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私とベルリン・フィルの密かな関係

この手紙が先日家に届いた。
以前年間コンサートプログラムの冊子をくれるというので、このサイトに住所を登録したからだろう。
今回は当サイトの12ヶ月視聴チケットを買ったら豪華プレゼントBOXがもらえるというお知らせだった。
豪華プレゼントBOXの内容は、ロックダウン後初めての演奏会、ベートーヴェンの室内楽作品。

とても魅力的。

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そう感じる私は、ベルリンフィルに特別な感情があるのだった。

当時私は小学校4年生。
通っていた小学校に「器楽同好会」なるものがあった。
アコーディオンを主とした合奏を楽しむ放課後クラブのようなものだ。
その会は4年生になったら入れるので、ピアノスキーな私は自然と入会した。
その会では1番下っ端な4年生にもかかわらず、初回からピアノを担当。
というのもピアノ以外にやりたい楽器がなく思うまま立候補し、多数決でそう決まったからだ。
当時は何も考えていなかったが、過去に例のないことだったらしい。
ありがたいことに6年生になって卒業するまでピアノを担当できた。
まぁ、その間何もなかったとは言えないのだが。

さて、本格的に始動した器楽同好会で先生が用意した曲は、

「ラデッキー行進曲」

だった。

この先生の面白い所は、小学生だからといって妥協しない所だ。
この曲の為なのかは分からないがこの曲の初めての練習日に、小学校で使う楽器群には見合わないサイズ感の素人目にも高そうなシンバルが現れた。
お猿が叩いていそうな可愛いシンバルもあるのに、それは堂々と置かれて異彩を放っていた。
年配の先生でカッコイイわけでもなくどちらかというと疎まれるタイプの先生だったが、歌うように話すテノールの声質は私の好きな感じだった。

その日、楽譜を配る前に視聴覚室に集められた。

そこで見せてくれたのが、ベルリン・フィルの演奏する「ラデッキー行進曲」だった。

大きなスクリーンに映し出されるベルリン・フィル。
華やかな服装に身を包んだ聴衆。
頬を赤く染めて全力で演奏する謎の西洋人。
汗だくで全身を使い指揮棒を振る謎の西洋人。
力強くも美しい大音量の音楽。
衝撃だった。
誰の指揮だったのかはわからないが、時代的にカラヤンだろう。

この時、私のように何人のいたいけな小学生の魂が抜かれただろう。

その証拠とも言えないが、その直後にこんなことがあった。

最初の合奏で私だけがイントロから全く合わない。
4小節ほどで指揮棒が止まる。

「ピアノ、合ってない」

何度そう言われたことか。
でも、私は楽譜通りに弾いているのだ。
ついに、今にもこめかみの血管がプチンと弾けそうな形相で先生がやってきた。そうして楽譜を覗き込んだ先生は間抜けな声をもらした。

「アレ?」

原因はすぐさま判明した。
楽譜は何枚かあるのだが、なんと1枚目が渡されていなかったのだ。

先生は決まり悪そうにいつもの柔和な表情に戻り、1枚目の楽譜をくれた。
私は音楽的に変だとは思ったが、それまで気がつかなかった。
疑うことを知らない性格だったのもあるが、やはりあの時相当な量の魂を持っていたかれたらしい。

この衝撃は時を経た今でも消えることはなく、この時私のオケの軸がベルリン・フィルになったのだ。

そんなわけで今でもこんなチケットが届く。

……ペトレンコか。

と思いつつ、心は傾き始めている。

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