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言葉に向き合う感覚と仕事|私のことば体験

本が好きだ。読みかけの本は5冊以上あるし、買って読めていない本も数冊あるのに、まだ本を探してしまうくらいには好き。

忙しくなって余裕がなくなると本が読めなくなる。そんな状況が、疲れてるな~とか、そろそろ休んだ方がいいなあと判断するバロメーターになるくらいには本が好きだ。

それなのに・・・、子どもへの読み聞かせについては、さぼりがちだった!!なんなら小3のお姉ちゃんにも読んでもらってと、6歳と4歳の娘たちにお願いしちゃってた。そしてめちゃ反省した。この本を読んで。

保育園や幼稚園や家庭のどこかで、きっと誰もがどこかで目にしたことがあるだろう福音館書店の絵本。その絵本をどんな人たちがどんな気持ちで作ってきたのかという想いが、まっすぐ伝わってくる本だった。

子どもたちにとって、「読む」ということ以上に、読み聞かせの「音」として聞くことがどれだけ大切かについても繰り返し書かれていたし、それぞれの道のプロとよばれる人たち(画家さん、翻訳家さん、作家さん)がどんな姿勢で言葉と向き合い、仕事をしてきたかにも触れられていて、働き方の本でもあると思う。

言葉のセンス

「はなをくんくん」という絵本を知っていますか?私は知らなかったのですが、この本を翻訳した木島始さんは、翻訳家、詩人、童話作家としても活躍した人で、英語の原題、「THE HAPPY DAY」を「はなをくんくん」と訳したんです。

直訳すると、楽しい日とか、幸せな日になるけど、なんかピンとこないですよね。だって、そんなタイトルの本っていっぱいありそうだから。「はなをくんくん」という言葉は、絵本の中に何度も出てきたそうです。それなら、読んでもらう子どもにとって、一番印象に残る言葉は「はなをくんくん」ですよね。原題をそのまま訳すのではなくて、幸せな日、楽しい日を言い表す別の言葉をタイトルにするところにすごくセンスを感じました。

ですから子どもの日本語に対する感覚というのを、私たちはもっと気をつけていなくてはいけないと思います。子どもに本を読んだときに、どういうことばに興味を持つか、どんなことばを自分の中で発展させてイメージをふくらませていくか、ドラマをどう感じるか、そこなんです。ことばは生きる力なんですからね。

そういった子どもの言葉に対する感覚を育ててくれるのが、読み聞かせだということにも触れています。

今、私たちの耳に入ってくるのは機械のことばばかりになってきています。人間の口から語られることばが子どもに伝わるということが、本当に少なくなっている。最近子ども の耳に入るのは、機械語か小言じゃありませんか(笑)。 親が語ることばというのは、み なさんが想像している以上に子どもの気持ちに残るんですよ。

言葉への向き合い方

これまで言葉の行き違いで想いがうまく伝わらなかったこともあったし、自分自身が編集者としてフリーマガジンを作るようになったことで、より一層「言葉」について考えるようになりました。自分の気持ちに合った言葉を使うのはもちろん、意識的に使わないようにしている言葉もあるし、苦手な言葉に出合ったら、何でこの言葉が苦手なんだろうと考えるようにしています。

言葉への向き合い方というか、姿勢についてとても心に残っているのが、ディックブルーナの絵本を翻訳した石井桃子さんのエピソードです。ブルーナの絵本を翻訳することになった時、石井さんはまず、ブルーナの絵本を持ってオランダ大使館に向かいました。そして、大使館のご婦人にオランダ語で声に出して読んでもらったんです。英語は分かるけど、オランダ語は分からない。でもやっぱり耳でオランダ語を聞かなければ翻訳はできないと思って、オランダ語を一言ひとこと英語に訳してもらったそうです…。

 オランダでは主人公を「ナインチェ」と呼んでいるというのも、そのときお聞きになったんです。それを「うさこちゃん」とお訳しになった。「うさこちゃん」というのは、これはまさに日常の日本語の感覚ですよね。石井さんは、小さな子どもの本にはどういう特色があるかということをよく知っていらっしゃる方です。小さな子どもは、やはり意味ではない、耳で聞いていますから語感、音声が大切です。だからわざわざオランダ語を耳で聞いて、オランダの子どもがどういうふうに聞いているのかを子どもの気持ちになって体感して、それを日本語に置き換えられた。翻訳だけの問題じゃないんですよ。

翻訳ってただ単に言葉を置き換えるだけじゃない。どんな音でどんな響きなのか、その言葉を使っている時の表情はどんな様子なのか。そうした空気までを伝える言葉を探すのが翻訳という仕事で、そうやって作られた絵本を今も読み続けられるのは、とても幸せなことなのだと思う。 

松居さんは、観察絵本(子どもたちの身のまわり、また自分を取り巻く世界(環境)を広げる絵本。)と物語や詩との違いにも触れている。観察絵本は、あくまで教材であって、いろいろ刺激を受けるけど、心に残らない。でも物語だったら、うれしいとか悲しいとかいろんな気持ちが動く。教えることよりも感じることが大切で、物語から想像力が広がっていくことがなければ子どもの心に残らない。絵も同じで、説明的な絵はだめ。説明以上に描き手が物語の世界を自分のものにしている、物語る絵を読んで言葉を耳から聞くからこそ豊かな世界を想像できるんだと。

物語を説明することと語ることの間に、翻訳家や絵描きさんの仕事の全てが詰まってる。そして、そのバトンは物語を読み聞かせる大人に渡される。

そして何より、とくに小学校に入る前までの子どもにとって本というのは、語り手のものだということを、覚えておいていただきたいと思います。著者を知っている読者は意外にいないけれど、読んでくれた人のことは、声や表情、手の動かし方までちゃんと覚えている。そこに意味があるんです。手渡してくれた人のこと、一生忘れないですよ。それが本の、そしてことばの命です。

ああ、とても大きな大きなバトンを受け取ってしまった・・・!さあ、今日は子どもたちとどんな本を読もうか。

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