今日の任務はやり切ったのである。
後は来客として友達を祝うのだ。

僕たちはロビーに集められ、新郎新婦が出てくるのを待つ。少しすると、綺麗な袴を来たN君と白無垢を着た新婦さんが出てきた。
僕は初めて奥さんを見たが、着物が凄く似合っていて綺麗な人であった。

僕たちは小さい折鶴を手渡され、それを花道で投げる。ここから新郎新婦は人力車に乗って、本殿の方に移動するのである。僕たちはその後ろを大名行列のように、ぞろぞろと付いていく。

寒川神社には一般のお客さんもいるから、道行く人たちの注目の的となった。見ている人は「まぁ綺麗ね」「あら素敵」と言った感じで、
みな嬉しそうに見ていた。中には写真を撮っている人もいる。僕も明治神宮で結婚式に遭遇したことあるから気持ちが分かる。他人の結婚式だけれど、なんか嬉しいのである。

「いい日に参拝できたな」とちょっと得した気分である。

本殿では挨拶をして、また参集殿に戻って挙式が始まる。式では雅楽の生演奏や巫女の舞など厳かな雰囲気であった。
N君が誓いの言葉を述べる場面もあり、
「噛んだりするなよ」と心配していたが、
N君は堂々としており夫になる心構えを感じられた。

式が終わると、次は披露宴である。
荘厳な雰囲気から一辺して、楽しい雰囲気である。H君はずっと披露宴のご飯を楽しみにしており、次々と運ばれるコース料理をバクバクと食べていた。料理はお刺身やちらし寿司などもう食べられないほど出てきた。

披露宴では友人のスピーチや新婦のお父さんに向けたお手紙など感動の場面もあり、僕も新婦のお手紙で泣きそうになった。

僕は結婚式に初めて参加したけれど、凄く良かった。N君は「結婚式にお金がかかったから貯金がないよ。」と冗談交じりに話していたが、それでもやるべきだよなと思った。

新郎新婦の親族の様子を見ているとみな嬉しそうで、自分たちのためでもあるけれど、周りの人のためにやるものなんだなと思った。

一緒に来ていたH君も「おばあちゃんが生きているうちにやらないとな」とふいにこぼしていた。彼には付き合って7年の彼女がいる。当の本人は結婚について乗り気なんだか乗り気じゃないんだかよく分からない感じで、僕は会う度に「結婚しろよ」とお節介ばあさん如く説教していたのが、彼も今日の結婚式を見て何か思ったことがあったのかもしれない。

僕はというと相変わらず彼女はいない。
去年一瞬だけ彼女が出来て、すぐに別れてしまった。正直そのトラウマがあり、「今は恋愛はいいや」という気分だったのだが、
人の結婚式を見るとやっぱりいいなと思う。

僕たちは3人は高校の同級生である。
16歳の時に知り合ったから今年で丸10年の付き合いになる。
その友達が人生の大きな節目を迎えた。友の門出にこうして立ち会えたということは嬉しい限りである。

ひとりが結婚したからと言って、僕たちの関係性は変わらない。会えばふざけた調子で笑い合い、それはこれからもずっとおじいさんになっても続いていくんだなと思うと嬉しくなった。

帰りに、寒川神社に寄っておみくじを引いた。
結果は中吉だったが、結婚式で幸せパワーを貰ったのか、中々いいことが書いてあった。

「人生に大逆転あり。これまでの努力が実り運気があがるとき。
新しいことへの挑戦も今ならうまくいく。すべてに自信を持って望め。」

待ち人の欄も「複数で来ます。動じないこと。」と書いてある。

ついに僕にも春が来るのか!?

今年は頑張りたいこともあるし、このおみくじの通りになったらいいなと思う。

N君、結婚おめでとう。


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