【第79回】西日本豪雨から4年 被災地での地区防災計画づくり【倉敷市真備町川辺地区】
質問 2018年の西日本豪雨の被災地での地区防災計画づくりについて教えてください。
概要
①川辺地区の地域特性と2018年西日本豪雨での被災
②川辺地区の復興と防災活動
③コロナ禍での防災活動
④地区防災計画の文書化
解説
①川辺地区の地域特性と2018年西日本豪雨での被災
2018年の西日本豪雨の被災地では、いくつか地区防災計画づくりを進めている地区が知られていますが、ここでは、地区防災計画モデル事業の対象地区である岡山県真備市川辺地区の取組を紹介します。
川辺地区は、地区防災計画学会の2020~2022年度の地区防災計画モデル事業のモデル地区で、地区防災計画学会の理事である磯打千雅子香川大学准教授が担当教員として支援をされています(なお、川辺地区は、内閣府の2019年度地区防災計画モデル地区にも選定されていました。)。
同地区は、人口4,394人、1,734世帯、高齢化率26.4%であり、高梁川と小田川の合流点に位置しており、2018年の西日本豪雨で地区のほとんどが浸水し、死者7名を出す大きな被害を受けました。
なお、同地区は、昭和51年9月洪水、昭和47年7月洪水、明治26年10月洪水等でも被災しました。
②川辺地区の復興と防災活動
川辺地区は、西日本豪雨で地区全体が被災しました。そのため、倉敷市の市街地のみなし仮設住宅に多くの住民が居住しており、地縁的な活動が難しい状況にあります。個々の住民の復興に向けた活動を町内会のような地縁活動につなげていけるかが課題になっています。そして、被災から4年が経過し、地域外で避難生活をしていた住民が徐々に地域に戻りつつあります。
川辺地区では、保育士、看護師、福祉事業所、まちづくり推進協議会、復興まちづくり団体、防災士、子育て団体、IT企業従事者等多様な主体が連携して、復興まちづくりとセットで防災活動を推進しています。
特に、住民有志によって結成された「川辺みらいミーティング実行委員会」は、多世代の参加により地区防災計画策定に取り組んでいます。そして、同委員会、まちづくり推進協議会、まちづくり団体(川辺復興プロジェクト・あるく)が主体となり、倉敷市、国土交通省、社会福祉協議会、医療・福祉事業者、NPOをはじめ様々な団体と連携して防災活動が進められるようになりました。また、モデル事業等を契機として、住民の地縁的なつながりが再構築されつつあります。
③コロナ禍での防災活動
川辺地区では、復興に向けて、地域での祭りやイベント等の復活を予定していましたが、コロナ禍により中止になっていました。しかし、地域ではオンラインと最低限の対面によるコミュニケーションを通じて防災カフェや交流イベントを実施しています。
例えば、2020年度は、オンライン会議やLINE等を駆使して防災活動を進めたほか、オンライン及び郵送併用アンケートを実施し、地区の分散避難の意向を確認しました。そして、アンケート結果を用いた啓発研修、少人数の防災まち歩きや防災マップづくりを実施しました。
また、2021年度は、分散避難、安否確認対策、避難判断支援等に注力し、防災マップづくり、黄色いタスキを用いた安否確認訓練を実施するとともに、その成果を踏まえて、コミュニティの連絡体制を構築しました。
なお、川辺小学校の児童を対象にした防災まち歩きと防災マップ作成は、保護者の方々に非常に好評でした。そして、その影響で、PTA主催で防災ウオークラリーが新たに実施される等、若い世代が家族で楽しみながら参加できるイベントが開催されています。
④地区防災計画の文書化
地区防災計画づくりに当たっては、地区の防災活動を具体的に文書化することが必要になります。それが、コミュニティの現場では、大変難しい問題になっています。
多くの住民がそれぞれ離れた場所で避難生活を継続しているため、地縁的な活動が難しい状況ですが、地区防災計画の文書化に当たっては、復活・再構築されつつある地縁的な組織と有志の活動である川辺みらいミーティングの活動の融合が必要になっています。
また、被災後に当該地区に移住した住民が増えていることから、被災経験のない世帯をどのように防災活動に巻き込むかが課題になっています。
文献
・磯打千雅子ほか,2020,「極端な社会環境の変化に適応可能な地域防災活動のあり方 ―平成30年7月豪雨災害被災地の取組事例を中心に―」『地区防災計画学会誌』(19).
・磯打千雅子ほか,2021,「平成30年7月豪雨からの復興と地区防災計画活動―倉敷市真備町川辺地区の取り組み―」『地区防災計画学会誌』(20).
・磯打千雅子,2022,「地区防災計画における文書化の意義に関する考察」『地区防災計画学会誌』(23).
・金思穎ほか,2022,「2021年度地区防災計画モデル事業の中間報告概要について」『地区防災計画学会誌』(23).
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