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【人生の30冊①】『騎士団長殺し』村上春樹

「好きな本は7回読め」と言ったのは誰だったろうか。

この回数は人によって変わりそうな気もするけれど、私の感覚として「7回」は結構しっくりきている。いい本なら、7回目までは新たな発見がある気がする。それで、8回目からは「自分に言い聞かせる」みたいに切り替わるのかな。

好きな本は7回読もうと思っていて、でも、7回しっかりインプットするには質の良いアウトプットも必要になってくると思っていて、それには気に入ったところを書き写すだけじゃ足りない気がしている。ということで、(質の良い)アウトプットをする企画として【人生の30冊】を、四半世紀生きた今の時点でまとめてみます。これから気が向いたときに、ゆるーーく書いていきます。


記念すべき一冊目は、やっぱりどうしても、村上春樹です!

「好きな作家は?」と聞かれたら、ひとまず「村上春樹」と答える。「村上春樹のどの本が好き?」と聞かれたら、ちょっと迷ってから、毎回バラバラの答えを言う。

『ハードボイルド・ワンダーランド』『海辺のカフカ』『羊をめぐる冒険』『1Q84』『騎士団長殺し』『色彩を持たない多崎つくると彼の巡礼の年』……

ここで挙げた6つはかなり好きな方だけど、でも「一番好きな本」は決められないし、タイミングで答えは変わっていく。

今回【人生の30冊】を選出することに決めてから、とりあえず本棚に並ぶ本を目で追った。そして困った。「うーーーん、村上春樹がランキングに入ってくるとなると、30冊分の10冊は確実にハルキで埋まるぞ…。」

それだと面白くないよな。それに、ハルキの小説は、体を通っていく風みたいなものであって、「体験」であって、あらすじとか感想はほとんど意味を持たない。理屈で素晴らしさを表現できるタイプの小説ではない。

それならいっそ、村上春樹は殿堂入りということにして、ここでは「村上春樹と私の歩み♡」を書くことにしよう。便宜上、どハマりするきっかけとなった『騎士団長殺し』を選出しよう。そう決めました。

それではここから「村上春樹と私の歩み♡」スタートです。


さかのぼること6年前。

2017年2月の終わり頃。私は当時高校3年生で、大学の二次試験が終わったばかりだった。

その日わたしは、高校の近くにある、カフェが併設された本屋さんに来ていた。

その併設されたカフェでよく勉強をしていたものだから、平積みにされた本がいつも目に入ってきた。12月あたりからは勉強も忙しくなって、全然本を読めていなかった。受験勉強から解放されて、久しぶりに本を物色しに来ていたのである。

本屋さんに入ってすぐ、一番目立つところに、緑色と赤色の帯がしてあるハードカバーが平積みにされていた。

「村上春樹、◯年ぶりの長編小説!」

そんなことが書かれたポスターが貼ってあった。

「ふーむ『騎士団長殺し』ってなんだろ」よく分からないけど、別にビビッというわけでもなかったけれど、その場で上巻を手に取ってすぐにレジに向かった。

家に帰ってすぐ、お母さんに話しかけた。

「ねえねえ、今日、なんの本買ってきたと思う?」

「なになに〜?教えて〜」とノリの良いお母さんに向かって、自慢げに本を出す。

「見て、これ。村上春樹の新刊だって。」

お母さんはちょっとびっくりした顔をして「村上春樹好きだっけ?前読んで、わけ分かんないって言ってなかったっけ。」と言った。

「うわ、よく覚えてんね。」

たしかに以前『ノルウェーの森』を読んだとき「よく分からない」と思った。なんというか、面白いとかつまらないとか、何の感想も出てこなかった。たしか、高校1年生のときだったかな。

「まあいいや、本屋さんで見て気になってたから、ママにも貸してね。」「おっけー。」

それでたしか、その日の23時ごろに読み始めた。

最初はゆっくり文字を追っていたのに、いつの間にか目が文字を追うスピードが追いつかなくなっていく。「もっと読みたい続きが読みたい」。感情が全部乗っ取られるというか、わたし自身が無になるというか、体が本の中に吸い込まれるんじゃないかと錯覚した。

時計を見るたびに、1時間とか2時間があっという間に過ぎていく。時間が進んでいるかとか、時計の針が進むとか、分からなくなっていた。いつの間にか、午前5時になろうとしていた。

こういうの「夢中」って言うのかな、まさしく夢の中の気分だった。

急いで下巻も買ってきて、同時進行でお母さんも読み始めて「やばいねやばいね、止まらないよね」とか言いながら、一気に読んだ。

衝撃の読書体験だった。

知らない。こんなに面白い作家、知らない。

そこから、カラッカラに乾いたスポンジが水を吸い込むように、村上春樹をむさぼるように読んでいった。たしか、次に読んだのは『海辺のカフカ』で、その後に『1Q84』を読んだのだっけな。

長編も中編も短編もエッセイも翻訳も、村上春樹が書いた文章を、とにかく読みたかった。

ちょっと落ち着いたかと思うと、また狂ったように読んで、を繰り返した。

自分に対して「なんか偏ってきたな」とか「なんか最近薄っぺらいな」と思ったら、村上春樹の小説をひらく。そうすると、風通しがよくなるというか、世の中に対するドロドロした気持ちとか、差別とか偏見とか、「こうやって生きなきゃいけない」とか、そういうのがスッと消えて行く。

村上春樹はずっと特別で、どうしても最強なのです。

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