見出し画像

ビジネスとクリエイティブの越境で創り上げた「あさって会議」ロゴ、制作の裏側

コロナショックに見舞われた2020年。「あすか会議」が中止となり、オンライン開催の「あさって会議」が急遽立ち上がりました。突然の出来事にも折れることなく、開催当日まで熱量高く活動したあすか委員たちを支えたもののひとつが、「あさって会議のロゴ」。今回は、ロゴ制作の中心を担ったお二人に、そのプロセスをお聞きしています。ビジネス現場でのヒントにもなる興味深いお話が聞けました。(全3回)

【インタビュイー】
篠原由樹さん=YUKI SHINOHARA DESIGN代表。専門領域は工業デザイン、デザインリサーチ、サービスデザイン、フォトグラフィ。株式会社Takramにデザイナーとして6年間勤めた後、独立。経営者とのディスカッションを通じてビジョン構築をすることや経営戦略をデザイン視点でつくることからプロダクトの意匠設計まで、活躍の場は多岐にわたる。

南恵太郎さん=IT系スタートアップ・株式会社ZIGにてSNSマーケティングの事業部長を務める。役員3人、社員13人と小規模のため、南さんの役割は資金調達から事業計画作成、人事制度作成など幅広い。昨年あすか委員を務め、今年は全体コミュニケーションのチームリーダーを担当した。

目指すは「あすか委員全員が愛着を持てるロゴ」

最初に、コロナの影響で「あすか会議」が中止になり、オンラインの「あさって会議」に移行すると聞いた時の心境を教えてください。

篠原:実は前年の2019年にあすか委員に応募していたんですが、落ちたんです。2年目で受かって、ワクワクしていたので、あすか会議中止を聞いたときは、これでネットワークづくりが難しくなったなと思いました。でも、実際にやってみると、Zoomで高頻度に打ち合わせしましたし、リアルで会えた時の喜びが普段の100倍くらいになる。当初は残念でしたが、やっていくうちに逆に良かったと思うようになりました。

―南さんは、2年連続あすか委員をされましたが、どうでしたか?

南:最初に思ったことは「解散じゃなくて良かった!」です。私は昨年はコミュニケーションチームにいて、今年は同チームのリーダーを担当しました。最初は、オンラインで一致団結できるのか、難しさを感じましたが、蓋を開けてみると、追い風の方が多かったと思います。リアルで会えない危機感を皆が持って、1人ひとりが挽回しようとオンラインで積極的にコミュニケーションをとってくれた。だから、Zoomの打ち合わせ回数もすごい多かったです。

―そういう経緯がありながら、新たにロゴをつくろうという動きはどのように出てきたのでしょうか。

篠原:もともと、グロービスにはB人材(ビジネスパーソン)が多くて、C人材(クリエイター)と越境して仕事をしていくコツを知らない人が多いだろうから、みんなとクリエイティブの過程を分かち合いたい、という想いが「あすか委員」に応募した動機でした。

あすか会議が中止になった時に、あすか会議のロゴは使えないよね、新しいロゴが必要だ、という空気はありました。ある日のミーティング終わりに「1週間後までにロゴ募集します!」と告知がありましたが、これだけでは良いロゴはできないだろうと思ったので、それなら私が率先してやろうと思ったのがきっかけです。ロゴは専門ではないですが、できる限りのことをしようと思いました。

―南さんや他のメンバーの反応は?

南:実はロゴを募集してもあまり来ないだろうなと思っていたので、篠原さんの提案には助かったというのが正直な気持ちでした。というのも、毎年あすか委員用のウェアをつくるので、そのデザインを募集するのですが、あまり応募はないんです。クリエイティブに強い人はあまりいないので。なのでロゴは、最悪外注しなければならないかもと思っていました。

篠原:みんなは「頼んでいいの?」と遠慮した反応でした。プロのデザイナーにタダの仕事を頼むみたいで、気軽にお願いするのは申し訳ない、という感じで。みんな、最初は私が1人で創ってくれると思ったかもしれません。でも、絶対に私が外注先みたいになることはしたくなかった。「あすか委員全員が愛着を持ってくれる、全員の想いが込められたロゴ」でないと、上手く広がっていかないですから。

―ロゴ制作は一般的には外注が多いのですか?

