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息を吹きかける音で無名の塔を建ち上げる

作りかけて止めた処世術の前で

痩せっぽちなあの男

いつも帽子を手離さなかった

銀行を襲うことも考えたけれど

夕陽に先に魅せられた


貧しい子供らのやがて手にするものがわかったから

褪せたグラビアに葉巻を押し付ける

幾つもの穴が数え切れない

そして毎日がその子らのためにあるようにと

神を憐れむトリガーの位置を確かめる


盗んだ林檎は腹の足しにした

市長が変わっても世界は変わりはしない

セスナの翼が案山子の頭を掠めたら

待ちくたびれた禿鷲の羽毛が一斉に逆立つ


生きることは即ちお辞儀を繰り返すこと

自分が王ではないと知らされた者たちが

砂漠の真ん中で列車を降りる

散り散りになって彼らは何処へ向かうのか


今日は誰を救おうか見ている空

穀物畑の中央に錆びた銃が横たわる

案山子にも血糊は必要だったろうか

余りにもたくさんの風を吹かせ過ぎた

穴の数を決して間違えてはいけない

助かる道はそれ以外にないのだから


応接間に続く吹き抜けの螺旋階段

ダイヤル9の指が滑り

受話器がひとりでに喋り始める

 「もう一人の私

  今何処にいて何をしているの?

  教えて欲しいことは山ほどあるのに」


彼女を踊り場から見下ろして

男はまだ林檎を齧っている


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お読みいただきありがとうございます。MY DEARでお世話になっている詩人、斎藤純二様の主催されている詩誌「最強の詩人」に寄稿させていただいたものです。クライドとはボニーの相方である例のあの「クライド」です。映画「俺たちに明日はない」のラストシーンでクライドが林檎を齧っていたのが印象に残ってて、それでこんな詩を。。。

読んでいただき、ありがとうございます。 ほとんどの詩の舞台は私が住んでる町、安曇野です。 普段作ってるお菓子と同じく、小さな気持ちを大切にしながら、ちょっとだけ美味しい気持ちになれる、そんな詩が書けたらなと思っています。