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タバコ屋

タバコを吸わなくなってもう何十年と経つ。しかし、JAZZのレコードを聴いている時にタバコの風景を思い出す時がある。

タバコを吸っていたのは高野山に住んでいた頃だ。高野山の路地裏に小さなタバコ屋さんがあった。タバコの自動販売機も置いてあるが、僕は窓口でタバコを買った。タバコ屋さんの看板娘が目当てだった。

その人は窓口にちょこんと座ったおばあちゃんで、いつもにこにこと笑っていた。タバコを買うと、「吸うかい。」とおばあちゃんは聞いてくれた。うなずくと、タバコの箱のセロファン、銀紙を開けて、タバコを1本取り出してくれた。そしてタバコの吸口をトントンとしてタバコの葉を整え、タバコを両手で添えて僕の口元まで持ってきてくれてくわえさせてくれた。そして、マッチを擦って火をつけてくれた。

高野山にいた頃は麻雀ばかりしていた。僕がそのタバコ屋さんに行く時は、麻雀でツキが無くなった時だった。おばあちゃんにタバコに火をつけてもらって吸いながらおばあちゃんと話をする。何の話をしたのかはもう覚えていない。おばあちゃんはいつもにこにこして話を聞いてくれた。そして、おばあちゃんの横のラジオからはいつもJAZZが流れていた。

タバコを1本吸う時間だからわずかな時間だろう。おばあちゃんと話をして気分転換をした。それでツキが戻ったと信じて僕はまた戻っていったのだった。

よせばいいのに。




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