篠原:そうですね。弊社のお受けする案件ではあまりないですが、「時間がないから」と下請け的な投げ方をされがちです。

あすか委員の中にも、仕事でデザイン発注をしたことがある人がいたのですが、要件は自分で決めて、「これでお願いします」と投げて、返ってきたら想いと全然違うものがあがってきて、そこに修正点を投げて……というのを延々やっていると話していました。

それがデザイン業界の実情だと思いますが、そういう不毛な習慣を変えたくて。クリエイターと発注者が一緒に対話しながら創ることができるようになれば、結果的に良いものができて両者とも幸せになる。そのプロセスをB人材のみんなに体験してほしかった。

―出発点を変えると、B人材・C人材の関係や、その後に続くプロセスが変わるのですね。

篠原:そうです。そこで最初に南さんが毎週土曜の夜に開いてくれていた『スナックなんこ』というオンラインバーで、「ロゴ創りワークショップをやるよ」とみんなに呼びかけました。そうしたら、ロゴを創るプロセスを知りたいという人が次第に集まってくれて……でもこのとき、時間がありませんでした。ロゴがないと広報も動けない。実質、1週間半ぐらいで完成しないといけなかったんです。短期間でみんなの思いを込めたロゴをどうやって創るかは、難題でしたね。

南:「みんなで創った感」を持ってもらうためため、ワークショップにはできるだけ多くの人に参加してほしかった。ワークショップの最中にも楽しそうな写真を共有すると、飛び込みで参加してくれる人がいたり。毎回終了後に写真を共有して、興味を持ってくれる人を増やしました。結果、あすか委員のほぼ全員が関わってくれたので、本当にみんなで創った感じはあると思います。

「デザインワーク」とは「絵を描くこと」ではなく意味を形に起こすこと

ワークショップのプロセスを教えてください。

篠原:グロービスの授業っぽくDAY1から始まっています。最初は、「想いの言語化」。キーワードをみんなで書き出していきました。デザインワークは、“絵を描くこと”だと思われがちですが、元となる素材の方が大切です。何をモチーフにするのか、そして、そのモチーフに意味を持たせなくてはならない。だからまず、みんなの想いをたくさん書きだしました。

画像2

次は、出てきたキーワードの「ビジュアル化」。この段階では、まだ自分で絵を描くのは抵抗があるだろうと思ったので、イメージに近い画像をWEBで探して、それぞれ貼り付けていくようにしました。ここからKJ法(付箋などのカードに考えたことを書き、それをグループ化することで思考を整理していく方法)のようにまとめつつ、描ける人は絵を描いてももらって、キーワードを観ながら私がスケッチを起こしていきました。3日後のDAY1.5にはこんな感じのラフ案を出して。

画像1

右は、あすか委員たち用のTシャツですよね。

南:はい、こちらも同時にデザインを考えました。もともとこのシャツは、会場で委員を識別してもらうために着るんです。でも、オンラインでは映らないですし、他者からの識別的な意味も不要になるので、なぜ着る?なぜ作る?という目的を、「仲間意識の醸成」や「一体感」に絞りました。

篠原:それならば、敢えてあすか委員だけにしか分からない暗号のようなデザインにすることで、より結束力が生まれるのではないか、と思い付きました。数字がズラーッと並んでいるのですが、たとえば、「0214」は、2019期(入学のあすか委員メンバー)が初めて集まった「2月14日」、つまり私たちのDAY1です。さらに、委員のイニシャルの間にニックネームを挟みました。たとえば南さんだと、あだ名は「なんちゃん」なので、「ケイタロウ ナンチャン ミナミ」で「KNM」。各担当企画も最初につけて、たとえば「パワーナイト」担当者は「PN」が頭について、全部で5つのアルファベットが並び、それぞれの人を表しています。

―思い入れが深くなりますね。

南:私の今日のTシャツもこれです。これで仕事に行っていますし、違和感がないので、みんな普段も着てくれています。

篠原: 外でも着られるデザインがいい、とみんなで議論して決めたのですが、その通りになりましたね。

****

クリエイティブへの土地勘がない、時間もない、というないない尽くしの中、ロゴ制作ワークショップは徐々に求心力を増していきます。ロゴ完成まで後半はどんなプロセスをたどったのでしょうか。

▼第2回に続きます。