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GLOBIS知見録 編集部の乱読帳 10月

GLOBIS知見録のテキスト編集チームの3人(最近さつま芋ばかり食べている小栗、愛犬に新しい芸を覚えさせようとしている中年男性の長田、大学院で修行中の吉峰)が手に取った本をご紹介する企画。ビジネス書のほか、文学や評論など、ジャンルフリーで挙げていきます。

朝晩は寒さを感じるようになったこのごろ。さて今回、メンバーがおすすめする作品はなんでしょうか。

今回の3冊

◆小栗が気になった本

『あのころなにしてた?』綿矢りさ

今月頭に緊急事態宣言が解除された。それでも長く続く非日常だが、この状況下で生活することにも、かなり慣れてきた。

そんな今月は、小説家 綿矢りさ氏による、コロナ禍の日々をつづった日記(2020年1月2日~12月3日分まで)をまとめた一冊を挙げたい。題が「してた?」と過去形なのは、雑誌での連載開始時「コロナも年内くらいには過去の病になる」と著者が思っていたからだそうで、その時々のリアルな感じ方を伝えている。

本文では衣替えだとか、こんなグッズを買ったとかの何気ない生活がつづられているが、そんな生活が「運命を受け入れざるを得ない時代」の中へと変わっていくことに戸惑い、イラつき、折り合いをつけようとする葛藤が垣間見える。また、人がいない街でぽっかりと取り残された気持ちになったというゴールデンウィークあたりの描写には、日記であっても著者は流石の筆力というか、かなりドキリとさせられる。

世界を一変させる出来事があったとき、私の日常はどう変化し、何を感じていたのか。誰に言われなくとも、誰かに読ませるわけではなくとも、それらは残しておくべきなのではないかとふと思う。当初の感覚を忘れることにどこか怖さがあるのと、いつかどこかで誰かに、まさに「あのころなにしてた?」と聞かれたら、振り返ってきちんと答えたいと思う場面があるのではないか、と思うからだ。本作は、そんな気持ちに共感する方にとって、同志のような存在になるのではないだろうか。

あなたはあのころなにしていましたか?

◆長田が気になった本

『プロ野球「経営」全史 球団オーナー55社の興亡』中川右介

南海ホークスが福岡ダイエーホークスになったのは私が小学生だった時だ。緑色のヘルメットを被る門田博光選手の大ファンだった私は、周囲に中日ファンしかいない名古屋の地でひとり悲嘆にくれた。「先生、なんで南海はなくなるの」と素朴な質問を担任の教諭に投げかけると「大人の事情なの」と答えてくれた。

本著は当時の私のようなファンの視点や、名選手の活躍に関する描写を排除し、プロ野球の歴史を、企業経営の観点で冷静に、通史的にまとめている。経済界の重鎮が数多く登場し、小林一三氏から始まり孫正義氏や村上世彰氏に至るまでの「紳士録」として読むことも可能だ。堀江貴文氏による幻の近鉄バファローズの買収案や、「阪急阪神ホールディングス」の誕生につながった、村上世彰氏による阪神タイガース上場構想など、それぞれの事例を振り返るのも面白い。

球団による球場の所有をめぐる問題についても考えさせられる。巨人軍の創設者である正力松太郎氏は「球場は借りればいい」との考えだったが、現在では球団・球場の一体経営の傾向が強まっている。球場所有には初期投資が必要となるものの、球場の広告看板やグッズ販売、野球以外のイベントによる収入など、放映権に依存しない収益構造を構築できると言われている。

著者が伝えようとしているのは、地域に根差した球団を経営し、経営を安定化させることの大切さなのだろう。そうはいっても、景気変動の影響を受けずに球団経営するというのも無理な話だ。南海消滅後、その時々に気になった球団を応援するいい加減な人間になった私にとって、スポーツビジネスのあり方について考えさせられる一冊だった。

◆吉峰が気になった本

『解きたくなる数学』 佐藤 雅彦, 大島 遼, 廣瀬 隼也

たとえば6桁の数字(563211など)がいくつも並んでいて、それをメモしなければならない場面があるとする。そういうとき、みなさんどうするだろうか?

わたしは、人が親切に「ご、ろく、さん…」と読み上げてくれると、5個目くらいまでいい調子でメモするが、10個目くらいでわからなくなる。反対に「ごじゅうろくまん…」と言ってくれたほうが頭に入ってくる。

これはわたしがいかに数字そのものが苦手か、ということの証左ではないかと思っているのだが、どうだろうか。さて、それほどに数字が苦手な私が紹介する本書が『解きたくなる数学』だ。

本書は、カラー写真に少ない文字で絵本のようなつくりである。表紙の量りにはネジがたくさんのせられている。ここから1つネジを抜くと、目盛りは〇グラム小さくなる。ということは、今、全体で〇グラムを指しているこの量りにネジは一体いくつのっているのか? このように、量り、大きさの違う板チョコ3枚(ピタゴラスの定理)など、生活のなかで目にするものから、なぞなぞのように問いを出す仕掛けがうまい。

それもそのはず、著者の佐藤雅彦氏は、NHKの人気番組『ピタゴラスイッチ』の監修に携わる東京芸大の教授であり、クリエイティブディレクターだ。思わずクスッと笑ってしまう演出は、本書でも見事に発揮され、数学のイメージを数字と公式から解放してくれる。数字が苦手なわたしでも、ついページをめくってしまうのだ。こういう本に子どもの頃に出会っていたら、どれほどよかったか。(ちなみに日常のものを題材に数学で解こうとすると結構難しい考え方も出てくるので、子どもだけでなく、大人にもオススメです)

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いかがでしたでしょうか。みなさんも読書を楽しんでください!
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