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フィンランドサウナの愉悦

※以下の情報は全て2017年1月体験時のものです。
フィンランドといえば、ムーミンとサウナ。2大名物といってもよいだろう。

私自身はもともとそんなにサウナに思い入れがある方ではない。嫌い、ということもないが、大好き!と公言するほどでもない。
それでも、韓国に行けば必ず汗蒸幕(ハンジュンマク:麻の布をかぶって温度の高い土や石でできたドームに入る韓国式伝統サウナ)には行くし、トルコに行けばハマム(トルコ式蒸し風呂の公衆浴場)に行く。なので、当然、フィンランドでもサウナに行く気満々だった。

旅に出る前に予習をする派なので、サウナについて調べてみたところ、最近のサウナブームを牽引しているこの本に出会った。

「マンガ サ道~マンガで読むサウナ道~(1)」 (モーニングコミックス) (Kindle版)

この本によれば、サウナで温まり、水風呂や外気浴で冷やす、の温冷を交互に行うことで、「整ったーー!」という瞬間が訪れるのだそう。
なんとなく想像できるような、できないような。是非、私もフィンランドで整ってみたい!と思った。

私が目を付けていたサウナは、ヘルシンキに最近できたオシャレなサウナ、「LOYLY(ロウリュ)」。

ここは海沿いにある昨年オープンしたばかりの、若者に人気の新しい公衆サウナで、サウナで温まった後には海に入ることができる。私がフィンランドに行ったのは2017年1月。ヘルシンキは−15度…。海に入れるかどうか自信はなかったが、ともかく、チャレンジしてみたい気持ちはあった。

ヘルシンキでの観光は丸一日あり、友人に紹介されたフィンランド人のアレクシさんにガイドをお願いしていた。
観光を一通りすませたところで、夕方、いよいよサウナ!となり、念のため、行く前に混雑具合を確認しようと予約の電話をしてもらったところ、LOYLYは大混雑で夜遅くならないと空きがない、と断られてしまった。痛恨。
たまたまその日、ヘルシンキは翌日が休日で、しかもかなり冷え込んだので、皆がこのサウナに殺到したらしい。このサウナは予約可能だそうなので、次に機会があれば是非予約して行かねば、と心に誓う。

そこで、アレクシさんと相談し、ヘルシンキ最古の公衆サウナ、コティハルサウナへ向かうことに。
途中、アレクシさんがスーパーでビールを買っていこうと提案してくれた。これが正しいフィンランドサウナの楽しみ方だそうだ。

そもそも、フィンランドにおけるサウナとは、日本人におけるお風呂のようなもので、基本的に一家にひとつ、あるいは各アパートにひとつあるようなものなのだそう。それゆえ、昔はたくさんあった公衆サウナは徐々に姿を消してしまった。ところが、最近また、友人たちとの社交の場としての公衆サウナが見直され、増えつつあるのだそう。

フィンランド人にとってサウナは欠かすことのできないもので、アレクシさんによれば、毎日とはいわないまでも、必ず週に1〜2回は入るものだとか。
たしかに、フィンランドの寒さは厳しいので、サウナでしっかり身体の芯まで温まりたいのはよくわかる。(夏はどうなのだろう?)

また、フィンランドには「サウナ外交」もある。フィンランドは小国で、大国ロシアとの厳しい交渉の際には、サウナで話し合いを行ったこともあるのだそう。サウナという小さな親密な場所で、お互い自らの背負う装飾的なものを取り去って裸同士で話せるので、それぞれが同じ人間として、対等に話しやすいのだそう。小国フィンランドならではの知恵ある外交手段だ。政治のみならず、ビジネスでも、サウナで商談…ということもあるのだそう。

こんなサウナ話や、サウナのマナーや手順などを聞きながら、いよいよコティハルサウナへ。

早速、サウナの入り口(つまり外)で涼んでる男たちがいる!この日は−15度を下回っていたように思う。しかも、ヘルシンキは風が強く、湿気を含んだ空気が、より寒さを体感させる。皆、バスタオル一丁である。ちょっとした我慢大会の様相。さすがに長居はしていないようだ。

赤いネオンがちょっとイカガワシさも感じさせるけれども(実際はまったくイカガワシイことは何もない)、アレクシさんが一緒なので安心。…もちろんサウナは男女別。
狭い入口の番台のような窓口で入場料(入湯料?)を払って、タオルを借りる。男性は1階、女性は2階。ここでアレクシさんと分かれる。
1階は大混雑だったけど、2階は私が行った時は私一人の貸切状態。なので、写真撮影ができてラッキーだった。

階段を上がり、ドアを開けるとまずはロッカーのある更衣室があり、ここにはクールダウンするための寛げるスペースがある。スペースといっても、机と椅子が適当に置いてあり、無造作に雑誌などが置いてあったりもする。ロッカーは木製で古いけれども、鍵がかかる。
シャワーを浴びて身体を洗うための洗い場と、サウナが別々にある。
まずはシャワー。特に変わったところはない。シャワーからサウナ室はドアでつながっており、直接行き来できる。



