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バックロードホーンスピーカーを自作する

本当はバックローデッドホーンスピーカーというのだが、日本ではバックロードホーンで通っているのでそう記載します。
バックロードホーンの欠点はスピーカーユニットの大きさに対して筐体(エンクロージャー)がバカでかくなりすぎることである。べつにそんなことしなくてももっと他によい方法があるよということで市場からはほとんど姿を消してしまった仕組みのスピーカーである。
 
一方スピーカーを自作するというとバックロードホーンが俄然注目される。これは故長岡鉄男氏の影響が非常に大きいと思うが、構造が複雑なだけに作りがいがあるというのも一役買っているのかもしれない。
 
ぼくもスピーカーを自作しようと思い立ってまず最初に考えたのがバックロードホーンスピーカーだった。というか、バックロードホーンでなかったら自作などしなかっただろう。
なぜかと言えば、もっともポピュラーなバスレフ型や密閉型では市販品に到底敵わないからである。どうせ作るなら市場にほとんど製品がないものがよい。なにしろバックロードホーンで現行品というのは一部の映画館で使われている劇場用スピーカーくらいしかないからである。
 
さて、スピーカーを自作するにあたって「カノン5Dの資料室」というサイトを全面的に参考にさせて頂いた。この方はスピーカー作りの趣味が講じてスピーカーメーカーを興してしまったひとである。AudiFillというブランドで手作りスピーカーを販売している。こちらの方がバックロードホーンの作り方の詳細を公開してくれたおかげで、ぼくのような素人でも作ることができました。ありがとうございます。
 


パーツ選定


 
まずスピーカーユニットの選定である。初めて作るのであまりお金をかけずに作りたい。そこで選んだのが、FostexのFE103NV2という口径10センチのフルレンジユニットだ。Fostexではバックロードホーン専用のユニットも売っているが10センチユニットが現在ラインナップにないため、今回はこちらでチャレンジしたい。
 
スピーカーターミナルも同様にFostexからP24Bという製品を使うことにする。金メッキバージョンの半額である。そしてぼくは金メッキなど信じていない。
 
フルレンジ一発なのでネットワークはない。内部接続用のケーブルはオーディオテクニカのあんまり太くない線を使う。取り回しがよいことが条件で、あまり太いとハンダ付けし辛いのだ。
 
必要なパーツはこれだけである。フルレンジはいたってシンプルである。
 

設計


 
さていよいよ設計である。右も左もわからないのでサイトの提案通りに作ってみることにした。ただし自分なりの考えも少しは取り入れている。例えばバッフルの幅をできるだけ抑えてみるといった具合に。今回は幅16センチにしてみた。空気室の容量もある程度の幅は示してあるが、最終的な容積は自分で決定しなければいけない。ホーンの長さは2メートルでやってみる。ホーンの広がり係数やカットオフ周波数やなんやらかんやらもよくわからないので試行錯誤である。
 
音が良くなるのはいいんだが、エンクロージャーが大きくなりすぎるのは困りものである。今回は高さ90センチくらいを想定して設計し始めたが、色々といじくっているうちになぜか高さが75センチで全体が収まってしまった。よくわからないのでこのまま進めよう。ちなみに奥行きは33センチである。
 
これに高さ20センチのスピーカースタンド(もちろんこれも自作)を加える。すると95センチになって、椅子に座って聴く時にちょうどいい感じの高さにユニットがやってくるというわけだ。それにスタンドが必須になるにはもうひとつわけがある。今回の設計ではホーンのダクト開口部がスピーカーの底部にくる。これをそのまま床においてしまうと、ダクトから放出された低音が床に反射してその反射した音と合わさると音が濁るのだ。それを回避するためにどうしても20センチくらいのスタンドが必要というわけである。
 

