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アジャイルコーチの生態系

最近色々な方から「アジャイルコーチって何?」「どんなキャリアなの?」など聞かれることが増えたので、まとめてみようと思います。

アジャイルコーチって?

アジャイルコーチは、個人、チーム、組織が、アジャイルに根差した働き方や文化の変革を促進する役割です。
アジャイルコーチが何か?詳しく知りたい方はぜひ、コーチングアジャイルチームスを読んでみてください。

開発現場で用いられることが多い考え方ですが、ビジネスサイドにも必要な考え方です。
DXで仕事とデジタルが入り混じる昨今、この考え方や実践法を知っているか知らないかで、組織の俊敏性は大きく左右するでしょう。アジャイルコーチは、組織/ビジネスのゴールや課題解決に向かって必要なアジャイルアプローチやステップを提示し、クライアントの伴走をします。

アジャイルコーチが取り扱うビジネス課題は広い

開発の体制やプロセスの変革、そこから派生するビジネス側との協業体制構築や拡張などが、開発組織から端を発するアジャイルコーチの大きな仕事の一つですが、
ビジネスサイドから端を発する仕事も多くあります。この場合のクライアントの主な課題は以下のようなものがあります。

働き方改革、生産性・パフォーマンス向上

  • 人員不足で生産性向上が急務

  • 統合や合併、大幅な人員増があったが、パフォーマンスが上がらない

新規製品開発、ビジネス立ち上げ

  • 新規プロダクト/ビジネス開発を行いたいがどのように進めるのかわからない

  • DXの流れで立ち上がった委員会で、なかなか要件が決まらない、モノができない

  • プロダクトが売れない、使いにくい、使われない

部門間シナジー、働きがいの創出

  • 開発子会社や関連会社とより効率的・効果的な働き方に変えたい

  • 中計では事業部間シナジーやコラボレーションによるイノベーションを掲げているが、うまく進まない

  • 従業員満足度が低く、エンゲージメントが低下している。働きがいを創出したい

チェンジマネジメント、人材育成・評価、専門組織の創設

  • SaaSの導入を進めたいが、社内外のステークホルダーを巻き込みながら効率的、ビジネスインパクトが出るように進めたい

  • ガバナンスなどの刷新、新しい組織施策の浸透がうまくいかずアプローチを変えたい(例えばCDOの方がデータ活用を全社展開したいなど)

  • アジャイルCoE, 専門組織を作りたい

  • リスキリングのため教育戦略やトレーニングを施したい

最初は1チームのスクラムチームの立ち上げから始まることも多いですが、支援が広がっていくと、経営や組織のコンサルティング企業が取り扱うテーマと類似してくることがわかると思います。上記のような問題に、アジャイルの価値観や原理原則の知恵を用いてクライアントの変容を支援します。

アジャイルコーチの能力

Agile coach growth wheel | Scrum Alliance

アジャイルコーチの支援ってどんな感じ?

アジャイルコーチは週に数回、クライアントに出向いて活動します。(リモートだと、オンラインセッションでの参加となります)
スクラムチームの場合、スクラムイベントに参加しチームのコミュニケーションを観察しながら、業務の優先順位の妥当性、課題の要因分析、計画の見積もりやタスク分解に至るまで、問いを投げかけたり、反映しながらチームの自己管理を助けます。
ワークショップを積み重ねて集団の意思決定を生み出すファシリテーション中心の組織開発手法とは違い、日々の仕事の中での振る舞い、コミュニケーションのあり方に変化をもたらします。
そんな訳なので、アジャイルコーチはアジャイルの概念から実践レベルまで深く理解しています。

クライアントには、実践過程を通じて様々な学びを促します。
「指示待ち型から、自律的なチームになるには、どのような行動が必要か?」
「意思決定を倍速に早めるにはどうするか?」
「品質を常に高めておくことはなぜ競争力につながるか」などさまざまな要点があります。
スクラムやかんばんなど中心的なプラクティスを取り入れていくと同時に、新しい働き方や考え方、価値観からクライアント組織が何をどのように学ぶか、変容の過程で生じる混乱や対立をどのようにホールドするか、リーダーをどのように支援促進できるか、常に考え促します。

そのため、スクラムマスターやアジャイルコーチにとって、みずからのリーダシップや、クライアントコミュニケーション能力としてのコーチングは土台として重要な能力です。
しかし、あくまでビジネス成果や組織のビジョンを達成していくことが目的なので、プラスアルファの分野知識が必要です。
すごいざっくりですが、こんなイメージ↓

ドメイン知識の部分は、その人の持つバックグラウンドによって違います。
以下に大まかにバックグラウンド別にアジャイルコーチングの提供内容の違いをご紹介します。

エンジニアバックグラウンドのコーチ

エンジニアとしてのバックグラウンドがあるコーチは、開発組織でスクラムなどを活用してチームパフォーマンスを高めつつ、テクニカルプラクティス(品質の戦略や、テスト駆動開発、アーキテクチャ設計支援など)の具体に踏み込んで伴走支援してくれます。
プロダクトやプラットフォームなどのビジネスが軌道に乗ってくると、開発領域が広がり、複数チームの開発体制になります。
複数のアジャイルチームを支えるスクラムマスターの育成や、全体のKGI/KPI管理など、プロダクトチームが健全に、かつどこに向かっているのかを把握する手助けをしてくれます。
サービスリリース後Devopsなど運用体制の構築や、プロダクト収益を広げるための戦略支援なども同時並行で支援します。
※日本だとほぼこの領域で活躍している方が多いと思います

