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23歳の頃の日記

PCの整理をしていると、ドキュメントのフォルダに大量にワードのデータがある。

大学生の頃から文章を書いているので、蓄積がすごい。とっておいても仕方ないのかとたまに思うけれど、消してしまったらそれを書いた頃の自分のことを一生思い出さない気がして、消せない。

ただシンプルに「日記」というタイトルのものがあったので、開いてみると内容は、23歳になったばかりの頃に書いた日記。

読んでみると、かなり若い。28歳の今とはわけが違う、感性。

下記が、その日記。


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あのこはボブの頭をふりふり。背が低く、カーディガンにリュック、ロングスカートにスニーカー。似たような見た目のこが右にも左にも斜めにも後ろにも。あたしはマニキュアを毎週土曜に塗り替えていて、何度も重ね塗り、乾かしてトップコートに時間をとてもかけるけど、あのこの爪はただの肌色でつるつるしている。

ライブが終わると物販にきて、あたしの売っているTシャツを見ている。にこにことあたしの顔を見て、「これ下さい」とひとこと言う。「ありがとうございます二千五百円です」お金を払う。

「ありがとうございます。このバンドすきなんですか?」「今日初めて聴いたんですけどファンになりました」「そうなんだ、これからも宜しくお願いします」

そう会話したのは圭くんであってわたしではない。
圭くん。圭くんはわたしの三つ年下ではたちだ。とても静か。声も小さいし表情もあまり変わらない。ときおり見せる笑顔、口の形が可愛い。ボブのあのこはかえっていく。
 
「本当はきょう、高尾山へ行く予定だったの」
そう言うと圭くんは驚いた。圭くんは高尾山と家が近いらしい。大学の近くで一人暮らしをしている。
「へえ、南平らへん?」と適当に聞くと「そう、南平!」とピンポイントで当たってしまい、またまた驚く。
「でも、今日は中止になったから鈴木さんに呼ばれて、ライブに来たの」「このバンドのファンなんですか」「ううん初めて聴く」「じゃあ鈴木さんのファンなんですか」「ファン? 違うよ」わたしは驚いた。
その後も「鈴木さんのことすきなんですか」「違うよ、いや、違くないけど友達として好きだけど」「あんなにイケメンなのにすきにならないんですか」「イケメンかなあ?」「誰が見てもイケメンですよ」

ふうん。わたしが彼を好きに見えるのか。好きでついてきているように見えるのか。
私は彼が呼ぶからついてきてるだけなのに。
好きって思われている側のつもりで一応いたんだけれど。まあいいか。
彼はバンドでCDを出していてファンもいるのだから、そりゃそうか。

さかのぼって午前のこと。朝起きると雨が降っていた。
月曜日から金曜日までノンストップで働いていて、睡眠時間が十時間ないとつらいわたしにとって土曜日の朝は至福のとき。だからずっと寝ていたい。
雨降ってくれてちょっと良かったと思いながらベッドでごろごろ。鳴り止まないアイフォンはラインがきた音。ぽおん、ぽおんと次々にメッセージが送られてくる。
高尾山を中止にするか、別プランは何にするか、で十名ほどが画面上で賑わっている。わたしも少し参加。
ディズニーシーいきたいとか言ったけど却下。そうですよね、と思いながらまた、寝た。

昼くらいに起きて、鈴木さんにメール。「今日山登り中止になった」
今日はもともとライブに誘われていたのだけど、高尾山を理由に断っていたのだ。
電話して、渋谷に来ればライブまで遊んでくれると言ったので行くことに。鈴木さんがライブの顔合わせまで、二人で渋谷のカフェにいた。

ライブは背の低いボブの女子がたくさんいたのが印象的で、それ以外は特に印象に残らなかった。サークルの先輩や知っている人がいたし、元カレもいた。
知っている人というのは全て元カレの知り合いで元カレを通して知っていたから、別の人にくっついてライブに来ている自分はバンドマン好きのビッチに思えた。
圭くんとは初めて会ったのだけれど、内気な感じのとんでもない魅力。彼はすごい。

わたしと鈴木さんは今後どうなるのか。微妙な関係。ときどき好きというか会いたくも思えるけれど、やっぱり何かが違うと思う。

だって先輩。とても先輩。ずっと先輩だったのだから。

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何気ない一日のことだけど、
物販でTシャツ売ったり、バンドをやっている人が周りにいたり、新しい人に出会ったり、恋か恋じゃないかで悩んだり。
23歳という年齢だからこそ。

もう、そんな日々は通り過ぎて、二度と戻ってくることはないのだなあ。


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