クリスマスを思い出す

東京は、ぐんと気温が下がった。
ついこの前までは暖かく、厚手のチェックのシャツなんかを上着として着ていたのに、唐突に本格的な冬のコート。
外に一歩を踏み出してみれば、地面から冷えがせり上がり、足の裏から身体の芯を冷やすような寒さだ。
そんな寒さを味わいながら、表参道の街を歩けば、クリスマスが近いのだなあ、ということをぼんやり実感する。レッドやゴールドやグリーンの植物に粉雪がかかって淡くぼやけたクリスマスツリー、細かいゴールドのライトがちりちりと光るイルミネーション、顔を出し手を振る小さなサンタなど、街が賑やかに飾られている。

恋人同士が二人で過ごすロマンチックなクリスマスは、どんなに大人になってもあまりピンとこず、恋人とプレゼントを渡し合っても、私に何かめでたいことがあったわけでもないのにな〜などと、つまらないことをつい、考えてしまうのである。
やはり、クリスマスといえば家にツリーが飾られていて、手づくりのケーキやチキンを食べ、サンタクロースがやってくるのにわくわくしながら眠る、そんな子供の頃のクリスマスに想いを馳せる。

私の家にサンタが初めて来たのは、二歳か三歳か。初めてのプレゼントは、絵本だった。
朝起きると、枕元に紙袋が置いてあった。私の方の紙袋には、黒地に金の虎が描かれていて、兄の方には特に絵は何も描かれていないクリーム色の紙袋だった。大人になった今思えば、私の方の紙袋は、和菓子屋の虎屋のものである。プレゼントを両親が、全く関係のない適当な袋に入れて置いたのだろう。子供だからわからないと思ったに違いない。
兄はその袋を見て、私の袋は黒金で、虎だし男の子用だと思う、と言いだした。サンタさんが間違えて逆に置いて行っちゃったのかも、と。
私も確かにそうかもしれないと納得。どう見たって私の袋の方がかっこいいし、渋い。二歳の女の子向けではない。
そうして、兄と私はプレゼントを交換してしまった。
袋を開けると中には絵本が入っていた。私の方は魔女が表紙のしりとりやクイズがふんだんに盛り込まれたもので、兄の方は覗き込むと蛇腹になって絵本が伸びて、クリスマスの家と庭から様々な登場人物が現れる文字のない絵本だった。
やはり私の本は兄の年齢向けで、兄の本は私の年齢向けだと今では思うけれど、当時は全く気づかず、魔女のクイズの絵本をひたすらに読んでいた。理解できていたのかはわからないけれど。

サンタさんにプレゼントをもらって嬉しかったあの気持ち、今だからわかる両親がプレゼントを選んでくれる思い。
そんなことを思い出すので、クリスマスはやはり恋人と高級ディナーに行くのではなく、家族で過ごすクリスマス。
ストーブで暖かい部屋、電飾の光るクリスマスツリー、お腹に野菜の入ったホカホカのチキンが登場して、ケーキを食べて、眠れば、プレゼントが。

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