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「ただいま」を口にしてしまったら
手にしていたものがたちまち消えてしまう
そんな気がして遠ざけていた
駆け寄らなくてもそばにいたのに
ずっと背中合わせで寄り添って

初めて向い合わせで頂く食事がこんなに美味しいとは思わずに
並んで同じ方を見ていた時にはわからなかった
私たちは出会って良かったのだろうか?
私は君の何を知っていたのだろう?
静かな夜を欲しがっていた
いつも誰もがそうするように
当たり前の存在になりたかった
そう、ポトフが冷めないうちに

君の降らす雨が明日はどんな花を咲かせるのか?
空を見つけられなかったシャボン玉が窓の外
小さな音をたてる
一瞬君の眼がとても優しかった

私たちは逃げ出せない塔に暮らしている
その王冠に逆らわないものだけを周りに集めて
答えを知ってしまう前に愛し合えたとしても
何も後に残せないことも知っている

君の話し方や食べ方、姿勢や美しさに眼も眩む
言葉を介さずに教えてくれたのは
勇気には形がなく誰の目にも映らないこと
ひとりで戦うと決めたのは
最初から破れ去ることが決まっていたから

蒔いた種が一斉に産声を上げる
そう、ポトフが冷めないうちに


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読んでいただきありがとうございます。この「パンデミック」シリーズもそろそろ区切りをつけなければと考えて、本当に馬鹿なんですが、最後に「コロナ」そのものを題材にしてみました。「コロナ」とはギリシア語で「王冠」という意味で、コロナウィルスの形状にちなんで名前が付けられたそうです。

世界中を混乱に陥れた今回の新型コロナウィルスに関しては、私は世間一般とはちょっと違う感じ方を持ってまして、それを何とか形に出来ないかと思っていたのでした。誰のどんな意見、考えを見ても、本当にそれでいいのかという疑念が拭えず、かといって私自身のはっきりとした考えがあるわけでもなく、ただぼんやりとした拒絶だけが漂ってるような感じで、それでも私なりに感じた事を答えでなくても発信しようと、詩という形を借りて、最大に薄めてぼやかして書いたのが今回の一連のシリーズなのでした。おそらく直接的に表現してしまえば、炎上どころか社会的に抹殺されてしまいかねないような側面もありまして。別にそれで誰かを救おうとか、人類に希望を持たせようなどという目的は全くありません。ただ、誰も見ようとしなかった裏の側面が何処かに隠れているような気がして、それが何になるというわけではありませんが、こんなのが落ちてたよ、と見せるぐらいのことはしたいなあと思いまして。

はっきり言えるのは、今回のこの災いがなかったら、どれもおそらく生まれる事はなかったであろう作品の数々です。思い切り遊ばせて頂きました。私の詩を嗜む者としてのスタンスを最もはっきりと確認出来た瞬間でした。全てが収まった後にたぶん私だけがこっそり「ありがとう」と呟くかもしれません。最後に、今回被害に会われた方には心からのお悔やみを申し上げます。

読んでいただき、ありがとうございます。 ほとんどの詩の舞台は私が住んでる町、安曇野です。 普段作ってるお菓子と同じく、小さな気持ちを大切にしながら、ちょっとだけ美味しい気持ちになれる、そんな詩が書けたらなと思っています。