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映画「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」感想

 一言で、貴族出身の一人の少女が、祖父の遺した「メッセージ」をもとに、北極点到達を目指す物語です。情景の美しさや音や物のリアルさが印象に残りました。

評価「C」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

・主なあらすじ

 舞台は19世紀ロシア、サンクトペテルブルグ。そこに住む14才の貴族の子女サーシャ、彼女の祖父は探検家ですが、1年前に北極航路の探検に出たきり「消息不明」になっていました。
 それによって祖父と家族の名誉は失われ、祖父の名を冠する予定だった科学アカデミー図書館も開館が危ぶまれてしまいます。
 ロシア高官の父は、それを打開するために、ローマ大使の道を模索しますが、そのためには社交界デビューの娘が皇帝の甥っ子に気に入られるしかないと考えています。
 社交界デビューの日、サーシャは祖父の部屋から航路のメモを見つけ、それが捜索船がたどったものとは「異なる」事に気付きます。そこでサーシャは、舞踏会にて王子に「再び捜索船を出して欲しい」と懇願しますが、当然受け入れられません。
 怒ったサーシャは、思わず王子に言い返してしまい、不興を買ってしまいます。誰も協力してくれないなら、自ら祖父の居場所を突き止めたいー祖父との再会と、遭難した艦船ダバイ号の発見し、真実を突き止めるために、彼女は密かに旅に出ました。
(公式サイトより引用、詳細は下記に。)

・主な登場人物

・サーシャ: 名門貴族チェルネソフ家の1人娘で年齢は14歳。おじいちゃん子で、祖父オルキンの冒険心を受け継ぐように、1人で家を出て行方不明となった祖父を捜します。

・オルキン:サーシャの祖父で、ロシア海軍の著名な探検家でした。北極点を目指しましたが、しばらく経って「消息不明」となっていまいます。

・トムスキー: 通称「トムスキー王子」 。ロシア皇帝の甥で、サーシャの社交界デビューとなる自宅パーティーに来賓として招かれました。
 野心家で策略家であり、ロシア科学アカデミーの大臣に新任しますが、勉学や教養には興味がなく科学の知識もありません。かつて叔父をオルキンに侮辱された事を根に持ち、オルキンの事を恨み嫌っています。

・オルガ:ノルゲ号が寄港する港にある食堂の女主人で恰幅の良い中年女性。前述のイヤリングを失って一文無しになり途方に暮れていたサーシャを助けて住み込みで食堂で働かせます。そのうち、飲み込みや適応が早いサーシャを気に入って積極的に協力するようになります。

・ルンド:ノルゲ号の船長。寡黙ながらノルゲ号のクルー達からの信頼は厚いです。

・ラルソン:ルンドの弟でノルゲ号の一等航海士。遊び人で女たらしで、物語序盤にサーシャが祖父から貰った形見のイヤリングを騙し取って質屋に入れ、得た金を賭博で失います。それでも、出港後は、根が真面目で優しく義理人情に厚い面を見せます。

・カッチ:ノルゲ号の見習い水兵で丸刈りの少年。年相応の無邪気さや素直さを持ち、年が近いサーシャにも好意的に協力します。

1. 情景の美しさや物や音のリアルさがとても良い。

 レミ・シャイエ監督のアニメは、とても色彩が豊かで、とても美しいところが特徴的です。特に、街や海、氷山などの情景がとても良かったです。そして色の濃淡のバランスがきちんと取れているので、見やすくもあります。また、敢えて「主線」を描かない作画は、まるで、油絵や水彩画を見ているかのようでした。
 そして、物や音のリアルさもとても印象的でした。前者は、自然の脅威を表現するために、嵐・荒波・氷山・クレバス・ホッキョクグマなどが登場します。これらは、日本の陸地に住んていたら、まず見ないものだらけなので、かなり恐怖感が伝わりました。
 後者は、航海中に聴こえた波の音や鳥の鳴き声、船が流氷に当たって軋む音やブリザードの激しい風雪の音などです。これらもとてもリアルで、本当に航海しているかのような臨場感がありました。

2. 世界名作劇場やジブリ映画を彷彿とさせる作風である。

 本作は、世界名作劇場やジブリ映画の良さを彷彿とさせる作風故に、楽しさと懐かしさが入り混じったような気持ちになりました。
 まず、ストーリーはシンプルでわかりやすく、90分弱という短い上映時間になっています。また、作画が綺麗で動物も登場するため、親子での鑑賞もお勧めできます。
 そして、子供が親元を離れて、未知の世界を冒険する物語や、ボーイ・ミーツ・ガールの物語は、世界名作劇場やジブリ映画を彷彿とさせます。
 実は、本作は故・高畑勲監督お気に入りの作品とのことで、過去に三鷹の森ジブリ美術館ライブラリーにて公開されました。
 最も、レミ・シャイエ監督作品では、頼りがいのあるおば様キャラが特徴的です。本作のオルガや「カラミティ」のムスタッシュ夫人からは、「天空の城ラピュタ」の「ドーラ」を彷彿とさせました。本作の「10分で準備しな!」の台詞も、「40秒で支度しな!」の「オマージュ」かなと思いました。

3. レミ・シャイエ監督は、「冒険心や自己決定意志の強い」女性が好きなのか?

