オペラの記録:ミュンヘン、ゲルトナープラッツ劇場、モーツァルト作曲《ドン・ジョヴァンニ》(6月4日)

6月4日、ミュンヘンのゲルトナープラッツ劇場でモーツァルト作曲《ドン・ジョヴァンニ》を観ました。

ゲルトナープラッツ劇場。

劇場入り口から外を見たところ。

オーケストラ・ピット。

プログラム。


カーテンコール。まず、歌手とコーラス。

指揮者の同オペラ音楽総監督のアントニー・ブラマル登場。


以下はプログラムに掲載されたステージ写真。

第一幕冒頭、ドンナ・アンナとドン・ジョヴァンニです。左後ろにレポレロがいます。
ドンナ・アンナは被害者ではありません。
ドン・ジョヴァンニに対し、性的にとても積極的です。

この解釈と演出はとても興味深い。
「誘惑者」=「被誘惑者」。

彼女が復讐を誓う理由は父親が殺されたことではなく、ドン・ジョヴァンニが他の多くの女性とも関係していることを知るからです。彼女の嫉妬と復讐心はライバルに向かうのではなく、ドン・ジョヴァンニに向けられます。そして復讐には自分が手を下すのではなく、やはり『男』である婚約者、オッターヴィオを使うのです。

ドンナ・エルヴィラとドン・ジョヴァンニ。
登場する3人の女性の中で、エルヴィラのジョヴァンニに対する燃えるような愛は衣裳に、そして格別な愛の深さがこのショットでも表われています。
そしてドン・ジョヴァンニはだからこそ、そんなドンナ・エルヴィラを受け入れることはできない。
ドン・ジョヴァンニは愛も神も信じていない。ニヒリズムの代弁者です。

どこかオネーギン → オブローモフの系譜を思わせます。


ツェルリーナとドン・ジョヴァンニ。
このシーンの前、Polterabend(婚礼前夜の大騒ぎ)で、たくさんの赤い食器が割られます。
このシーン、ドン・ジョヴァンニがツェルリーナを「家に行こう」と誘惑しますが、ここでは赤い食器がバラの花びらに変貌しています。
純白の花嫁衣裳を着たツェルリーナはドン・ジョヴァンニを愛しているわけではなく、誘惑される喜びでいっぱいです。それをバラの花びらで表現しています。そんなツェルリーナを冷ややかに見つめるドン・ジョヴァンニ。
この後、ドンナ・エルヴィラが花びらの中から花びらを蹴散らして現れます。

第一幕最後のシーン。
左にはマゼットと抱き合うツェルリーナ。
中央はピストルを手にするドン・ジョヴァンニ。
その左、ネクタイとシャツ、スカートとブーツのドン・オッターヴィオ。
右側、上半身裸の女性の右にエルヴィラ、その右にドンナ・アンナ。

この衣裳でも暗示されていますが、『ジェンダー問題』が提示されます。

地獄落ちの前。騎士長は姿をあらわさず、声だけが響きます。
騎士長の墓にかけられたキリスト像を外し持つドン・ジョヴァンニ。

この後、ドン・ジョヴァンニはピストル自殺を遂げます。
神の懲罰ではなく自分で死を選ぶ、神を恐れず自分で決める、というのが『通常の』演出とは違うところです。

ステージ美術は回り舞台を利用、転換もうまく、管弦楽はキレのいいピリオド奏法、とても良い公演でした。

FOTO:©️Kishi

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