木材の選定とカット


 
エンクロージャーに使用する木材は厚さ15ミリのラワン合板を選んだ。ラワン合板はいうなればベニヤ板であるが、厚さが15ミリもあるとかなり重いし頑丈である。木材は合板から集成材や無垢材まで色々あるが、作業性と価格を第一にラワン合板で行くことにした。材木の購入とカットはネットで注文した。近所のホームセンターでもカットしてくれるが直線のみである。今回はユニットが収まる丸穴開けとターミナルを通す角穴開けもやってほしかったので、そこまで請け負ってくれるネットショップを使用した。
 
 

工作


 
注文した材木が届いてからしばらく寝かせていた。それで音がよくなるからということではなくて、組み上げてしまったら終わりだなと思うとなんだか寂しかったのである。でも板のまま立てかけておいても意味がなく、ようやく重い腰をあげて工作に着手した。
 
まず、ユニットとターミナルを固定するネジのための下穴をあける。板に直接ネジをねじ込むのではなく、ガイドになるように細い穴を事前にあけておくのである。3ミリの下穴開け用の刃をホームズで買ってきて電動ドリルで開けた。
 
エンクロージャーの側板を寝かせてパズルというか積み木のようにホーンを形成する板を設計図通りに並べていく。板のカットは完璧でぴっちりと合わさって気持ちがいい。全部並べてみてなるほどこういう形になるのかと思わず関心した。こうして自分で手を動かして作ってみることで初めて見える世界というのがある。


小学生の書く迷路みたいだな


 
コニシの木工用ボンド速乾をたっぷり塗って一枚一枚板を貼り付けていく。たっぷりというのがどのくらいか最初わからなかったが、塗っていくうちにちょうどよい量というのがみえてきた。多けりゃいいってもんじゃないのである。多すぎると結局はみ出る量が多すぎてそれがたれて大変なことになるのだ。

ところでコニシのボンド、50g入の小さいやつは白が速乾で黄色が通常版なのに、500gの大容量版だと白が通常版で黄色が速乾になっている。なんで?間違えやすいだけだと思うが。 

なんかそれっぽい形になってる!


全部貼り終わったら重石のかわりの水を乗せて24時間静置した。2台同時に作るスペースがないので一日目に一台作って、翌日にもう一台作った。


これで足りなきゃさらに乗せるところだが、とりあえず大丈夫そう


 
次はハンダ付けである。スピーカーユニットとターミナルを結ぶケーブルをそれぞれハンダでくっつけた。内部配線がホーンの一部を通過するのでケーブルは細いほうが都合がよい。あまり太いと空気の流れが阻害されてしまうからである。ほかのひとはどうやってこの配線を処理しているのかとても気になった。上級者の話を伺ってみたいものである。
 
ユニットやターミナルは事前に下穴を開けているのでネジの締め込みは容易だった。ただしラワン合板自体が柔いため、ユニットのつけ外しはもうできないだろう。
 
さあこれで完成である。今回は外装にまったく手を加えなかった。塗装したり面取りしたりと工作を施しても音が酷かったり、そもそも音が鳴らなかったりしたらその苦労が水の泡になるからである。
 
メインスピーカーであるクリプシュR-51M(そういえばこれもホーンだった。ぼくはホーンスピーカーがどうやら好きらしい)からケーブルを引き抜いて自作スピーカーに挿す。ぼくはケーブル端子をバナナプラグにしているので抜き差しは簡単である。ハンダ付けさえ気にならなければスピーカーの接続端子はバナナプラグがおすすめだ。

 

横幅が狭いが背が高いのでそれなりにでかい。


試聴


 
かなりドキドキする。本当に音が鳴るのだろうか。いきなり爆発したりしないだろうか。火がついたりしないだろうか。この緊張感は、初めて自分で組んだロードバイク用のホイールに乗ったときと通じるものがある。乗った瞬間崩れないだろうかとハラハラしながら乗ったものである。
 
まずパワーアンプの電源を入れる。大丈夫なにも起きない。続いてプリアンプの電源を入れる。……何も起きない。大丈夫。CDプレーヤーの電源を入れてディスクを挿入する。再生する前にボリュームは絞っておく。
 
音楽が始まったのを見て、少しずつボリュームをあげていく。おおっ。音が出てる!どんどんボリュームを上げていく。おおおっ!ちゃんと鳴っている!感動である。手作りのスピーカーがまともに音楽を奏でている!え!なにこれ!結構いい音なんじゃない!?
 