PMバックグラウンドのコーチ

製品開発のプロマネを長年やってきた方でアジャイルの適用の流れを受けて(またそこに共感して)、スクラムマスターやアジャイルコーチに転身する方も一定数います。
Kushidaさんのnoteにもあるとおり、2021年頃PMBOOK第七版にアジャイルアプローチが本格的に取り込まれたことで、アジャイルPMのような人も多くなってくるのではないでしょうか。

アジャイルPMOは、スクラムチームをすぐ立ち上げよう、みたいに始まることは少ないかもしれません。チーム開発の前に考えなければいけないポイントがたくさんあるからです。
計画管理のあり方、委員会の柔軟化、ゲート方式の見直しなど、これまでの進め方だとどうしてもうまく行かなかった”世に届けるためのリードタイムや、要求変更への柔軟性への対処”を、どのように進められるか?
を考えながら進めてくれます。

Don’t break the low, Break the rules.

この言葉はあるトレーナーからのもらい言葉ですが、私にはとても響いた言葉です。アジャイルPMを実践する人にとっても、探究しがいのある言葉なんじゃないかなと思います。

ビジネスバックグラウンドのコーチ

営業、マーケティングなどビジネスバックグラウンドを持つ方や、比較的小さなチームのリーダーをしていた人がアジャイルの価値観に触れ、アジャイル推進者となるキャリアもあります。
(私はここ)
冒頭で紹介した通り、様々なビジネス/組織課題に対して、アジャイルマインドセットやアプローチで改善や変革を後押しします。

アジャイルコーチのキャリア

アジャイルコーチはどこで働いているの?という質問もよく聞かれます。
大きく分けて以下のような働き口があります。
ここでも開発が中心となっていますが、今後さらに多様化してくると思います。

総合コンサルティングファーム・デジタル専業コンサルティングファーム

大手のコンサル企業のデジタル変革専業部門か、デジタル専業コンサル企業では、アジャイル開発支援やそれに伴う人材・組織戦略・業革支援などを行っています。
Linked in, indeedなどで調べてみるとアジャイルコンサルタント、というような募集もありました。(が、アジャイルコーチの世界観からは離れる気がします)

アジャイルコーチング専業企業

個人事業主のコーチや、コーチ数名での会社組織があります。私も昔所属していました。
アジャイルコーチ専業の場合は、支援規模によりますが大体1人か2人でクライアント先に出向き、トレーニングや、開発チームの立ち上げから運用健全性の観察と課題対処、マネジメント陣と今後の戦略の検討などを行います。上記で紹介したような、チーム支援だけではなく、ビジョン策定や人材育成戦略、開発体制の戦略構築支援など、クライアントのゴールに向けて必要なことはどんどんドアノックしていきます。
このように変革が広がる兆しがあった時、どのようなアプローチやタイミングで、クライアント内の仲間を増やしていくのか、クライアント推進者とともに考え、ガイドするのがアジャイルコーチの一つの価値です。

システム開発ベンダー(SIer)  

システム開発を請け負う企業にもアジャイルコーチは存在します。ここでのアジャイルコーチは、開発をアジャイルでやりたいというお客さんに対して自社の開発者とセットで支援できることが特徴的です。
開発ベンダーによりますが請け負う範囲が大きいと、SAFeなどの大規模開発アプローチを適用することもあります。

(SaaSやクラウドソリューションなどの自社ソフトウェアサービスを持つ)プロバイダー企業

自社サービスの利用を促進するために、アジャイルコーチを採用している企業もあります。
クライアント組織が新たな目的に目覚め、現状の体制やプロセス、開発方法などをモダナイズする手助けをしてくれます。

アジャイルコーチとして支援する本質的な内容に大きな差分はありませんが、所属企業によってビジネスモデルが違いますので、大人の制約が生じることもあるかもしれません。

IT・ソフトウェアサービス企業

ソフトウェアプロダクトを核としてビジネスをしている企業は、ここ10年でだいぶ習熟していると思います。開発も内製しているところが多いので、アジャイルなものづくりはしやすい環境です。プロダクトのビジネス価値をさらに上げるために、スクラムマスターやアジャイルコーチを必要としている企業は多いと思います。

大手製造などの非IT企業

ソフトウェアプロダクトをビジネスの核としていない企業も、DXはどこでも掲げている課題です。が、開発はIT子会社かベンダー、コンサルなどに委託しているケースが多いかと思います。この辺りの日本独特な商習慣や業界構造があるので、一部役員直下かIT部門で採用があるケースがありますが、まだまだアジャイルコーチが自社で必要だ、となっている企業は数少ないんじゃないかと思います。

業界構造課題について、経産省のDXレポートがわかりやすいのでぜひ見てみください
https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210831005/20210831005-1.pdf

アジャイルコーチの可能性-足元半径3メートルの変化を創り出す

アジャイルってシンプルにいえば、「自分たちで見通せるものを限定して、実験して、結果をちゃんと現物やデータでみて、みんなで次の一手を考えよう」です。不確実な世界の中で「イマココ」を大事にする考え方です。

また、アジャイルは「言語を通して世界を創るコミュニケーション基盤」のようなものだな、とも思います。
新しいことややり方を取り組むうちに共通言語ができて、同じ世界を目指せるようになったり、
仲間の状況が掴みやすくなることでちょっとした相手への配慮ができるようになったり、自分たちのパターンや課題も見えやすくなります。
文化や風土のアップデートは私たちの身の回りの一歩から始まるんじゃないでしょうか。

ツラツラとかいてきましたが、あなたの世界でも、アジャイルを始めてみませんか?
ぜひピンと来た方はお話ししましょう。

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