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映画「ダウントン・アビー/新たなる時代へ」感想

 一言で、脚本のまとめ方や人物描写が素晴らしく、個性豊かな人物達が織り成す絶妙なユーモアやジョークに終始笑いました。また、時代の変化に乗りつつも、各々の道を歩む家人達を見て、世界中で愛される名作の所以を理解しました。

評価「A+」

※以降はネタバレを含みますので、未視聴の方は閲覧注意です。

 本作は、イギリスの歴史時代劇映画で、2010年から2015年まで放映されたテレビシリーズ『ダウントン・アビー』の2019年の映画版の続編です。
 テレビシリーズの原案・脚本を担当したジュリアン・フェロウズが脚本、サイモン・カーティスが監督を務めています。
 ドラマの舞台は1910年代前半から、1920年代後半のイギリス、ヨークシャーの架空のカントリー・ハウスである「ダウントン・アビー(Downton Abbey)」で、当時の史実や社会情勢が物語のベースとなっています。
 エドワード朝時代以降の貴族、グランサム伯爵クローリー家とそこで働く使用人たちの生活を描いており、歴史上の出来事が彼らの生活やイギリス社会階層に影響を与えています。
 本シリーズは、ゴールデングローブ賞テレビドラマ部門作品賞ミニシリーズ・テレビ映画部門やプライムタイム・エミー賞作品賞ミニシリーズ・テレビ映画部門など、多くの受賞歴があります。また、ギネス世界記録にも、2011年の最も高い評価を受けたイギリスのテレビシリーズとして認められ、世界で最も広く視聴されているテレビドラマ番組の1つになりました。

・主なあらすじ

 時は1928年。ダウントン・アビーではトム・ブランソンとルーシー・ブランソン・スミスの結婚式が行われました。
 ヴァイオレット・クローリーは、数年前に亡くなったモンミレール侯爵が彼女に南フランスの別荘を与えたことを明らかにし、家族を驚かせます。また彼女は、それを彼女の曽孫娘であり、亡きシビル・クローリーとトムの娘であるシビーに遺贈するつもりだと、皆に伝えます。
 一方、ハリウッドの映画製作会社は、映画の撮影にダウントンを使用することを申し出ます。ロバートと引退した執事のチャールズは反対するも、ロバートの長女で不動産マネージャーのメアリー・タルボットはそれに賛成し、使用料をダウントンの屋根の交換に使うと言います。
 その後、ヴァイオレットの別荘を訪れ休暇を過ごすメンバーと、屋敷に残るメンバーに分かれます。しかし、前者は、別荘にて「思いがけない」物を見つけてしまい、一騒動が巻き起こるのです…

・主な登場人物

(パンフレットで人数を数えたところ、何と40人近くいました!かなり多いので、詳しくは以下のリンクをご覧ください。)

ここに載ってない方(ハリウッド映画関係者)を以下に書きます。

・ジャック・ハーバー(ヒュー・ダンシー)ハリウッド映画の映画監督

・スタビンズ(アレックス・マックイーン)ハリウッド映画の録音技師

・ガイ・デクスター(ドミニク・ウエスト)ハリウッド映画の主演俳優

・マーナ・ダルグリーシュ(ローラ・ハドック)ハリウッド映画のヒロイン女優

1. 所謂、「大家族物語」としての普遍性が高い作品である。

 本作は、所謂「大家族物語」で、お屋敷「ダウントン・アビー」で起こる人間ドラマをコメディーやシリアス、ヒューマンドラマを交えて、時代の変遷とともに、色濃く描いています。
 日本で喩えるなら、大河ドラマや朝の連続テレビ小説、吉本新喜劇みたいな感じですね。そこに、『サザエさん』・『渡る世間は鬼ばかり』の要素を加えている感じです。
 本作では、色んな出来事が目まぐるしく起きるので、その度に登場人物のアイデンティティーが揺らいだり、今後進むべき道を迷ったり、彼らが思い悩み、試行錯誤する様子が描かれます。
 その中で、家族的立ち位置や社会的地位や役職という「外側の肩書き」のみに囚われるのではなく、もっと「人間の内面」に肉薄することで、生きる上で必要なことは何なのか、現代の私達にも通じる普遍的なメッセージを伝えてくれました。

2. 脚本・構成の交通整理がきちんと出来ているので、群像劇としても見やすい。

 本作は、とにかく登場人物が多く、ヨークシャーと南仏の2つの場所で時折場面転換しますが、脚本・構成の交通整理がきちんと出来ているので、群像劇としても見やすくなっていました。
 前述より、人物が多く相関図も複雑ですが、とにかく物語が面白いので、その流れに乗って自然と楽しめました。また、場面転換のタイミングも絶妙なので、さほど混乱しなかったです。 
 また、別荘の相続・映画撮影・とあるお家騒動と、どれも「濃い」ネタを入れながら、よく2時間強に纏めたなぁと感心しました。それだけ脚本力と構成力が上手かったのでしょう。それ故に、世界中で本作のドラマ・映画が人気なのも頷けました。