というわけで初めてのバックロードホーンスピーカー作りは大成功である。
しばらく鳴らしているうちにエンクロージャーが馴染むというか落ち着くというか音が変わるらしいのできちんとした評価はもう少しあとにしたいと思うが、作りたての現状でも10センチのフルレンジでこんな音がでるのかという驚きは感じられる。ユニットが大きくなればもっと余裕のある音がでるのは間違いないと思うが、10センチ一発でさえエンクロージャーはすでにちょっとしたトールボーイスピーカーくらいのサイズである。バスレフならダブルウーファーにトゥイーターという構成が可能な大きさだ。バックロードホーンが流行らないわけである。
 
響きは強めである。この響きを嫌って吸音材を入れたりするらしいが、ぼくはこの響きもまたこのスピーカーの魅力ではないかと考える。聴く音楽を選ぶが、ハマると非常に美しい音色を奏でるに相違ない。
 
さて、出来上がったばかりであるが今後の展開はもう考えてある。それはトゥイーターを加えて2Way化するのである。実際に作るのは先になるが、今からネットワークの作り方を勉強したいと思う。ネットにはネットワークの理屈を説明するサイトは山ほどあるが、実際に制作しているのを紹介するサイトは実に少ない。ぼくが知りたいのは基盤をどうするかとか、配線をどうするかといった実際的なことなのだ。そこで今いろいろとリサーチしているのである。この調べるところからスピーカー作りは始まっていて、それが楽しいのだ。

フルレンジなんてと思っていたが。

追記

完成して何週間か経過した。ほぼ毎日音楽を流していたら音が落ち着いたように感じる。具体的に言えば最初響きすぎていると感じた音が、今ではわりとデッドに近づいたような気がするのである。これは、自分の耳が慣れてしまったせいなのか、本当にスピーカーの音が変わったからなのかぼくには判別できない。

できないのだけど、聴いているぼくがよいと感じるようになったので良しとしたい。もっとも響きが完全に消えたわけではなくて、我が家にある他のメーカー製スピーカーに比べるとずっと響きは強い。ただし、お風呂で歌っているような響きはもう感じられなくって、音楽を聴くうえでは心地よい響きとなっている。もしかするとそれは切れが悪いという表現につながるのかもしれないから、音楽のジャンルを選ぶスピーカーであると思う。

こんなにうまくできたのだったら外装も磨いて塗装すればよかったと今更に思うが、それは将来フォステクスがバックロードホーン専用ユニットで10センチ版を発売したときの楽しみにとっておきたい。というか16センチでは我が家では大きくなりすぎてしまうため、ぜひぜひ10センチユニットをお願いします。

追記の追記

制作してから数ヶ月経ってすっかり我が家のメインスピーカーの座に鎮座している。エージングが進んで強いと思っていた響きもほとんどなくなった。これは本当に驚いたし、スピーカー制作の面白さだと思う。ホーンロード内に良い感じでホコリが堆積してそれが吸音材のかわりになっているのだろうか?誠に不思議だが、音はかなりデッドになっている。ジャンルを選ぶと感じていたが、今はまったくそんなことはない。当初は2Way化を目論んでいたがこのままでもよい気がしてきた。

それよりもホーンの設計を変えたらどんな音になるのかとか、もっと高能率のユニットだとどんな音になるのかとかそんなことを考えてしまう。いやいやもうこれ以上バカでかいスピーカーを置く場所は我が家にはない。しかしもしフォステクスが90dB以上の高能率ユニットをしかも10センチか12センチくらいで発売することがあったら心が動いてしまうだろう……。オーディオは沼だが自作スピーカーもやっぱり沼だな。

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