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かつて海苔養殖に使われた「マテバシイ」から考えたこと

海苔の不作と漁師の減少

海苔の不作が続いている。

海水温の上昇とか、クロダイの食害とか、川から流れる水の栄養不足とか、複合的な要因で収穫量が激減し、赤字経営に陥る漁師も多いと聞く。高齢化も相まって、東京湾沿岸のある市では2023年に入って海苔漁師が半減したという。

昔の海苔養殖で使われたマテバシイの木

今から約200年前、君津市が発祥となった千葉県の海苔養殖。網ヒビや海苔採取船がまだなかった時代には、木ヒビや竹ヒビを立てて手摘みするのが一般的だった。

木ヒビとは、海苔を付着させるために海中に立てた枝つきの木のこと。楢(ナラ)・樫(カシ)椎(シイ)などの木を使った。

その木ヒビとして主に使われていたのが、マテバシイの木だ。枝ぶりがちょうどよく、成長が早いから伐ってもすぐに次の幹が伸びてくる。海苔養殖の木ヒビにするには都合が良かったのだ。別名をトウジイともいい、地元の漁師たちは「トウジ」と呼んでいた。

千葉県君津市三舟山のマテバシイ(2023年3月)

もともと千葉県には自生していなかった樹木だが、南房総の広い範囲に繁茂している。車を走らせると、特に海に近い地域で多く見ることができる。かつてマテバシイと海に、深いつながりがあった動かぬ証拠だろう。

仕事で知り合った70代の方と、たまたまマテバシイの話をしていたら、奇遇にもその方の父親が海苔漁師だったという。マテバシイを木ヒビとして使っていた1960年頃までの貴重な体験談を教えてくれた。

作業場がそのまま遊び場になる

木ヒビとして使うには、常緑樹特有のかたくてしっかりついた葉を全て落とさねばならず、骨が折れる作業だったという。漁に出ない女性や子供たちが任される、夏休みの家族総出の恒例行事でもあった。みんなで庭に集められたマテバシイの枝から葉っぱをもぎ取ると、うず高く積もるほどになったという。

葉っぱの山がちょうどいいクッションになり、子どもたちは飛び込んで泳ぐマネをして遊んだのだとか。格好の遊び場だ。

マラウイの落花生市場でも

この話を聞いて思い浮かんだのは、アフリカマラウイの市場にあった落花生集荷場だった。そこには、むかれて一面に厚く積もった落花生の殻の上で、思い思いにバク転や宙返りをするマラウイの子どもたちがいた。

柔らかくてふかふかの場所があれば、時代や国が違っても、子どもたちがやることは大きく違わないのだ。

異年齢の子どもたちが自然と集まり、遊び方を考えたり、教え合ったりする。それなりに怪我をすることもあったのかも知れないが、今の教育に求められる「学び合い」の場が自然にあったのだ。


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