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【第67回】熱海市盛土崩落を受けた「盛土規制法」が成立

質問 2021年の静岡県熱海市での盛土崩落を踏まえた「盛土規制法」ができたんですか。

概要

 ①法改正の背景
 ②改正法の概要
 ③規制区域・規制対象
 ④盛土等の安全性の確保
 ⑤責任の所在の明確化
 ⑥実効性のある罰則等

解説

①背景

 2021年7月に熱海市で大雨に伴う盛土崩落と大規模な土石流災害が発生し、死者・行方不明者27名、家屋被害128棟の甚大な被害が出ました。過去にも、2009年7月に広島県東広島市で廃棄された土石の崩落により死者1名、重傷者1名、家屋被害1棟の被害が出ていたほか、2021年6月に千葉県多古町で廃棄された土石の崩落により軽傷者1名、県道通行止め等の被害が出ていました。
 現行制度では、宅地の安全確保、森林機能の確保、農地の保全等を目的とした各法律により、開発を規制していますが、各法律の目的の限界等から、盛土等の規制が必ずしも十分でないエリアが存在しており、そのため、一部の地方公共団体では条例を制定して対応していました。
 そして、全国知事会等からも危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する法制度の創設が求められていました。
 そのため、盛土等による災害から国民の生命・身体を守る観点から、盛土等を行う土地の用途やその目的にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制する「盛土規制法」(宅地造成等規制法の一部を改正する法律)の法案が作成され、2022年3月1日に閣議決定され、5月20日に国会で可決・成立しました。
 以下、国土交通省の資料に沿って、同法の要点を紹介します。

②概要

 「盛土規制法」ですが、盛土等による災害から国民の生命・身体を守るため、既存の「宅地造成等規制法」を法律名・目的を含め、抜本的に改正したものです。
 具体的には、宅地、森林、農地等の土地の用途にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制し、それにあわせて正式な法律名を「宅地造成等規制法」から「宅地造成及び特定盛土等規制法」に改正しました。
 この改正法は、国土交通省・農林水産省による共管法とし、両省が緊密に連携して盛土等に対応することにしており、例えば、国土交通大臣及び農林水産大臣は、盛土等に伴う災害の防止に関する基本方針を策定することにしています。

③規制区域・規制対象

 同法の規制区域については、都道府県知事等が、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を規制区域として指定することになります。市街地や集落、その周辺等の人家等が存在するエリアについて、森林や農地を含めて広く指定できるほか、市街地や集落等からは離れているものの、斜面地等の地形等の条件から人家等に危害を及ぼしうるエリアも指定できるようになります。
 また、規制対象については、規制区域内で行われる盛土等を都道府県知事等の許可の対象にしており、 宅地造成等の際の盛土だけでなく、単なる土捨て行為や一時的な堆積についても規制できるようになります。

④盛土等の安全性の確保

 許可基準については、盛土等を行うエリアの地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定しており、中間検査・完了検査については、許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため、施工状況の定期報告、施工中の中間検査及び工事完了時の完了検査を実施することにしました。

⑤責任の所在の明確化

 管理責任については、盛土等が行われた土地について、土地所有者等が常時安全な状態に維持する責務を有することを明確化しています。
 また、監督処分については、災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても、是正措置等を命令できるようになりました。
 つまり、当該盛土等を行った造成主や工事施工者、過去の土地所有者等も、原因行為者として命令の対象になりました。

⑥実効性のある罰則等

 罰則が抑止力として十分機能するように、無許可行為や命令違反等に対する懲役刑及び罰金刑について、条例による罰則の上限(懲役2年以下、罰金100万円以下)より高い水準に強化し、例えば、無許可で造成した法人には、最高3億円の罰金を科すことにしました。
 なお、同法は公布後1年以内に施行することになっていますが、政府は、同法施行後に、危険な盛土等を包括的に規制し、盛土等に伴う災害を防止するため、施行後5年以内に全ての都道府県、政令市及び中核市で規制区域を指定することを目指しています。

文献
・国土交通省,2022,「宅地造成等規制法の一部を改正する法律案」.

参考

 2021年8月21日の地区防災計画学会のシンポジウム(第37回研究会)「コロナ時代の避難の在り方―静岡県熱海市の土石流災害等を踏まえて―」で、シンポジストであった当学会幹事の鈴木猛康先生(山梨大学)が、2021年7月の熱海市での盛土崩落と土石流の発生を受けて、盛土等の規制の法的な問題点について紹介されました。
 なお、地区防災計画学会誌第22号(2021年12月発刊)にシンポジウムの詳細が印象記として記載されています。

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