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【7】大冒険のはじまり

がん告知後、家出して2週間を過ごした場所から出発の日。晴れ。

この先、不安になったら目を閉じてここでの生活を思い出す。
想いを込めてお世話になった部屋に布団に触れ、猫たち犬に声をかけた。
愛を注いでもらった2人それぞれと長いハグをする。離れがたいけど行く。

来た時よりも落ち着いて景色が見れる自分が嬉しい。大丈夫、大丈夫。
以前より集中力が続かない自覚がある。無理せず何度も休憩。
出ないのに便意があるのは直腸を占拠しているがん細胞たちの仕業だろう。その都度トイレに行くも道中ウンチにはなかなか会えない。

住まう場所の見慣れた山々が見えてくるとホッとしつつ、気を引き締める。
家出した時と同じく静かに荷物を運び入れた。

「ちかちゃん・・・・どうしてるかと思っていたの・・」
そーっと実家に顔を出すと、母は涙目。

家族は私が顔を見せずに外出したり家に籠ったりしているのだと思っていた様子。私を刺激しないようにしていたのが感じられる。居なかったことを誰にも話さずに、説明や共有もせず口を閉じておくことにした。

「ちかちゃんは薬も病院も検査も嫌いな人だからさ、慣れていくのに時間もかかるんだよ。やいのやいの言わず、とにかく見守ろうって言ってたの」
下の妹が報告してくれた。

「ありがとう。だからそっとしてもらえていたんだ・・・・・」

自分の決心を口に出せなかった。

ごめん。私、病院に行かない。違う治療法を見つける大冒険をはじめるよ。

家族にも友人たちにも、きっと苦難のはじまり。

夫だけは、私がそう言い出しかねないと想定の範囲内だったかも知れない。



#創作大賞2023 #エッセイ部門

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