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音楽・創作民に捧げる珠玉の私的プレイリスト "My Decade -Paper-"


自己救済のクスリ


人生初のプレイリストを編集している。

今考えているのは3種類の "Paper" "Rock" "Scissors" と名付けたリストに50曲ずつ入れる予定だけど、最終的にどうなるかはわからない。この "Paper" だけでも50曲に絞るのは苦しんだし、好きなアーティストの曲を全部聴けたわけでもない。食指は動いたがまだ掘り下げてはいないグループのストックも多分150組はくだらないはずだ。

タイトルをじゃんけんにあやかったのは3つのイメージと関係性が似ているからだ。 "Paper" はポップであかるいもの、"Rock" はドープで危険なもの、"Scissors" は歌唱力や演奏力が高いもの。もちろん「紙」は「石」に勝つが「ハサミ」には負ける。今回公開のリストにはポップで一般受けの良いものを集録した。わずかながら僕のエゴでねじ込んだ例外があるけども。

選定基準は優れた楽曲であることと、僕がこの10年間で愛聴してきたことだ。だからどれも思い出深いものばかり。2010年代の楽曲が多いのは僕がいちばんこの頃に音楽を聴いていたからだし、ジャンルのちがいにはまるで興味がないのでほとんど闇鍋とかわらない。また、おなじアーティストからは2曲まで、おなじアルバムからはなしというルールを厳守している。

たぶん、"Paper" のなかで20曲以上知っているひとはいないぐらいマイナー揃いなので(もしいたらこっそり教えてほしい)音楽好きなら楽しめるし、味変したいひと、耳をもて余しているひと、あるいは単純に僕がどういう音楽を聴いてきたか興味があるひとにはぴったりだろう。

アートフォーマットとして考えた場合、音楽は BGM として「ながら鑑賞」できるのがユニークだ。もちろん、神経を集中させた鑑賞でしかえられないものもあるが、美術作品をコレクションしてともに暮らすこと以外に「ながら鑑賞」できるのは音楽をおいてほかにない。通勤通学や単純作業の時間を音楽はまるでちがうものに変えられる。

僕の批評の眼をひらいたのは師匠からもらった塩トマトだったことは以前書いた。優れたものはその傑出の輝きでひとを魅せるだけでなく、解像度の高さによる暗い澱み、脳の知覚領域を押し拡げる複雑さ、時代の停滞を切り拓くテンポ感、世間の常識に歯向かうアイデアの斬新さで僕らの感覚や価値観の「外」を垣間見させてくれる。

懐かしい記憶や好みを慰撫するあまやかなものでなく、自分自身をうち壊す素晴らしいものを僕が求めてやまないのはあのときの塩トマトの衝撃にとり憑かれているからだろう。

このプレイリストシリーズをお勧めしたいのはまず、当時の僕のように人生の絶望を生きているひとだ。素晴らしい作品にふれたときの感銘は何物にもかえがたく、その喜びのために明日も生きられる純粋な美しさがある。社会や他人や自分自身に裏切られてもなお残るその喜びは僕を絶望の底から何度も救ってくれた。

また、その後の僕のように批評や創作表現のために自分自身を拡張したいひとたちにこのプレイリストを捧げたい。素晴らしい音楽作品はこの身に追いすがる人生の汚泥から掬いあげてくれるだけでなく、繰り返し聴き、その「外」なる感覚や価値観に慣れることで自分自身を拡張してくれる。時や場所を選ばない「ながら鑑賞」ができる音楽ほどこのトレーニングに向いたものはない。

要するにこのプレイリストは今の僕の血となり肉となりカタチづくったものからあかるくポップな曲を厳選した珠玉のフルコースだ。あなた自身の「塩トマト」とここで出会えることを祈っている。

有料部分では、特に思い出深いアーティストをなんらかの理由で選外にした者もふくめて解説した。代表的な YouTube 動画もあるのでこのプレイリストからさらに深堀りしたいあなたの役に立つはずだ。


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