きつねの木の葉便り 総集編

木の葉は赤や黄色に染まって、辺りには金木犀の甘い匂い。すっかり秋めいてきちまったなあ。
今年もラーメン屋は店じまい。そろそろ、おでんの準備を始めるとしよう。

秋ってのは、人を感傷的にさせる。やれ、男と上手くいかねえでめそめそしてるお嬢さん。やれ、会社で上司がうるさい、部下は口答えする、と、ぶちぶち愚痴るおっちゃん。今日なんか、若い女の子が携帯でもって友だち長電話でぐずぐずと。折角のラーメンが伸びちまうってんだよ、全く!

この季節は、みんな、湿っぽくっていけねえ。人の悩みを聞くのが、俺の使命!ってとこもあるんだが、こう毎日湿気ってんじゃあ、気が滅入っちまう。

..............気晴らしに、今日の店終わりには、狸のおやっさんとこ行って、焼き鳥で1杯やるとするか。


by 狐の大将



こないだ、うちの長屋の隣のチビちゃんが、七つになったそうだ。なんでも、酒が好きなお父ちゃんの血を引いてるのか、好きな食べ物はというと、たこ刺し、なんだそうな。

そういや、狸のおやっさんの店でお客が、おでんの具はタコが美味しい、と言っていたな。そこで、ピンッと閃いた。うちもタコ、始めるか!
よぉし、そうと決まりゃ、魚市場のおっちゃんにいい品をとってもらうよう、明日にでも相談持ちかけねえとな。

善は急げ。昔の人は上手くいったもんだ。


by 狐の大将

雪やこんこん、また降ってきたなあ。こりゃ車を動かさねえと、屋台ごと雪に埋もれちまう。


……おっと、危ねぇ!誰か、道に立ってら!おーい、お前さん。道を空けてくんねえか?
…………おーい、おーいったら。なんだ?聞こえねぇのか? ……て、よく見たら、雪だるまか。そりゃ、耳なんざねえよなあ……

頭にバケツ、首には手拭い、木の棒の腕の先には軍手を付け、こんな道ばたにしゃんと前見て立ってござる。寒いのに、ご苦労さんなこった。まあ、お前さんの体は「雪」で出来てるけどな。きっと、雪に浮かれたここいらの子どもに巻かれて乗っけられて創られたんだろう。

まあ、ここで会ったも何かの縁だ。路上を生業としている仲間同士、仲良く一杯やろうぜ。俺は、道にしゃがんで熱燗を1本、雪だるまの旦那には、人参1本取り出し、それを顔の真ん中に付けて鼻にした。

雪だるまの旦那は酒なんか飲んでねえ。飲んでねえはずだが……
熱燗をちびちびやって、こうして二人並んでいると、旦那に付いた人参の紅さが、酔って鼻が赤くなった様に見えてならねえぜ。

おっ。雪が小ぶりになってきた。よし、そろそろ、家に向かおう。じゃあな。雪だるまの旦那よう。この道は、お前さんに譲るぜ。春が来るまで、お互い、達者でな。


by 狐の大将。或る雪の日の出来事。

旦那、悪いね。今日はもう上がりなんだ。
なぁに、今日は狸のおやっさんと二人で、鹿の女将んとこで一杯やる約束があるのさ。

そういやぁ、この間、女将のとこに行った時には、はぁい、大将。サービスよ。と、ふきのとうの天麩羅が出てきたんだ。もう、そんな時期なんだなぁ。道理でお日さんが長くなった訳だ。

ふきのとうの天麩羅と来たら、俺は気取らずに生中をぐびぐびと呑むんだ。天麩羅には抹茶塩に、2回、ちょんちょんっと付けて、がぶっと半分。そうさ、あの苦味が美味いだろ?半分でもって、口の中で苦味を広げてから、生をグイッと呑むんだ。美味いぞ、これが。


そうしたら、俺をそばで見てた女将がよ、「やだぁ、それ、狸ちゃんと同じじゃない。二人共、そうやって呑むのが好きなのねぇ。」だってさ。あの親父と一緒ってのが、複雑だよ。いや、おやっさんは嫌いじゃあねえし、いいけどよ。女将に言われちゃあ……何だかな。


・・・なんでぇ、旦那。ジト目で俺のこと見やがって。旦那も、女将のとこ、行きてぇってのか?? おう!いいぜ!狸のおやっさんは堅てえお人じゃねえから、俺からなんとでも言うさ!何より、春の宴は人が多ければ多いほど、粋ってもんよ!さあ、そうと決まれば、身支度だ。急ぐぜ、旦那!


by 狐の大将。常連客との一コマ。

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