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旅先ビンゴ


旅の行き先はどうやって決めているの?と聞かれて驚いた。
そんなこと、考えてもみなかった、というか、行きたいところに行っているだけだからだ。そんなことに疑問を持たれるなんて思いもしなかった。他の人はそうではないんだろうか?まぁ、私の行き先があんまり普通ではないからだろうが、それにしても、あまりにも何度もこの質問を受けるので、改めて、自分が旅の行き先をどのように決めているのか考えてみた。

簡単に言うと、ビンゴみたいなものなのだ。
行きたいところは無数にある。行ったことのないところはどこでも行ってみたいし、行ったことのあるところでも気に入っているところは再訪したい。ただ、旅をできる時間も予算も限りがある。なので、常に頭の中にいくつも候補地のビンゴカードがあり、日々の生活の中で、その国に行きたいと思う理由に思い当たった時に穴が開き、5つ並んで穴が開くと、「ビンゴ!」となって旅立つことになるのだ。それはじっくりと長い時を要することもあるし、タイミング良く、ごく短期間でビンゴすることもある。ポイントカードでポイントが溜まるという比喩も考えたけれども、自分的にはビンゴカードの穴が開いていくイメージがピタリとくる。いくつも穴が開いていても、「行く!」に至らないこともある。あくまでもイメージだけど。

たとえば、2015年8月にノルウェーを旅しようと思ったのはこんな具合。

1)大学生の頃、アートの授業のお手伝いをしていたことがある。担当の先生は非常勤講師で、美術館の館長などを務める美術評論家の方だった。当時まだそんなに海外経験のなかった私は、「先生がオススメする国はどこですか?」と聞いたところ、先生は少し考えて、「オスロ」と仰った。てっきり、パリやウィーンなど、「芸術の都」と称されるような場所が出てくるかと思っていたので、ひどく意外で驚いた。オスロ、と言われて当時思いつくのはムンクくらいだった。先生曰く、もちろんムンクは必見だが、街それ自体が美しく、煌びやかではないが、雰囲気があって良いのだ、ということだった。それまでまったく興味のなかったオスロという場所だったが、世界の美術館をたくさん見て来た先生が仰るのだから、いつか見てみたい。そう素直に思った。

2)フィヨルドを見てみたい。

3)北欧に行ったことがない。

4)当時、ホワイトホース(カナダ)やアラスカ(米国)を旅して、北極圏がマイブームだった。

5)もともと犬をはじめとする動物好きではあったが、イギリスのファンタジー作家、ミシェル・ペイヴァーの作品『オオカミ族の少年』(クロニクル千古の闇シリーズ全6巻)を読んで以来、とにかくオオカミに魅せられてしまった。ひたすらオオカミの本を読み漁り、動物園にも見に行った。そんな頃、随分昔に「世界ふしぎ発見」で、ノルウェーにある世界最北の動物園で、オオカミと触れ合うことができるというのを見たことを思い出した。改めてインターネットで調べて、実際に参加できそう、とわかった。

あるいは、2013年に訪れたアラスカの場合は、

1)星野道夫がマイブームだった。

2)野生動物(クマやオオカミ、ムース、カリブーなど)を見てみたい

3)星野道夫の友人が開設に携わったロッジ(キャンプ・デナリ)に泊まってみたい。

4)映画「イントゥ・ザ・ワイルド」に感動した。

5)2012年冬にオーロラを見にカナダのホワイトホース(アラスカのすぐ近く)に行った際、当地のガイドに、このあたりは夏の方がずっと美しく楽しいのに、なぜ日本人は冬にしか来ないのか?と言われたことが心に残っていた。

…と、こんな具合(別にいつも理由が5つというわけではない。上記2例はたまたま5つ)。
これに予算的な問題と、季節、休暇が取れそうな時期、当地の治安状況などを勘案して、実際の旅に至る。
ノルウェーの場合、最初に私の中に「ノルウェー」という選択肢が現れたのは1996年頃で、オオカミがマイブームとなったのは2014年後半頃だったので、かなりの期間がある。

そして、私の旅のきっかけの多くを占めるのは「世界ふしぎ発見」だ。言わずと知れた1984年放映開始のTBSの番組。私は番組開始当初からずっと見ている。最初に考古学や遺跡、歴史に興味を持ったのも、この番組で頻繁にエジプトが取り上げられていたことがきっかけのひとつだった。この番組で得た情報や知識はかなり私の中に蓄積しているように思う。
他にも、テレビのドキュメンタリーや旅番組、雑誌の特集(主にBRUTUS)、映画や小説、マンガなども私の旅の理由になることが多い。

そうしたいろいろな世界各地の情報が積み重なり、ある時、「時が満ちた!」と思う瞬間、まさに「ビンゴ!」な瞬間が訪れる。旅の理由がひとつでは、「旅立つ」ほどのモチベーションにならない。時には長い年月をかけて。時には勢いで。いずれにしろ、ビンゴした時点で、それは実現する。
なので、どうしてそこに行くのか?と問われても、ひと口に説明するのが難しいのである。相手がさほど旅に明るくない人の場合、おそらく理由はひとつ程度をあげれば十分。むしろ、いくつもくどくどしく述べると鬱陶しがられるだろう。なので、こちらも適当にひとつふたつをふにゃふにゃと答えることになる。しかし、本気で語り始めると、口角泡を飛ばす勢いで、あれこれ説明する羽目になる。それくらいのモチベーションで私は旅をしているのだ。

長年、行ってみたい国として挙げていながらも、なかなかビンゴにならず、実現に至らない国も多くある。チベット、ブータン、モロッコ、ボツワナ…など。これらは、ビンゴカードにたくさん穴があいているのに、なかなかビンゴにならない状況。
主に現実的な事情(予算、休暇日数)でなかなか実現しないのが、南極やパタゴニア、ガラパゴス島、アマゾン流域、ギアナ高地あたり。
もちろん、予算的な事情や治安の事情もあるが、やはり、なんとなく、その時にそこへ行くべきタイミングがあり、時は自然に満ちるのだ。きっと前に挙げた国々にも、いつか時が満ちれば、行くことになるだろう。そうでなければ、来世でのお楽しみにとっておくことになるのかもしれない。

若い頃の旅はもう少し簡単だった。安くて長く行けるところ。この間はイスラム圏に行ったから、次はヒンズー圏。国境を船で渡ってみたい。そんなふうに、旅先を決めていた。行った国が増えて行くほどに、次の旅先は…と念入りに考えるようになる。目が肥える、というか、経験が肥えるのだ。必定、「なんでそこに?」と思われるような旅先が増えるのだろう。
<了>

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