3. ロケーションや衣装が素晴らしく、旅行をしているかのように映画に入り込める。

 本作は、とにかくロケーションや衣装、小道具に至るまで、背景・美術スタッフのこだわりが伝わってきました。『ハウス・オブ・グッチ』もそうでしたが、しっかりとお金をかけているからこそ、リアリティーが増しています。そのため、まるで旅行をしているかのように映画に入り込めました。
 イギリスの一面緑の草原や南仏の海、大きなお屋敷、どれも行ってみたい所ばかりです。また、家人の衣装もフォーマルときらびやかさがマッチしていて、流石上流階級の御人は違うなぁと感心しました。
 それにしても、お屋敷広すぎです!そして、バカンスのクルーズとテニスとアフタヌーンティーと海水浴は流石お金持ちの道楽だなぁと思いました。この辺は、アガサ・クリスティー氏の『名探偵ポワロ』シリーズと重なりました。

4. 劇中劇がとても面白いし、映画の歴史の勉強になる。

 本作では、ダウントン・アビーが映画撮影のロケーションとして使用されます。やって来たのは無声映画の俳優達でした。しかし、当時1920年代後半から、ハリウッドにてトーキー(映像と音声を組み合わせた映画)が商業化されたことにより、今回はトーキーを撮影することになりました。

 ここからは、所謂「劇中劇」が繰り広げられます。無声映画からトーキーへの変遷により、俳優達は演技や撮影の違いに戸惑います。そして、結果を残せなければクビになるかもしれないと関係者達は騒ぎます。加えて、ヒロイン女優マーナはトラブルメーカーで、些細な事から撮影を中断させてしまいます。
 彼女は、マリリン・モンローみたいな見た目の美人女優ですが、演技が大根で、出演作品の評判はどれも今一つでした。そのため、彼女は外側では威勢を張っているものの、内側には弱さも抱えていました。最初はプッツンな所を見せて、ダウントン・アビーの家人達の好感度を落としていたものの、徐々に心を開き始めます。やがて、彼らとの触れ合いを通して、自分のアイデンティティーを見つめ直し、最終的に新たな道を見つけたのです。

 この辺りのエピソードは、朝の連続テレビ小説『おちょやん』を思い出しました。活動写真・映画館の生演奏・活動弁士・喜劇王チャップリンなどは、この当時のタイムリーでした。また、トーキー撮影にて、動画を先に収録して、その後マイクで台詞を被せる「アフレコ」作業は、正に声優の吹き替えそのものですね。

5. 南仏の別荘での「お家騒動」で一悶着。

 一方で、別荘組のエピソードも、一癖も二癖あります。今回の別荘の相続理由を調べるうちに、とある人物の「父親」について、「疑惑」が浮上します。何だかややこしい話になってきて、翻弄される家人達。
 ロケットに入っていた「女性の肖像画」は誰?そして、何のためにモンミレール侯爵は、ヴァイオレットに別荘を譲ったのか…?
 ここからは、ヴァイオレットの若い頃のエピソードが挿入されます。昔の恋と今の歩く道、でも感情よりも理性の人でした。ここは、所謂、「男はフォルダ保存、女は上書き保存の話」かなと思います。

6. イギリス作品ならではの、皮肉やブラックユーモア・ジョークは多めだが、不快にはならない。

 本作も、他のイギリス作品と同じく、皮肉やブラックユーモア・ジョークが多めに挿入されますが、全く不快にならなかったです。これは、脚本の巧さとキャラ設定の絶妙なバランス故だと思います。やはり、作者の技量が高いのですね。
 また、時折のハプニングには笑みが溢れました。ひょんなことから、家人達が「エキストラ」として映画に出演しますが、時折見せる「素人のリアクション」がアドリブとなって、却って映画を面白くしていました。
 一番面白かったのは、天井に吊るしたマイクのせいで「公開プロポーズ」が起こってしまった下りです。こういう流れはベタではあり、ヒヤヒヤしますが、一方で童話の王子様とお姫様のようで、プロポーズが成功するように、こっちまで応援したくなりました。
 このように、全体的にクスッとした笑いポイントが散りばめられています。派手な演出や大爆笑を狙ってはいない、淡々としたヨーロッパテイストの作品で、アメリカ映画や邦画とは異なるイギリスらしいユーモアさに溢れていますね。

