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砂漠でメロン

ジュワッと口いっぱいに広がる瑞々しく甘い果汁と、柔らかく甘い果肉。甘さが脳天を突き抜け、砂漠で乾いた身体の隅々まで行き渡る気がした。
今、振り返ってみても、私が人生で食べた美味しいものベスト5に確実に入る。

地獄の業火にも見立てられるトルクメニスタンのカラクルム砂漠の真ん中にあるタルヴァザ、通称「地獄の門」。

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ロシア統治時代、天然ガスを掘り出したものの、有毒だったので、とりあえず点火した(雑すぎる…)。天然ガスが湧き出し続けて、早数十年、ずっと燃え続けている。ところが、そろそろ枯渇するのでは?という話もあり、思い立って2017年8月に見に行った。(2021年現在、まだ燃えているらしい…)

そもそもトルクメニスタンは観光客を制限しており、国境の行き来だけで大変なのだ。

(余談:ウズベキスタンから一人で徒歩で国境を越えたが、私以外に数人の欧米人しか居なかったのにも関わらず、入国するのになんと4時間近くもかかった…。閑散とした入国審査窓口で、なんで女一人で旅してるのか、とか、そんな年齢まで結婚してないのはなんでか、とか入国審査と関係なく個人の興味で根掘り葉掘り聞かれるwそして、税関での荷物検査も、係員がわらわらと集まってきて荷物の中身を一つずつまじまじと眺めあれこれ会話している…という非常に興味深い体験でした…)

そして、観光で最初に訪れたクルム・ウルゲンチ遺跡から、信じられない悪路を4WDで5時間かけて走破し、ようやく到着するという、ネガティヴファクターは多々あれども、それらを凌駕する素晴らしさでした、「地獄の門」。
この穴からなんと歩いて1〜2分のところに旅行会社が設置したユルタ(モンゴルのゲルと同じ骨組みだが、フェルトではなく、風通しの良さそうな布で覆われている)にキャンプというプランだった。砂漠の真ん中のただの穴なので、周囲にホテルも民家もないのである。蛇足ながら、ユルタの他、ちゃんと簡易トイレも設置されており、快適なキャンプだった。

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夕飯はドライバーのおじさんが調理人を兼ねており、ユルタの側で砂漠BBQ。
道中、私が酒を飲むということを知ってガイドのマイサさんがトルクメニスタンのビールや、今が最旬で美味しいというメロンを購入してくれた。
日本で見かけるお上品なマスクメロンと親戚とも思えない、薄茶色の乾いた瓜のような地味な見た目のメロン。しかもかなりデカくて細長い。

料理も担当するドライバーのおじさんがサクサクとナイフで切り分けて、一切れをホイと渡してくれた。
たいして何も思わずに口に運んだが、一口かぶりついてすぐに、その甘さと瑞々しさに衝撃を受けた!なんでこんなに美味しいの???メロンの味ではあるけれども、これまで知っていたメロンとは段違いの旨味と汁気!今、こうして思い出しているだけでも、口内にその時の記憶が甦る…。なんというか、身体の隅々まで、甘いジュースが染み渡るような快感。そのあまりに鮮烈な美味しさに、美味しい!美味しい!美味しい!とあまりに感激して食べる私を、ガイドのマイサさんもドライバーさんも笑いながら見ている。
タルヴァザへ来る道中、今が最旬で美味しいから、とマイサさんがメロンを購入してくれた時は「へー、そうなんだー」くらいの気持ちだったけど、もう本当にこれを食べさせてくれてありがとう!!と大声で叫びたい気持ちだった(実際、そう叫んだかもしれない)。
あまりに大きかったので、甘いとしても大味なのだろうと勝手に想像していた自分の不見識を思い知った。このメロンの甘さは、えもいわれぬ繊細さがあり、極上のデザートだった。

惜しむらくは、美味しかったことに気を取られて、ちゃんと美味しそうな写真を撮らなかったこと…。もっとちゃんとピントが合って、きれいにシズル感のある写真を撮影しておけばよかった…。

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夕食後に再度、地獄の門を近くまで見に行った。暗くなってからの方が、暗闇に炎が際立ち、まさに地獄な雰囲気になるからだ。
砂漠の中で、穴の周りの熱風はひと際熱かったけど、ガス臭さは案外気にならない(まあ、そのために火をつけたわけだけど)。日中や朝見てもすごいのだが、やはり圧巻は夜!まさに地獄の業火、モルドールの入口…というか、今にもオークが湧いて出てきそうな雰囲気で、しばし放心してしまう。

あまりの迫力に放心しながら戻ると、ガイドのマイサさんは寝てしまった後で、ドライバーのおじさんが、トルクメニスタンのコニャックを振る舞ってくれた。これがメロンにとても合うのだと言う。おじさんと静かに二人でメロン晩酌。(おじさんは、英語は簡単な単語をいくつか口にするだけなので、会話にはならなかったのが残念!)
コニャック自体も甘くて雑味もなく美味しかったが、やはりメロンとの相性が素晴らしかった。(ちなみに、トルクメニスタンのビールも美味しかった…)

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地獄の門の後は続けてウズベキスタン各地を旅したのだが、もちろんウズベキスタンでも見つけるたびにメロンを食べた。どれも本当に美味しかった。丸いのや細長いの、白っぽいのや黄色っぽいもの、スイカのような模様のもの、いろいろ種類はあるようだった。

もちろんメロンだけではなく、スイカもあるのだ。スイカも食べたのだけれども、メロンほどの感激はなかった。私の中では、スイカといえば東南アジアの生スイカジュースがベストなのである。(タネを取らなくていい…)

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あの乾いた砂漠で食べたから美味しかったのか、今ここ日本で食べても美味しいものなのか。それはなんとも言えないけれど、やはりもう一度あのメロンを食べてみたい。

<了>

#旅

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