 レミ・シャイエ監督作品について、本作も次回作となった「カラミティ」も、「冒険心」や「自己決定意志」を持つ女性が主人公になっています。
 若さや未熟故に、「過ちを犯す」ことはあるけれど、その反面常識に「囚われず」、周囲の目を「気にしない」、監督はそんな型破りな女性がお好きなのかもしれません。この辺は、ディズニー作品やジブリ作品に登場するヒロインと似ています。

4. 冒険好き・船好き・雪国を舞台とした作品が好きな人は嵌まるかもしれない。

 本作は、「冒険好き・船好き・雪国を舞台とした作品」の要素が至るところに散りばめられているため、それを探すのが楽しかったです。
 例えば、海図やコンパス、六分儀、ロープワーク、航海日誌など、船好きや航海に縁がある人にはツボに嵌りそうな要素が沢山ありました。(かくいう私もそれでした。)
 また航海ネタは、「パイレーツ・オブ・カリビアン」や「モアナと伝説の海」などを彷彿とさせます。(これらは熱帯の海が舞台なので、極地の海の話ではありませんが。)
 そして、氷の大地やロシア語やフランス語、が登場するので、「アナと雪の女王」・「ゴールデンカムイ」が好きな方にお勧めしたいです。
 ちなみに、日本のアニメ「宇宙よりも遠い場所」にも、極地ネタは登場しますね。

 尚、北極点到達について、史実では北極点に最初に到達したのはアメリカの探検家のロバート・ピアリーと言われています。彼は、凍傷で足の指を8本も失いながらも、決して諦めることなく、幾度もの挑戦を経て、1909年4月6日に北極点に到達しました。※しかし、現在では、ピアリーの示した証拠は「十分でない」という結論が出されているようです。
 ちなみに、ロシア(当時ソ連)も、1937年、スターリンの命を受け、北極探検隊の派遣が承認されました。沢山の困難を乗り越え、遂にソ連も北極点到達に成功しています。

 19世紀〜20世紀初頭は、富国強兵政策の一環として、世界中で未開拓地の捜索や発見が競われていました。その中に、北極点や南極点の到達も含まれていました。
 南極点到達だと、ノルウェーのアムンセン隊とイギリスのスコット隊が競った話が有名です。
 ちなみに、日本では白瀬矗(しらせのぶ)が1910年、「開南丸」で極点到達を目指し、日本人初の南極上陸成功を果たしました。南極点到達までは叶わなかったものの、1912年1月28日、南緯80度5分まで達して、付近を「大和雪原(やまとゆきはら)」と命名しています。

5. やはり、動物が「相棒」になる作品にハズレ無し。

 本作も、動物が「相棒」になり、主人公を助ける役回りになります。
 ノルゲ号で飼われていたシベリアンハスキーのシャックルは、最初はただ暴れるだけの駄犬かと思いきや、サーシャと仲良くなったことで、思わぬところで忠犬ぶりを発揮します。※おそらく、「シャックル (shackle)」というですが、錨鎖の連結する部分が由来だと思います。
 犬はやっぱりイイですね!ここも、「カラミティ」と同じだなぁと思いました。

6. 人物の描き方が良くも悪くも「リアル」なので、ここは評価が分かれるかも。

 レミ・シャイエ監督の作品は、「人間の長所と短所」がハッキリと描かれます。それ故に、キャラへの好き嫌いは分かれるかもしれないです。※「カラミティ」もそうでした。本作も、結構嫌なキャラが多く、度々「不快」になるシーンもチラホラありました。

 例えば、主人公サーシャは、旅へ出て以降ひたむきさや聡明で根性も見せるなど著しく人間的な成長を遂げます。一方で、若さや世間知らず故の傲慢さもあり、弁が立つ事から周囲の反感を買いやすいキャラとなっていました。
 祖父については、生前の情報は少ないものの、孫を愛する良き祖父の反面、頑固で科学に情熱的過ぎて融通が利かない故に敵が多かったり、トムスキー王子からは、叔父をオルキンに侮辱された事で嫌われていたり、二面性があるキャラとなっています。
 トムスキー王子も、地位や名声は名高いものの、性格はとても傲慢で、それらに全く見合っていませんでした。
 サーシャの両親も、家の名誉のために、娘の意志関係なく、王室に嫁がせようとします。これは、時代背景や身分のために「やむを得ない」選択とは言えど、現代を生きる私達から見れば、「気持ち良くなる」シーンではありませんでした。
 ラルソンも、前半では体の良い言葉でサーシャを騙し、預けたイヤリングを質屋に入れて、得た金を賭け事に使ってしまいました。後半からは、頼もしくなるものの、前半のエピソードの悪印象が強すぎて、「良い人物」だとは思えませんでした。