7. イギリス人らしい個人主義が作中に溢れている。

 本作は、他のイギリス作品と同じく、「個人主義」が作中に溢れていました。男女・夫婦・親子でも、役職や立場の違いがあっても、個人は個人の意見を持ち、伝えたいことはハッキリと伝える、そんな精神が伝わってきました。それが、次項で述べるタイトルに繋がっていました。

8. それぞれの旅路へ行く、「新たなる時代へ」のタイトルの伏線回収が見事。

 本作は、ラストにて「新たなる時代へ」のタイトルを伏線回収していましたが、そのやり方が見事でした。
 ちなみに、この「新たなる時代へ」、原題では"Downton Abbey: A New Era"となっており、よくある原題の雰囲気を壊してしまう「余計な」邦題ではないです(笑)

 特に印象に残ったのは、俳優さんと執事さんとのエピソードです。本作も、最近の映画の傾向からLGBTの要素がありますが、とても自然で「如何にも狙って入れたもの」ではないのに好感が持てました。
 俳優さんの「僕は貴方と『それ以上の』関係になりたい」、執事さんの「私は、『付き人』として貴方についていきます」のやり取りが好きです。※最も、「付き人」という表現は、この当時にできるものとしては、「ここまで」なのかなと思いました。
 家人達は、「世間の目」について一言触れるも、最後は二人の背中を押したところも良かったです。

 たとえ人が亡くなっても家は残るし、家族の人生は続きます。離れていても、どの道を選んでも、自信を持って生きればいい。それは、ダウントン・アビーの家人達だけでなく、モンミライユ親子も、ハリウッド映画関係者も同じ、普遍性なメッセージでした。

9. ヴァイオレット役のマギー・スミス氏の名演が心に残った。

 本作にて圧倒的な存在感を示していたのは、ヴァイオレット役のマギー・スミス氏でした。圧倒的な女主人感、屋敷のボスとして、この家の運命を握っていました。
 それにしても、『ハリー・ポッター』から随分とお年を召されましたね。それでも、流石イギリスの名優の一人です。
 ちなみに、彼女の病名はガンではなく、悪性貧血でした。それでも、今とは違って、治療法はほぼ無かったのでしょう。この当時なら、もう十分長生きだったかもしれませんが、現代よりも治療法の少ない時代故に、病で倒れて死を待つのは恐ろしかったでしょうね。
 だから、ヴァイオレットの御臨終とお葬式は自然と目と鼻がグズっとなりました。(事前に「泣ける映画」・「感動作」と宣伝されなくても、こういう風に自然に感情を動かされる作品って良いですね。)
 あのシーンは、何となくエリザベス女王様のお葬式を思いだしました。※勿論、本作の公開が「タイムリー」なんて言ったら、失礼なのは承知の上です。

10. 冒頭の結婚式の集合写真と、最後の葬式の集合写真のリフレイン演出が見事。

 本作はリフレイン演出も見事で、特に、冒頭の結婚式の集合写真と、最後の葬式の集合写真が自然と重なって見えたのがとても印象的でした。この家には、何代にも積み重ねてきた歴史があり、そしてこれからも歴史は紡がれていく、過去・現在・未来が繋がった瞬間でした。
 作中では色んな騒動がありましたが、最後は皆が幸せになって終わるのが良かったです。
 余談ですが、犬が可愛かったです。本作、犬にはフォーカスしませんが、外で子供達と戯れたり、撮影現場をウロチョロしたり、結構目に入りました。

 ここまで感想を述べましたが、実は、タイトルを知っていたくらいで、ドラマシリーズと前の映画は未見なのです。でも、それらを知らなくても、十分に楽しめた作品でした。ドラマシリーズと前の映画も、時間があれば観ようと思います。※皆様の感想を拝読したら、ドラマシリーズではシリアスなエピソードも多いとのことですが、本作はラストらしくハッピーエンドで締めたのかなと思います。

 やはり、人気シリーズ作品故かお客様が多く、上映解禁の9月30日から一ヶ月近く経っていたのに、8割位座席が埋まってたのに驚きました。ちなみに、平均の年齢層は見た感じ40代から上くらいとわりと高めですね。

 恐らく、もう上映終了している劇場が多いと思いますが、もしご興味がありましたら是非一度ご覧になってみると良いかもしれないです。

出典: 
・映画「ダウントン・アビー/新たなる時代へ」公式サイト

・映画「ダウントン・アビー/新たなる時代へ」公式パンフレット

・映画「ダウントン・アビー/新たなる時代へ」Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%A6%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%93%E3%83%BC/%E6%96%B0%E3%81%9F%E3%81%AA%E3%82%8B%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%B8

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・サイレント映画 Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%AC%E3%83%B3%E3%83%88%E6%98%A0%E7%94%BB

・トーキー Wikipediaページhttps://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%BC

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