クソみたいな感情に愛を

星々が擦れ合う音でつくる歌あなたはきっとシのフラットね

 この歌を作った三日後に世界で一番私を甘やかしてくれた人が死んだ。

 死んだ人は星になるという。小さな星々が囁きあって一つの歌を歌ってるんじゃないかなと思って詠んだ歌だった。残念ながら私の尊敬するクソジジイはまだ若かったので、星にもなれてないだろうし、成仏もしてないだろうな〜と思っている。というか私たちを残して死んだことを心から悔いて、その辺に漂っていてほしい。ざまあ。

 正直ジジイの死をコンテンツ化?するのはあまりよくないなあと思うし、こういう朝路の悲しいプライベートをこうして書くのはキャラじゃないと感じている。ほら、私って短歌詠んでるちょっと残念なところもある人やん?(CoCo壱で外国人に間違われたり、難波で一切ナンパされなかったり)そんな明るい残念さんがこんなシミッたれたことを書いてええもんかなと思うが、何にも手につかないので、書いて昇華する次第である。

 クソジジイは本当に私のことを可愛がってくれていた。父親よりも父親だったし、私が院生のときに逃亡したことがあったのだが(結局行くところがなくて鳥貴族で1人でドカ食いしてた。3500円くらいいったと思う)、一番最初に電話してくれたのはジジイだった。必死で探してた。過保護だったし、死ぬほど怒られたし、鬱陶しかったときもあったけど、一生懸命生き方を教えてくれる、愛のある人だったと思う。


「人は死ぬがために生きてる。どうせ死ぬんやったら笑って生きる方がええやんか」
と言うのがジジイの口癖で棺桶の中に入ってても歯を出して笑っていた。腹立つな〜。実にあの人らしいと思う。ジジイを失って困る人なんてめちゃくちゃいるんだから、もうちょっと悔いるような顔をしてくれてたら同情できたのにと思うが、死してもなお、最後まで悲しませないようにしてくれている配慮がこのクソジジイのすごいところである。

 私はクソガキだったのでジジイにはめちゃくちゃ迷惑をかけたが、今、最後の最後にジジイに多大なる迷惑をかけられている。仕事も手につかないし、一日中ボーッとしているし、短歌も詠めないし、自分はこれからどうしたらいいのかわかんないし、ふとした時に泣きもする。
「ワシが死んだらお前は葬式だけ泣いて、次の日から笑ってる」
とあのおっさんは生前言っていたが、それだけはジジイの言った通りにはならんかった。ジジイに世話になっていた人たちはジジイのために泣いたら、クソジジイが鬱陶しがることくらい分かっているので、ジジイの悪口を言ってカラ元気でいるが、家帰ったら泣いてるんだろうな〜と思っている。自分勝手に急に死んで本当に無責任なジジイである。


 考えてみれば18のクソガキの時にジジイに初めて会って、もう今年で10年が経とうとしていた。私の三分の一があのオッサンでできていることになる。言葉も経済も生き方もあのジジイに教えてもらったし、みんなでくだらない話もたくさんした。もうちょっと生きてほしかった。ここまで己の愛でみんなを巻き込んだのだから、成仏せずにみんなを見守ってほしい。一逃げするなよ、責任取ってくれよ。

これからツラいのは私の人生の中で、ゆるやかに、少しずつ、でも確実にジジイの顔や声が記憶から薄れていくことである。私の人生の四分の一、五分の一、とジジイの記憶が小さくなっていく。
 まあでも今さらだが、クソジジイがしつこく言っていた「楽しく笑って生きる」という生き方はもう染み付いちゃったんよね〜。私が80の上品なお婆さまになって、ボケてジジイに世話になったことを忘れても、それだけは絶対忘れないと思う。それに自分が困ったとき、自分の中の小さいジジイ(ジジイは元々身長が低かったから、何という表現が適切なのかわからん)が「ああしろ、こうしろ」と言ってくれるんだろうと思っている。あれだけ私を甘やかしてくれたんだから。

 これからもブツクサ言いながら、私含めてみんなのことを守っていてほしい。楽して上に行けると思うなよ、クソジジイ。

 今までありがとうございました。

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