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起業家のリアルに迫る # 人生を変える学び 「香り×IT」メーカーCODE Meee代表 太田賢司 Vol.3

――「さぁ、これから」という起業3年目にしてコロナショックに見舞われた太田さん。それでも小さなピボットをすることで乗り切ることができています。ビジネスで成功する秘訣は何だと捉えているのでしょうか。連載最終回です。

コロナでBtoBのコンサルが激減。DtoCの「マスク用アロマ」発売でピボットを果たす

武井:セカンドのファイナンスも終わって、今はもちろんコロナで大変だとは思いますけれど、ある程度安定した企業経営をされていらっしゃいますよね。

太田:安定はしていないんですけど(笑)。

武井:たしかに。起業家はそうそう安定はしないと思いますが、「明日会社がなくなるかも」という感じは脱していますよね。

太田:はい。ただ実は今年の春には資金がショートする予定だったので、ファイナンスするつもりだったんです。去年の年末から動き出して、春の少し前ぐらいに決まりかけていたんですが、コロナでその話が飛んだ。切羽詰まりまして、正直2月3月あたりは焦っていました。

生き残る道を考えたときに、とりあえず売上をつくるしかないと新しい商材を出しました。それがマスク用のアロマスプレーなんですけれど、「自分たちにしかできないものを」と案を出し、「脳波と感性科学に基づいたサイエンティフィックな製品」というコンセプトで出したらヒットしまして。

武井:売れてますよね、見かけます。

太田:ヒットしたおかげで「コラボ商品を出したい」というお声もいただくようになったので、今、DtoCの売り上げが一気に伸び始めている状況です。

武井:小さいピボットがあったんですね。それまでしばらくは、BtoBがメインでしたよね?

太田:そうです。キャッシュ・カウとしては実はBtoBで、企業の空間デザインを香りで行うということを割と安定的にやっていたんです。「よし、これからさらに伸ばしていくぞ」というところでコロナで営業できなくなって。だったらECでやるしかないなとDtoCに舵を切ったところです。

コメント 2020-09-04 143155

崖っぷちでアイディアを生む余白は、「友達」との関わりから生まれる

武井:Makuakeでのものづくりの成功体験が効きましたね。新商品はどのように考えたんですか?

太田:街中に出るとみんなマスクしているじゃないですか。単純に「あ、世の中変わったな。あれに香りをのせられたら、これはマーケット大きいな」と思ったのが1つ。もう1つは、周りで「マスクつけるの嫌なんだよね。なんか不快だよね、臭いもするし」みたいなことを聞いて、「ああ、これは香りの出番だ」と。

武井:太田さんはいつも「ここに香りがあればいいんじゃないか」というのを探されているように見えます。どのようにアイディアを思いつくのか、興味があります。

太田:それこそ、いろんな人と交流して遊ぶっていうんですかね、それが考えるヒントになっています。真面目に考えていても思い浮かばないんです。気を抜いて人と話したり遊んでいるときに、ふと思いついたりして。

今、横浜に住んでいるんですけれど、仕事でみなとみらいのWeWorkに結構行くんですね。そこまでの道を30~40分ぐらいあえて歩くんです。すると結構いいアイデアが降ってくるというか、そういう隙間みたいな時間も大事だと思います。

武井:頭を自由にする時間ってすごく大事ですよね。そういえば私、近々某大学で「音楽起業ワークショップ」という授業を持つので、ゲストスピーカーで来てください。

太田:音楽起業ですか。アーティストとのコラボも、これから力を入れたいと思っているのでちょうどいいですね。すでにライブでグッズ販売もしていて、結構売れてます。

武井:それはそれは!他にも思いつく案件が何件か……おつなぎして、コラボしたいですね。

太田:ぜひぜひ!イベントで使うおもてなしアロマとか。食事やお酒とマリアージュするアロマとか……面白いかもしれません。

武井:いいですね!こうやって、どんどんご縁がつながって、ビジネスが生まれていくんですよね。

太田:前(Vol.2)にもお話ししましたけれど、「人脈」というより「友達」……単に実利だけじゃない、本当に一緒にいたいって思えるような関係から生まれるビジネス、ですよね。「うまくいっても失敗してもいいから、この人と一緒にいたほうが人生が豊かだな」って思えるようなつながりというか。

武井:太田さんは、「友達」でいる努力を惜しまない。そこが素晴らしいところだと思います。

太田:ありがとうございます。そもそも自分は、感覚側の人間なんですよ。もちろん、戦略的な話もたまにしますけれど、感覚が大事。かつ香りの世界なんで、「世の中を楽しくワクワクできるように、自分たちが香りで彩りを与えていくんだ」っていうビジョンをとても大事にしています。だから、あんまりサイエンスサイエンスしないようにしています。要は、「エモい事業」をやっていくことを大切にしている。

理屈じゃ説明できない香りのエモい部分を使って、アーティストさんと一緒にライブの楽しい時間をつくったりとか、人の記憶に紐づく本来の香りの価値をライフスタイルに溶け込ませるという形で「一緒にみんなで楽しくつくっていこうよ」というスタンスで事業をやっています。

今は音楽ですけれど、これから絵画とか食とか、いろんなところとコラボして、この、少し淀んだ社会的風潮をカラフルに変えていくことをしたいと考えています。

【武井涼子インタビュー後記】

コメント 2020-09-04 155631

太田さんはすべて、サラッと軽やかに話していますが、とんでもないことを実現している起業家です。アクセラレータープログラムで戦略的に選ばれていくことも、コロナ禍の資金がショートしそうな崖っぷちで新商品を世に出しヒットさせることも、そう簡単にはできません。

そもそも会社勤めをしながらグロービスに通い、その上でプランを書くというのは強靱な意志の力がないとできません。その上で、私からのアドバイスを踏まえて「先日はこのように仰っていたので、こうしてみましたがどうでしょう」と相談にいらっしゃる。こういうことをやる方は本当にわずかです。しかもメーカーでの起業は、難易度が本当に高いんです。

戦略的な面をお持ちで、その上で太田さんが光っているのは、体力を使って人と関わっていること。例えば、「こういうものがありますから来てください」と声をかけられたとき、労を惜しまずに顔を出す。ある程度の成功を収めた方の中には「今までのコミュニティを卒業した」という気持ちになって、突然体力を使わなくなるということは多々あります。そういう方たちで、ずっとキラキラしていた方は、残念ながら1人もいません。途中で勢いがなくなってしまう。「この人と一緒にいたら人生が豊かになる」と思われる関係、太田さんのいう「友達」ですね、そうした関係をつくり、長く続けられるところ。多くの人が太田さんへの信頼を感じるのはそこだと思いますね。