 また、作中を通して、男性が女性を怒鳴るシーンが多く、男性のモラハラ性が強調されています。(サーシャ父→サーシャ母・サーシャや、トムスキー王子→サーシャ、船員→サーシャなど。) 勿論、ここも時代背景的には、「あり得た」描写ではあるものの。

 そして、サーシャが女性なせいか、航海中は結構嫌な目に遭います。
 例えば、怪我人が出たからといって、いきなり自室を追い出されて男だらけの部屋に連れて行かれるシーンや、船員達が喧嘩をして、サーシャを「疫病神」呼ばわりするシーンなど、不快感を覚えるシーンも結構ありました。
 最も、昔は船が「女性」とみなされていたせいか、他の女性が乗船することは良しとされていませんでした。また、部下の船員達からすれば、いきなり見知らぬ女性が自分達のコミュニティーに乗り込んできた訳ですから、良い気持ちにはならないでしょう。彼らが言いたいことは「わからなくはない」ですが。

 (ここからは、物語の重要な核心に触れますので、ご注意ください。)
 結局、祖父は「氷漬け」になって亡くなっていました。そして、氷が割れて体が流されたことで、サーシャは祖父を連れて帰ることは叶いませんでした。しかし、遺された手記より、サーシャは祖父が「一人でも北極点を目指した」ことを知ります。遂に北極点に旗を立てた祖父でしたが、帰りのブリザードの中、体力を喪失し、力尽きてしまったのです。 祖父が目的をやり遂げたい意志はわかりますが、亡くなってしまったらそれは伝わりません。やはり、生きて帰ってきてほしかったと思ってしまいます。

 以上、ここまで「厳しい」意見にはなりましたが、時代背景的には「おかしくない」描写なのは理解しております。だから、決して作品を貶める意図はございません。

7. ストーリー展開や心情描写の「強引さ」や、「未回収の伏線」が気になる人は気になるかも。

 まず、本作は90分弱という短い上映時間故か、ストーリー展開や人の心変わりがやや「強引」な点は目立ちました。
 サーシャが祖父の考えを証明したい一心で黙って「家出」したり、港へ行くために、汽車に無賃乗車して、頼る宛もないのに港に停泊している船に乗り込んだり、祖父が遺した「航路が描かれた紙切れ1枚」で自分を信用してもらおうと躍起になって、それを見た船長が「心変わり」したり。この辺のストーリー展開や心情描写の「粗さ」が引っかかる人は、引っかかるもしれません。※これは「カラミティ」もそうでしたが。
 また、「未回収の伏線」も結構ありました。前半で出てきたので図書館の処遇や王子の態度、賞金の行方など。結局、質屋に入れられたイヤリングは取り戻せたのでしょうか?
 このように、前半の展開で気になったことが、割とそのままになって終わるので、気になる人は気になってしまうかもしれません。 
 ※他の方のツイートで見ましたが、TV版ではエンドロールがカットされており、そこに「伏線回収」があったらしいですね。時間があるときに、完全版を観てみようと思います。

8. 今の時期に観ると、結構「センシティブ」な作品かもしれない。

 本作は、ロシアが舞台なため、今の時期に観ると、色々と「思う」ことがありました。
 また船が沈没するシーンは、最近起こった北海道の「事故」を思い出してしまう人もいるかもしれません。
 このように、人によっては結構「センシティブ」で「引っかかる」かなと思いました。

 私自身は色々気になる点はありましたが、それでも観て良かったです。アニメ映画好きな方には、お勧めしたい作品です。

出典: 
・「ロング・ウェイ・ノース地球のてっぺん」公式サイト

※ヘッダーは本サイトより引用。

・「ロング・ウェイ・ノース地球のてっぺん」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%B3%E3%82%B0%E3%83%BB%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%82%A4%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%82%B9_%E5%9C%B0%E7%90%83%E3%81%AE%E3%81%A6%E3%81%A3%E3%81%BA%E3%82%93

・ロバート・ピアリー Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%90%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%AA%E3%83%BC

・北極点とロシア人
https://jp.rbth.com/travel/83445-hokkyokuten-to-roshiajin

・世界史の目 第75話 極地探検https://www.worldhistoryeye.jp/75.html

・船の係船設備(船の豆知識)http://sunami76.g1.xrea.com/keisen_se.html

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