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重松清作品がきっかけで読書にハマった話

「実は僕、小説家を目指していたことがあったんですよ」
出版社に打合せに行った時、担当さんによくこの話をします。
僕はイラストレーターとして装画を担当させていただくことが多いので、出版社の中でも文芸や文庫の部署にお邪魔することが多いんですよね。担当さんとついつい話が弾んでしまいます。

僕は大阪芸術大学の音楽学科というところの出身なのですが、サークルは文芸サークルに入っていました。大阪芸大には文芸学科があったのでそこの学生が中心に在籍しているサークルでした。音楽学科から入る変わり者は僕ぐらいなものでしたけど。
当時の僕は小説の魅力に憑りつかれていて、読むだけじゃなくて自分でも書いてみたいと思っていたんですね。

そのきっかけになったのが重松清さんの「流星ワゴン」でした。
出会いはバイトをしていた古本屋さんです。
ちょうどその数日前にちちんぷいぷいという関西ローカルの情報番組で、西靖アナウンサーがこの本を紹介していたんですよね。それで本当になんとなーく読んでみたいなと手に取ったのがはじまりです。

持ってる重松作品、文庫編。
こちらは単行本。
全部というわけではないのですが一番所持している冊数が多い作家さんです。

正直、それまで僕は小説を読むタイプの人間ではありませんでした。
中学生の時に朝の10分間読書というものがあって、そこでちょっと読んでいたぐらいで基本的にはアニメとマンガと音楽が好きなオタクでした。

そんなわけで大学生の僕にとって大衆文学は新鮮で斬新でとても感動的なエンタメだったのです。ましてや出会いが感動の巨匠、重松清の作品です。
重いテーマを優しい文章で描く彼の世界に飲まれに飲まれて包まれて、終いには出てこられなくなりました。
僕は20歳にしてようやく小説ってこんなに面白かったのか!と気がついたのです。

その後「ナイフ」「エイジ」「舞姫通信」「きよしこ」「きみの友だち」「その日のまえに」「トワイライト」「カシオペアの丘で」「疾走」など、ものすごい勢いで読み漁ります。

「流星ワゴン」に出会ってから数か月で文芸サークルの門を叩きました。
よくもわるくもハマっちゃうと自分でもやってみたくなるタイプです。ミスチル聞いてミュージシャン目指したり、新海作品見て風景描こうと思ったり。影響されやすい性格なのは自分でもよくわかっているつもりです。

書いた小説は新人賞にも応募していたのですが、結果は箸にも棒にもかからずでした。大学卒業してからもしばらく書いていたのですが、働きながらあれこれするのは難しく、結局イラストが残って今に至るという感じです。

そんな経緯もあって今現在、イラストレーターとして自分が好きだった小説に関わることができているというのは、とても嬉しく感慨深いのです。
これからも素敵な作品と読者を繋げるようなイラストを描いていけたらと思います!

以前描いた流星ワゴンのファンアートです。
西島秀俊さんのドラマも面白かった。

最後に僕のおススメ重松清作品を3つご紹介します!

①「青い鳥」
僕の35年の人生で読んだ本の中でナンバーワンの小説です。言葉が上手く話せない国語教師、村内先生を主人公とする短編連載のお話になります。僕は最初のお話「ハンカチ」が特におすすめです。
普段僕たちが感じている「うまく言葉で言い表せない微妙な感情」って言葉にするとこういうことだ!って表現がいくつもあって心にすとんと落ちてきます。それがとても気持ちよくて登場人物と一緒に自分も救われたような気がする素晴らしい一冊です。僕の人生のバイブルと言っても過言ではありません!

②「少しだけ欠けた月」(季節風-秋-より)
季節風シリーズとして春から冬まで刊行された短編集の1冊。
特におススメしたいのが「秋」に収録されている「少しだけ欠けた月」というお話。はちゃめちゃにいいです。
とても短い静かなお話ですが、その中に切なさや寂しさ、だけどそれだけじゃない希望もちゃんとあったりで色んな感情がぎゅぎゅぎゅーっと詰まってます。こんな短いお話なのに、僕は読後に動けなくなりました。個人的にはこの「心臓掴まれて動けなくなるような読後感」こそ重松作品の最大の魅力だと思っています。

③「疾走」
たまーに出てくる黒い重松清の代表作です。暗くて重くて深くて登場人物も癖ありまくりのヤツらしか出てこない本作ですがそんな過酷な環境の中で一縷の望みを信じ手を延ばそうとする主人公シュウジに心を打たれます。重松清史上もっとも「切実」な作品ではないのかと思っています。文庫は上下巻に渡る長編ですが一気に読んでしまったことを覚えています。(写真にめっちゃ付箋貼ってるのは当時の僕はいいと思った表現や気になる箇所に付箋を貼りながら読んでいたのでその名残です)

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