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実は、フィンランドサウナで楽しみにしていたことのひとつは、白樺の木の枝を束ねたもの、ヴィヒタで身体をバシバシ叩くこと。叩くことで血行を促し、白樺の良い香りで癒されるのだ。…ところが、このヴィヒタ。基本的には春夏のものなのだそう。たしかに冬には木は枯れている…。なので、冬は冷凍したものを使うのだそう。
ここ、コティハルサウナでも冷凍のヴィヒタが売っていたのだが、番台があまりに混んでいて慌てていたので買い損ねた…。これも心残りのひとつ。
もしうまく冷凍ヴィヒタを買えていたなら、まずはこのシャワー室に置いてあるバケツにお湯を溜めて、ヴィヒタを浸けて解凍するのだそうだ。

サウナはもちろん、薪ストーブ!ずっと昔からあるのだろう。年季がはいっている。室内は思ったよりも広い。そして、薄暗い。貸切状態なので、どこにどう座ってもよいのだが、なんとなく端っこを選んでしまう性…。
コンクリートの階段ベンチのようになっている。まだオープンしたてなのか、人がいないせいなのか、そんなに熱さを感じない。バスタオルを敷いて寝転んでみる。徐々にジワジワと汗が沁み出してくる。

しばらくすると、地元の人、観光客など、いろいろな人がやってきて、あっという間に一杯になった。
そのうちに、一人のおばさん(地元の人っぽい)が、薪ストーブで熱された石に水をかけて蒸気を出した。こうして温度が上がるのだ。

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サウナで温まると更衣室に出る。本当は外に出てみたかったが、女性用は2階で、さすがに外に裸足では出られず、かといって、靴は雪道仕様のブーツなので履くのも面倒。そこで、更衣室の窓を開けて外気を入れてみた。一瞬で肌を刺すような冷たい空気が流れ込んできて、あっという間に冷えた…。慌てて窓を閉める。

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スーパーで購入してきたビールを飲みながら椅子に座ってぼんやりする。次々と人が入って来て、ロッカールームも徐々に賑やかになってきた。
(注:お酒を飲みながらのサウナは、その人の体質や量によっては危険なので自己責任でご注意ください。私はもともと滅法酒に強いのと、350mlの缶ビールを8分目くらいまで飲み、セーブした。)

一段落して、またサウナで温まる。これを何度も何度も繰り返すと「整う」のだと思うのだが、今回は、アレクシさんと待ち合わせの時間が決めてあり、あまり時間もなかったので、2回ほど温/冷を繰り返し、今回の公衆サウナ体験は終了。

初のフィンランド公衆サウナ体験は、とても心地良かった。終始、なんとなく懐かしい気がしたのは、日本の銭湯に近い感覚だったから。来ている人たちもカジュアルに寛いでいて、フィンランドのサウナ文化の片鱗に触れることができて楽しかった。次はヴィヒタをちゃんと購入して、外に出る用にビーサンを持参し、もっとゆっくりと時間をかけて、「整う」までサウナを満喫したい。

実はこの時のフィンランド滞在で私が訪れたサウナは、このコティハルサウナを含め2カ所あった。
もう一カ所はオーロラを見るために訪れていた北極圏、ラップランドのレヴィというスキーリゾートにあるホテルのサウナ。

このサウナはそう大きくはないが、私が入った時間は人がほぼいなくて静かに寛げた。サウナには細長い窓がついていて、外にはスキーゲレンデが見えた。寒そうな(実際、寒い。おそらく−20度程度)外で、雪にまみれてスキーに興じる人々を見ながら、熱いサウナでボーっとしながら汗を流す。
こちらはコティハルよりも小綺麗で小規模で、たぶん、現代のフィンランド人が日常的に利用しているサウナに近かったのではないかと思う。

実際に自分がフィンランドを旅して、その寒さを体感した。その後での身体中の隅々にまで染み渡るようなサウナの温かさを実感して、フィンランド人のサウナ愛がよく理解できた。
芯まで冷えた身体はシャワーでは温まらない。ロシアもサウナ文化があるけれども、これまで私が訪れた他の北欧諸国、ノルウェーやアイスランドなどではあまり見かけなかった。彼等はどうやって温まるのだろう…?
そして、親密なコミュニケーションの場としての機能があるのもよくわかる。人々は決してサウナの中で騒いだりしない。基本的にはただ静かにサウナの熱に身を任せている。それでも、なんとなくそこにいる者同士、密やかなコミュニケーションが成り立っているような温かい気持ちになるのだ。まさにこれが裸の付き合い。こうした点も日本の銭湯や温泉と共通点があるような気がする。

さて、しかしながら、本当のサウナの愉悦を実感したのは、実はサウナを出た後かもしれない。

サウナ後にアレクシさんが連れて行ってくれたフィンランドの伝統料理が食べられるレストランで、彼に勧められた食前酒。カクテルの賞を受賞したこともあるという、フィンランド産のNapueというジンと、トニックウォーター、ローズマリーとクランベリーのカクテルだったのだが、これをひと口飲んた時、いつもよりもずっと身体の隅々の細胞にまで酒の旨さが染み渡り、フィンランドの森を身体に取り込んだような、鮮烈な印象を持った。
これはきっとサウナの効能に違いない。

<了>

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